アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)をご存じですか

 アレルギー性鼻炎の治療は、環境整備(原因となる抗原を避けること)と、内服薬、点鼻薬、点眼薬などによる薬物療法が主体ですが、もう一つ、アレルゲン免疫療法があります。

アレルゲン免疫療法とは、アレルギーの原因となっているアレルゲンを少量から体内に投与することで、体をアレルゲンに慣らし、アレルギー症状を和らげたり、日常生活に与える影響を改善するなどの効果が期待される治療法です。

これまでのアレルゲン免疫療法は、医療機関で皮下に注射する「皮下免疫療法」だけでした。しかし、舌の下で治療薬を保持する「
舌下免疫療法」のお薬が登場し、自宅で服用できるようになりました。

今のところ、スギ花粉とダニの二つのアレルゲンに対する舌下免疫療法しかありませんが、環境整備や薬物療法で、あまり改善が見られない場合にはお勧めしたい治療法です。


 アレルゲン免疫療法とは

 アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因であるアレルゲンを少量から投与することで、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療法です。
 
1.アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる可能性のある治療法です。(症状が完全に抑えられない場合でも、症状を和らげ、お薬の使用量を減らすことも期待できます。)

2.治療は長期間(4〜5年)かかります。

3.すべての患者さんに効果が期待できるわけではありません。

4.アレルゲンを投与することから、局所や全身のアレルギー反応がおこるおそれがあり、まれに重篤な症状が発現するおそれがあります。

5.アレルゲン免疫療法には「皮下免疫療法」と「舌下免疫療法」があります。皮下免疫療法は、皮下に注射する治療法ですので、病院で行われます。注射ですから通院が必要です。一方、舌下免疫療法は舌下に治療薬を投与しますので、自宅で治療できます。便利な反面、服用方法、副作用に対する対応など、治療に対する患者さんの理解が必要な治療法です。


 

 アレルゲン免疫療法のしくみ

 皮下注射によるアレルゲン免疫療法は、すでに50年(一説には100年)以上前から行われています。舌下免疫療法はスギ花粉は2014年から、ダニは2015から保険適応となりました。皮下注射によるアレルゲン免疫療法も舌下免疫療法によるアレルゲン免疫療法も、現在のところどのようにして効果を発現するのか、そのメカニズムについては、まだ十分に解明されていませんが、一つの仮説を提示します。

 まず、アレルギー性鼻炎の発症のしくみからみていきましょう。

 アレルギー性鼻炎では、体内に入ってきた抗原(スギ花粉やダニなど)が、免疫細胞に認識され、それぞれの抗原に対する抗体が作られます。(この状態を感作された状態といいます。)こうしてできた抗体を特異的IgE抗体といいます。特異的という意味は、スギ花粉ならスギ花粉とだけ、ダニならダニとだけ、しか反応しないという具合に<反応する相手が決まっている>抗体という意味です。

 特異的IgE抗体は、マスト細胞という細胞の上に乗っています。体外から侵入してきた抗原がこの特異的IgE抗体にくっつくことにより、アレルギー反応が始まるのです。これを抗原抗体反応といいます。下図をみて下さい。抗原が特異的IgE抗体と反応すると、異物が入ってきたというメッセージがマスト細胞に伝わります。するとマスト細胞は破裂して、多くの有害な化学伝達物質(ロイコトリエン、ヒスタミンなど)を放出します。この化学伝達物質が、鼻粘膜を刺激することによって、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のようなアレルギー性鼻炎の症状を発現します。

 

 ところが、アレルゲン免疫療法で少しずつ抗原を体内に入れていくと、特異的IgE抗体ではなく、IgG抗体という別の抗体が作られます。このIgG抗体は、抗原が体内に入ってきた時に、抗原より先に特異的IgE抗体にくっつきます。つまりIgG抗体は、抗原と特異的IgE抗体との結合を妨げる事により、アレルギー反応をおこさないように働いてくれるのです。(下図をみて下さい)


 舌下免疫療法を、お勧めしたい方 

 スギ花粉が原因の春に症状が見られるアレルギー性鼻炎(スギ花粉症)と、ダニが原因の1年中症状が見られるアレルギー性鼻炎(通年性アレルギー性鼻炎)が舌下免疫療法の適応です。

 スギ花粉症であれば、症状が出現する季節だけの治療で十分です。しかし、いくら薬を飲んでも、点鼻しても、点眼しても症状が改善しない場合もあります。それが毎年続きます。また、通年性アレルギー性鼻炎のように季節に関係なく、1年中症状が見られる場合には、いつの間にか悪い状態に慣れてしまい、あまり自覚症状を訴えなくなってきます。特に鼻閉がそうです。これまた、せっせと病院通いを続ける割にはあまり効果が見られません。
 
 原因が、スギ花粉でもダニでも、アレルギー性鼻炎は、自然治癒が殆ど期待できません。また、長い年月にわたり、お薬を続けてもあまり効果が見られません。舌下免疫療法は体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療法です。アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる可能性のある治療法です。

 舌下免疫療法は、軽症〜重症まで重症度に関わらず行うことができます。どなたでもできますが、特にお勧めしたいのは次のような方々です。

1.薬の効果があまりみられない方。

2.薬(内服、点鼻、点眼など)の種類が多いので、少しでも減らしたい方。

3.受験を控えているお子さんや学生さん。

4.将来的に妊娠を計画している方(妊娠でアレルギーは悪化する事が多い)

5.業務上、抗ヒスタミン薬(眠気が出やすい薬)が使いにくい方。


 舌下免疫療法は、次のような要領で行います。 

・スギ花粉もダニも同じように、1日1回、治療薬を舌の下に置き、シダキュア、ミティキュアは1分間、アシティアは2分間保持した後、飲み込みます。その後5分間はうがい、飲食を控えます。
・治療薬は少量から服用し、一定量まで増量します。その後は一定量を4〜5年間毎日続けます。


スギ花粉の治療(シダキュア)スケジュール 

 服用スケジュール   服用量    
 1日目 2日目   3日目 4日目 5日目   6日目  7日目
 1週目
2.000JAU:舌下錠1錠
1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠
 2週目以降
5.000JAU:舌下錠
1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠


ダニの治療(ミティキュア)スケジュール

 服用スケジュール   服用量    
 1日目 2日目   3日目 4日目 5日目   6日目  7日目
 1週目
3.300JAU:舌下錠1錠
1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠
 2週目以降
10.000JAU:舌下錠
1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠 1錠


ダニの治療(アシティア)スケジュール

 服用スケジュール    服用量    
初回投与 漸増期   維持期
    1日目 2日目   3日目  4日目〜    
100単位:1錠 200単位:1錠 300単位:1錠 300単位:1錠
    症状により漸増期を延長することがあります。   


・治療を受けることのできる年令はスギ花粉、ダニともに制限がありませんが、一般的には5才以上です。

・スギ花粉とダニを同時に行うことは原則できませんが、どちらか一方で開始し、状態が安定してくれば併用可能です。

・開始時期は、スギ花粉はスギ花粉が飛んでいる時期(1月〜5月)を避けて、6月から12月頃までに開始します。ダニは、いつからでも始められます。


 舌下免疫療法を始める前に、確認しておきたいこと〜継続するためには、本人の強い意志が、必要です。〜

 まず、初診時に、問診や血液検査などによって、スギ花粉症やダニによるアレルギー性鼻炎であることを確認します。当日は舌下免疫療法の具体的な説明をして、治療は次回より開始します。

 初回の舌下投与は、院内で行います。当院は院外処方ですので、患者さんは一度薬局に行って、もう一度院内に戻ることになります。また、投与後30分間は院内で経過観察します。そのため、はじめて舌下免疫療法を行う日(初診時の次の受診日)には、診療後1時間くらいはかかりますので、時間の余裕をもって来院して下さい。午前午後ともに診療終了間際の受診では行うことができません。午前であれば10時までに(土曜日は10時45分までに)、午後であれば4時までに予約して下さい。(土曜日はインフルエンザワクチン接種時期やインフルエンザ流行期などは行っておりませんので、ご注意願います。)

1.長期間の治療(4〜5年)であり、治療薬の服用は毎日(1分間~2分間)続きます。自宅で行う治療ですので、服用量、服用方法、副作用に対する対応などについて患者さん自身がしっかりと理解していることが必要です。

2.少なくとも1か月に1回の通院が必要です。

3.始めたらすぐに効果のでる治療ではありません。効果がでるまで3か月〜数か月必要です。だいたいは開始後1年くらいして徐々に効果が高まっていくと思って下さい。

4.有効率は80%くらいです。すべての患者さんに効果を示すわけではありません。また、効果があって終了した場合でも、その後効果が弱くなる可能性もあります。

5.開始後1か月くらいは、口の中や喉の刺激感、かゆみ、違和感や耳のかゆみなどの副作用が見られることがありますが、殆ど軽快します。また、極めて稀ですが、アナフィラキシーをおこす可能性があります。気管支喘息がしっかりと治療されていない場合、アナフィラキシーショックを起こすような食物アレルギーの既往がある場合、アレルギー検査で多項目陽性の場合などは、注意が必要です。

6.妊娠中、または、近々妊娠予定のある方。重症の気管支喘息のある方。心臓病のためβブロッカー(インデラル、セロケン、アーチスト、など)を服用している方。ステロイドなどの免疫抑制剤の全身投与(内服、注射)をされている方は、舌下免疫療法ができません。


 もっと詳しく知りたい人のために

トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ:鳥居薬品株式会社

ダニによるアレルギー性鼻炎に関する情報サイト:塩野義製薬株式会社