昨日は大寒でした。一年で最も寒い時期ですね。インフルエンザも流行が始まる頃です。と思っていたら、先週くらいからどんどんインフルエンザの患者さんが増えてきました。昨日は休日当番医でしたが、インフルエンザと診断した患者さん81名でした。まだ学校も始まったばかりなのに、スゴい勢いです。
今シーズンのインフルエンザは、新しい話題があります。それはインフルエンザの薬が一つ増えたということです。
昨シーズン終了間際に発売されたインフルエンザの新薬「ゾフルーザ」は、1回内服ですむというので、今シーズンのインフルエンザ治療の中心になるという話をよく耳にします。
前にも一度 、「インフルエンザの新薬:2018年3月18日(日)」でご紹介したお薬です。今、私たちの手元には、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ、そして、ゾフルーザと、インフルエンザに効く5つの薬があります。さて、どれを使おう?となりますよね。
患者さんにどのように薬を選んでもらうか悩みます。例えば、次のような感じかな。
医師:インフルエンザの薬は内服と吸入と注射の3種類あります。どれが良いですか?
患者さん:内服が良いです。
医師:1日1回飲むのと、1日2回5日間飲むのとではどちらが良いですか?
患者さん:1日1回が良いです。
医師:それでは、ゾフルーザにしましょう。
となりますかね。でも、これではどうも誘導してるように思います。内服と吸入と注射なら、やはり、内服が簡単でしょうし、1日1回飲むのと、1日2回5日間飲むのなら1日1回の方が楽ですよね。となると、みんなゾフルーザ?
先日観たテレビのワイドショーでは、今シーズンの抗インフルエンザ薬は殆どゾフルーザになるようなことを言ってましたが、チョット軽率じゃね?
そもそも、日本国内で、まだあまり使用されていないゾフルーザが、これだけ前評判が高くなったのは、おそらく「New England Journal
of Medicine」に掲載された論文による影響でしょう。
この中で、「ゾフルーザの特徴」として、いくつか紹介されていますが、主のものは以下の4つです。
①.熱が下るまでの期間が、薬を飲まない場合と比較して「1日」短くなる(タミフルとほぼ同じ)
②.他人に感染させてしまう期間が、タミフルよりも24時間~48時間短い。
③.ゾフルーザ投与患者の成人の約1割、小児の2割以上において熱が下がるまでの期間に、耐性ウイルスが出現している。
④.1回飲むだけですむ。剤形は錠剤(タミフルは1日2回で5日間)
それぞれ少し詳しくみていきますと、
①.は、既存の抗インフルエンザ薬とあまり差がありません。ゾフルーザ飲んですぐ解熱するという訳ではないようです。
②.は、ゾフルーザ内服した場合、ウイルスの検出期間は1日です。タミフルは2日ですので、これは評価できますね。周囲の人に感染させる期間が短くなると言うことは、集団での感染に歯止めがかかりますので、流行防止に役立ちます。
③.は、チョット問題あり。耐性ウイルスとは、ウイルスの性質が変わってしまい薬が効かなくなったウイルスのことです。(厳密には、全く効かなくなるというのではなく、効きにくくなるということのようです。)
ゾフルーザを内服していても解熱しないという患者さんは殆どこれでしょう。その患者さんは、「治癒までの期間とウイルス検出期間が長くなる」ということも報告されています。
これはおそらく想定外の事象でしょう。成人の約1割、小児の2割以上の確率で症状を悪化させるというのは問題です。さらに、耐性ウイルスは「他人に感染させる期間が長い」とも言われており、ゾフルーザを使用するにあたって、非常に悩まされる問題の一つです。
④.は、その通り、1回ですむならこれほど楽なことはないですが、小さなお子さん達は、錠剤を飲めますかね。ゾフルーザの写真を載せましたので、見て下さい。体重10kg~20kgまでは、10mg
1錠です。大きさは、直径5mmで五円玉の穴の大きさと同じです。近々、顆粒も発売される予定と聞いていますが、今のところは錠剤だけです。
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左側が10mg錠剤です。 |
キチンと飲めれば良いですが、吐いたらどうしよう?なんて思いませんか?聞くところによると、ゾフルーザ内服前に吐き気止めの薬を処方している医師もいるようです。なんと???吐き気止めなんてのは殆ど中枢性(脳神経系)に作用する薬ばかり、ただでさえ、神経症状の心配なインフルエンザに吐き気止めを処方しますかね?
ゾフルーザは既存の抗インフルエンザ薬が効かない場合や、新たな新型インフルエンザが登場した場合に処方されるような話もありましたが、普通に処方されています。
いろいろと、わかったふり?してお話ししたものの、私は、まだゾフルーザを4人しか処方していません。そのうち2人は最初からゾフルーザを希望してきました。
1人はタミフル内服後1日経って解熱しないため受診、そんなに具合が悪そうでもなく、もう1日待っても良いと思いましたが、保護者がゾフルーザを希望しましたので処方しました。翌日には解熱したようですが、どっちが効いたんでしょうね?
もう1人は昨日処方しました。前日にかかりつけ医でラピアクタを点滴しても解熱しないため当番医の当院を受診しました。確かに改善の兆しなく、一般状態やや不良でした。ゾフルーザについてご説明し処方しました。今日はかかりつけ医を受診するようにお話ししましたので、解熱したかどうかはわかりませんが、治ってくれると良いですね。
ゾフルーザはとても有効な薬と思いますが、まだ日本国内での使用症例が少なく、未知の部分が多いです。今のところ、今シーズンは希望者と既存の抗インフルエンザ薬が効かないような場合に限って処方しようかと思っています。今年は悩み多きシーズンになりそうです。
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