食中毒


 「付けない」「増やさない」「死滅させる」

 毎年夏になると、食中毒が流行します。大体年間3〜4万人くらいの患者さんが発生しており、一向に減少する気配が見られません。
 また、食中毒の原因菌は時代とともに変化してきています。もともと日本人は魚介類を多く食べていましたので、魚介類に付着する腸炎ビブリオの食中毒が多くを占めていましたが、近年食生活の欧米化に伴い、乳製品、肉類、卵などの食材が増えるにつれ、サルモネラ菌や、カンピロバクターなどの菌が増加してきました。また、ボツリヌス菌や、病原性大腸菌O-157のような生命を脅かす菌も多く見られ、食中毒は要注意な疾患です。
 食中毒は夏に限らず、冬にも見られます。食中毒は予防できます。菌を、「付けない」「増やさない」「死滅させる」ことが3大原則です。

◆ 食中毒のおきるしくみ
・感染型:サルモネラ、カンピロバクターなど
 汚染された食品中にはいっている菌が体内で増殖し、腸炎を起こし、腹痛、下痢、血便などが見られます。

・生体内毒素型:腸炎ビブリオ、病原性大腸菌など
 体内に侵入した菌が毒素を発生します。菌により毒素は異なりますが、腹痛、下痢、発熱などが見られます。

・毒素型:ボツリヌス菌、黄色ブドウ球菌など
 食品内で増殖した菌が作り出す毒素を摂取することによって発症します。「感染症」と言うよりはまさに、「中毒症」です。神経症状がみられることがあります。

◆ 特に注意が必要な食中毒菌は、
サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、カンピロバクター、病原性大腸菌です。

:よくみられる症状 :より強くみられる症状

菌種 原因食品 潜伏期間 症状
血便 粘液便 水様便 腹痛 発熱 嘔吐 嘔気
サルモネラ 鶏卵、肉類 12〜72時間
腸炎ビブリオ 生食魚介類 6〜24時間
黄色ブドウ球菌 調理者を介在 1〜6時間
ボツリヌス菌 缶詰、瓶詰め
真空パック
6〜72時間
カンピロバクター 肉類 2〜7日
病原性大腸菌 加工食肉製品
井戸水
3〜5日
※ノロウイルス 飲食物 1〜2日

※ノロウイルスは、細菌ではなくウイルスですが、類似疾患として掲載しました。ノロウイルスについては急性胃腸炎を参照して下さい。

◆ 食中毒を防ぐには、「付けない」「増やさない」「死滅させる」の3大原則を守ることです。
そのポイントは、@.食材の購入、 A.家庭での保存、B.下準備、C.調理、D.食事、E.残った食品、の6点です。

@.食材の購入
新鮮な食材を選びましょう。消費期限を確認しましょう。生鮮食品は最後にかごに入れましょう。
・肉類や魚などは水分が漏れないように、ビニール袋にそれぞれ分けて包みましょう。
・買い物が終わったらさっさと帰りましょう。

A.家庭での保存
・缶や瓶は拭いてから、冷蔵庫に入れましょう。食品の長期保存はしないようにしましょう。
・冷蔵庫、冷凍庫の詰めすぎに注意。目安は7割程度です。
・冷蔵庫は10度以下、冷凍庫は−15度以下に維持しましょう。細菌の多くは10度では増殖がゆっくりとなり、−15度では増殖が停止します。しかし、細菌が死滅するわけではありませんので冷蔵庫を過信せず、早めに調理しましょう。
・肉類や魚などは容器に入れて、他の食品に直接触れないようにしましょう。

B.下準備
台所は清潔ですか→ゴミは捨ててありますか?。タオルやふきんは清潔なものと交換してありますか?。石けんは用意していますか?。調理台の上はかたづいていますか?。
井戸水は使わない方がよいです。
・手を洗ってから調理しましょう。途中でトイレに行ったり、赤ちゃんのおむつを替えたり、鼻をかんだりしたら、すぐ手を洗いましょう。
・汚れたふきんは漂白剤に一晩つけましょう。

C.調理
・洗える食材は全て流水で洗いましょう。
加熱調理が一番有効、食品の中心部まで加熱しましょう。(75度以上、1分間)
まな板、包丁はこまめに洗いましょう。特に、生肉、魚を取り扱った後には、洗って熱湯をかけてから、他の食品の調理に使いましょう。できれば、肉用、魚用、野菜用などと別々にそろえてあればベストです。
・生の肉、魚を取り扱った後には手を洗いましょう。
・冷凍食品の解凍は冷蔵庫の中や、電子レンジで行いましょう。室温で解凍すると菌が増えることあります。
・料理に使う分だけ解凍しましょう。解凍、冷凍は繰り返さないようにしましょう。

D.食事
・食卓に付く前に、流水で手洗いをしましょう。
・でき上がったら、すぐ食べましょう。
・調理後の食品を室温に長く放置しないようにしましょう。O-157は室温でも15〜20分で2倍に増えます。
・お弁当の中身は冷ましてから入れましょう。温かいうちに弁当のふたをしないようにしましょう。

E.残った食品
・食後は食器をすぐ洗いましょう。
・残った食品は早く冷えるように、浅い容器に小分けして冷凍保存しましょう。
・時間がたちすぎた食品は思い切って捨てましょう。
・チョットでもあやしいと思ったら食べずに捨てましょう。

◆ 食中毒にかかったなと思ったら、

@.早めに医療機関を受診しましょう。
 食中毒は時として重症化することもあります。また、周囲に感染を広げる場合もありますので、あやしいと思ったら早めに受診しましょう。受診する場合は吐物や、便などが診断の手がかりになりますが、持ち運ぶことによって、菌をばらまく心配もありますので、写メに記録して受診されればよいと思います。

A.お家でできること
 脱水は嘔吐や下痢(特に下痢)によって水分が失われるために生じますが、水分だけでなく多量の塩分も喪失しますので、厳密には「脱塩水症状」です。軽症の場合は、飲料の種類にこだわりませんが、お勧めの飲料は、やはり、「糖質控えめ、塩分多め」の「経口補水液」:OS-1、ソリタ顆粒です。

 経口補水液とは電解質(Na、Cl、Kなど)や糖質をバランスよく配合し、速やかに脱水症状を改善する飲料水です。いわば、【飲む点滴】です。「糖質控えめ、塩分多め」の組成になっているため若干塩味が強いです。市販されているイオン飲料は、糖質が多く塩分が少なめな製品が多く、経口補水液とてしては不十分ですが、最近は「糖質控えめ、塩分多め」の製品も販売されるようになってきました。

 OS-1の成分はNa 50mEq/L(115mg/dl)、K 20mEq/L(78mg/dl)、Cl 50mEq/L(177mg/dl)、糖質(ブドウ糖)2.5%(2.5g/dl)ですので、これに近い組成の飲料であれば良いと思います。

 自宅で簡単にできる「湯冷まし1リットル+砂糖40g(上白糖大さじ4と1/2杯)+食塩3g(小さじ1/2杯)」は、糖分や塩分がほどよい濃度で含まれていますので、病気の初期には適していますが、下痢が長引いてくるとK(カリウム)も不足してきますので、その場合はやはり経口補水液に切り替えた方が良いでしょう。

 下痢が続くと早く止めたいと思うでしょうが、チョット待って下さい。下痢は悪い菌を体外に出すために必要な作用でもあるんです。つまり、下痢の初期に下痢止めを使うと、菌が体内にとどまって逆に重症化することがあります。下痢止めの使用は医師とよく相談してからにしましょう。

 吐物や便の付着したところは、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)で拭いて下さい。衣服は家族のものとは別に洗って日光に当てて乾燥させて下さい。手は石鹸を使って流水でよくもみ洗いしましょう。

※細菌の画像は国際医学出版さんからご提供いただきました。ありがとうございます。