診察室便り

2013年12月31日(火)
感染症の迅速診断キット

 歌の文句ではありませんが、もう少しで今年も終わりですね。幸いインフルエンザもノロウイルスも大きな流行はみられず、穏やかな年末になりました。

 来年の4月で開業18年になります。病院勤務の頃と比べるとあまり高度な医療をしているわけではありませんが、この年月を振り返ってみると、診療内容にいろいろな変化があったように思います。

 医学の進歩はめざましく、私たちは多くの恩恵を受けてきました。しかし、単純に喜んでばかりいられないようなこともあります。今から14年前にインフルエンザの迅速診断キットが発売されました。それまでは症状や周囲の流行状況を頼りに、インフルエンザの診断をしていたわけですが、迅速診断キットの登場により、即座に、かつ正確にインフルエンザの診断が出来るようになりました。

 この年以降に医師になった方々にはピンとこないかもしれませんが、自分の目の前にいる患者さんに対して、はっきりとインフルエンザと診断することに驚きと感動を覚えました。そして、翌年には抗インフルエンザ薬としてリレンザが、翌々年にはタミフルが発売され、インフルエンザの治療は劇的にかわりました。それまでは、二次感染予防として処方した抗生物質は不要になり、インフルエンザと診断がついた患者さんだけに抗インフルエンザ薬を処方すればよくなりました。

 現在ではRSウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、マイコプラズマ、溶連菌なども、迅速診断キットで即座に診断が出来るようになってきました。しかしながら、一方では、あまりに病原菌を調べることにこだわりすぎてきたようにも感じます。

 治療する上で、原因菌を確認することは大いに役に立ちます。例えば、発熱が続いてのどが赤い様なお子さんの場合、溶連菌なら抗生物質が必要です。しかし、アデノウイルスなら抗生物質は不要です。また、気管支炎や肺炎が疑われる場合、マイコプラズマとそれ以外の菌では使用する抗生物質が異なります。この様に迅速診断キットのおかげで、その場で適切な治療を選択することが簡単にできるようになりました。

 ところで、最近は病名にこだわる保護者が多くなったように感じます。いわゆる、「検査のための受診」です。保育園や幼稚園から調べてもらって下さいと言われて受診する人も多く見られます。同じ疾患でも軽症から重症まで範囲は広いです。また、検査結果は100%正確に出るものでもありません。病名よりも重症度に重きを置くべきと考えますが、病名にこだわる人は多いです。

 病名を重視する風潮は、感染防止に対してどの様な役割を果たしているのでしょうか?いわゆる「移る病気=感染症」には、出席停止期間が定められています。感染拡大防止という観点からは、感染力がなくなるまで休むように義務づけられています。しかし、感染症には軽症から重症まであり、また感染しても症状が見られない不顕性感染もあります。となると、単に検査で陽性の子だけを休ませてもどれだけの感染予防効果があるのでしょうか?

 先日受診したお子さんは嘔吐下痢が頻回にあり、元気がないようでした。周囲でノロウイルスが流行っているというので検査したら陰性でした。ノロでなければ保育園に行けると思ってたようですが、一般状態が悪い場合はお休みするようにお話しました。

 登園(登校)出来るかどうかだけを決めるような迅速診断キットであってはならないと思います。現在の症状をみて、検査結果を参考に、登園(登校)の可否や治療方針が決まっていくものと思います。

 今後も感染症関連の迅速診断キットは増えていくと思います。検査結果をどの様に判断し活かしていくのか、そろそろ検討すべき時期になってきたように思います。

2013年12月22日(日)
ノロウイルス検査は必要?不要?

 今年も、いろいろな感染症が流行る時期になりました。今は、感染性胃腸炎(急性胃腸炎)~いわゆる、お腹のカゼ~が、多く見られます。秋~冬にかけて流行るのがノロウイルス、冬~春にかけて流行るのがロタウイルスです。

 ノロでもロタでも、またその他のウイルスでも症状は大体同じですし、治療法も同じです。特効薬もないため、整腸剤や経口補水液による対症療法が主体です。

 毎年、この時期になると、「ノロの検査をしてほしい」といって、受診される患者さんがよくみえます。ノロの検査は必要?インフルエンザや溶連菌なら、検査して陽性なら必要な薬を処方できますが、ノロとわかったところで、治療法がかわるわけではないので、ノロの検査は不要?ということになりますかね?

 自分もどちらかというと検査不要派です。検査するもしないも対策に影響しない検査は、資源、時間、労力の浪費です。何か対策を取っていると言うポーズ作りにすぎません。
 
 また、一般の診療所で行われている検査は、保険適応が3才未満と65才以上に限られています。さらに、実際にノロに罹っていても6割くらいしか陽性にはでません。残りの4割はノロウイルスに感染しているにもかかわらず陰性です。
 ちなみに、時々新聞紙上で見る保健所で行う検査はかなり精度が高く信頼できます。ただ、保険適応外ですので5000円くらいかかります。それでもこの料金は以前よりだいぶ安くなっています。というわけであまり検査はしていません。

 しかし、時々検査が必要と思うこともあります。例えば、老健や病院のような施設内感染の第一例を診断することは意義があると思います。仮に陰性にでても、同様の症状の人が多く見られるなら、積極的に検査すべき思いますし、保健所に依頼しても良いでしょう。ノロかもしれないと思えば、感染症対策もしっかりと行われると思います。
 同様に、基礎疾患を有する患者さんの場合も検査した方がよいと思います。ノロウイルスは決して重症なウイルスではありませんが、高齢者では嘔吐による誤嚥性肺炎を起こすこともあります。

 つまり、ノロであるかノロでないかを気にするのでなく「感染性胃腸炎」の重症度を見極めながら一人一人の患者さんに対応することが大切だと思います。

 ところで、「いつから保育園に行っていいですか?」と聞かれることがあります。ノロやロタは下痢がおさまっても数週間は便に出続けることが多いです。となると、具体的な期間を決めるのは難しいですよね。健康なお子さんには、「最低限、吐かなくなって、食べられること。下痢は頻回にみられるので、それを人(保育園の保母さん)に任せても良い程度なのか?」などを確認してから登園するようにお話ししています。

 ときどき、飲食業関連の方から診断書を求められると困ってしまいます。ある先生(岩手県外の先生です)は、ノロが陰性の時には、診断書に、病名:感染性胃腸炎「迅速検査結果は陰性である。しかし、この結果はノロウイルス感染症の可能性を否定するものではない。」と記載するそうです。この文面でわかるのかしら?と思いますが、ちょっとネ~。

 ノロの検査については、賛否両論ありますが、次のように考えています。

①.ノロとわかっても治療は対症療法のみ。
②.ノロでないと判定されても、偽陰性(ホントは罹っているのに検査には出ない状態)も多い。
③.ノロであってもなくても、症状が強い場合には「感染症対策」が非常に重要。特に施設内発生においては注意深い経過観察が大切です。
④.職場からノロの判定を求められることが増えていますが、ノロでなければ感染症対策が必要なしと判断される心配があります。そうなると検査はむしろ有害かもしれません。
⑤.あくまでも「感染性胃腸炎」として、その重症度を見極めながら対処することです。

2013年12月8日(日)
そろそろインフルエンザ

 12月になってだんだん寒さも増してきました。厳しい季節の始まりです。ある程度寒くなってくると、体も慣れてくるせいかあまり気にならなくなりますが、それまでの間、けっこうしんどいですね。

 最近、外来が大変混み合っています。インフルエンザワクチンを接種される方が11月~12月に集中しますので、やむを得ないことと思っていますが、やっとインフルエンザワクチン接種のピークが過ぎてきました。1回目接種する人より2回目接種する人の方が増えてきましたので、次第に混雑も解消されるでしょう。

 毎年のことですが、午後3時以降が大変混み合います。それに比べると、午前の診療はまだ、少し余裕があります。出来るだけ午前中に受診していただければ待ち時間も少なくて済みます(とは言え、通常よりは長いです。しかし、午後よりは短いです。)

 当院周辺ではまだ、2人しかインフルエンザの患者さんはおりません。出足の遅い今シーズンのインフルエンザと思っていましたが、岩手県でも流行の兆しが見えてきたようです。県の発表では、釜石(釜石市、大槌町)、中部(花巻市、北上市、遠野市、西和賀町)でインフルエンザが流行してきたようです。

 また、全国的にも11月18日~24日にかけてインフルエンザの患者数は1319人と、今季初めて1週間で1千人を超えました。学級閉鎖も出始めています。首都圏では、埼玉、千葉、東京、神奈川の4都県では306人と前週から倍増。滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の近畿6府県では85人で前週から8人増えました。九州・山口では前週の約3倍の161人が報告されています。

 本格的な流行は年明けからでしょうが、「備えあれば、憂いなし」です。ワクチン接種は年内にすませるようにしましょう。

2013年11月19日(火)
子どもの糖尿病

 先週末は冷え込みましたが、今週はちょっと寒さも和らいできました。今日は雨降りですね。これからは一雨ごとに寒くなり、冬将軍が到来します。

 今日は、高知県と和歌山県から転居されてきたお子さんを診ました。親御さんも寒い地方での生活を心配されているようでしたが、大丈夫、【住めば都】です。時間がある時は、“二度泣き橋”(2010年3月22日の診察便りをご覧下さい)のお話しをするのですが、今日は時間に余裕がなかったので、冬場の車のお話しをしました。

 テレビのコマーシャルでは、凍りつくような雪面でも、ブレーキをかけると、ピタッとタイヤが止まります。雪国のドライバーなら誰でも知ってることですが、こんなにピタッと止まることはないですよね。マア、確かにタイヤは止まるでしょうが、そのまま車はスリップしてあらぬ方向へ迷走してどっかにぶつかって止まるわけです。

 「タイヤは止まるけど、車は止まらない。」のです。雪道では、徐行運転しましょうというお話しをしました。ほとんど医療とは関係ない話ですが、初めて雪国に来る人達には、是非、お話ししておきたいことです。

 先日、子どもの糖尿病について、少し触れたところ、早速お問い合わせのメールをいただきましたので、ご紹介します。

 R.Tさんからの


 いつもお世話になっております。
 
 11月17日の診察便り「糖尿病」を拝見しました。子供も糖尿病になるようですが、どのような症状が現れるか教えていただきたくメールしました。

 息子ですが、最近よくのどが渇きトイレの回数が多いので、もしかしたらと心配です。もし検査が必要な場合。どのような検査をするのでしょうか?

 お忙しいところ申し訳ありませんが、ご返事いただければ嬉しいです。

 宜しくお願いします




 メールありがとうございます。

 子どもの糖尿病は決して多いわけではありませんが、最近少し増えてきているようです。これは、食習慣や運動不足などが影響していると思います。

 糖尿病には1型と2型の2種類あります。インスリンの量が不足している場合を1型糖尿病、インスリンの働きが悪い場合を2型糖尿病といいます。

 従来、子どもは、1型が多いとされていましたが、現在は、1型も2型も同様に見られます。
 15才未満では1型の割合が高く、乳幼児にもみられますが、10才から15才の間に発病のピークがあります。
 ふつう、子どもの糖尿病という場合には、1型をいいますが、最近は、2型が中学生や高校生にも多く見られるようになってきました。

 1型は、ウイルス感染などがきっかけとなって、免疫の異常が生じ、急激に発症します。例えば、肥満していない子どもが急にやせてくる。水をよく飲む。トイレが近くなった。夜尿が増えた。などの症状が多くみられます。
 2型は、大人と同じく無症状の場合が多く、学校検尿などで、偶然発見されることもあります。また、1型同様に、肥満児が急激にやせてきて、2型と診断される例もあります。

 糖尿病の検査は、尿糖や血糖値を調べることから始まりますが、尿糖が出ただけでは糖尿病ということはありません。血糖値は一般に空腹時血糖を測定します。

 お子さんの場合、「最近よくのどが渇きトイレの回数が多いので、」とありますので、まず、尿糖だけでも調べておいた方がよいと思います。

 では、お大事にして下さい。

2013年11月17日(日)
糖尿病予防

 寒さとともに、先週くらいからインフルエンザワクチンを接種する人が増えてきました。例年11月はインフルエンザワクチンで大変外来は混み合います。特に午後3時以降に集中することが多く、意外と、午前中はあまり忙しくないです。出来るだけ午前中に受診していただければ、待ち時間は(午後よりは)短いですよ。

 昨日、岩手県医師会館で一般市民向けの糖尿病予防の講演会(市民公開講座)がありました。子どもでも糖尿病になることはあります。決して多くはないですが、1年に1人くらい受診することがあります。血糖値のコントロールが必要な場合がほとんどですので、総合病院に紹介することになりますが、食事療法がきちんと行われていると血糖値も安定して普通の日常生活がおくれます。昨日の講演会は、成人の糖尿病について、特に食事療法についてでした。

 私は、今のところ、糖尿病の心配はありませんが、甘いものは決して嫌いな方ではありませんし、運動不足ですし、食事は短時間に、アッという間に食べてしまうので、かなり、ハイリスクではあります。というわけで、これからの食生活の参考にしようと思って拝聴してきました。

 講師は岩手医大栄養部の大須賀志穂 先生と、帝塚山学院大学教授の津田謹輔 先生という方でした。普段からよく耳にすることをわかりやすくお話ししていただきました。

 「カロリー減らす=糖質減らす」と思いがちですが、ご飯やパンなど炭水化物を控えて糖質を制限する「糖質制限食」については、「勧められない」とお話しされていました。

 つまり、糖質制限によって減少したカロリーをタンパク質と脂質から摂取することになるわけですから、今度はタンパク質や脂肪の摂取量が増えてしまいます。それによって、腎機能を悪化させたり、動脈硬化を促進させて心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めたりする恐れがあると指摘されました。

 最終的には「バランスの良い食事」ということになりましたが、わかっているようでも、実際に「バランスの良い食事」は、難しいですね。自分の場合、甘いものは控えて、少し運動して、ゆっくり食事をとるようにすることから始めてみます。

2013年11月4日(月)
休日当番日

 11月に入り、寒さも一段と増してきた感じです。昨日は休日当番日でした。昨年は11月4日が当番日でしたので、大体、毎年同じ時期に順番がやってくるようです。

 10月下旬頃から、カゼの患者さんが増えてきました。今、流行中のカゼの特徴は、「発熱」ですね。昨日もほとんどの患者さんが発熱を訴えて受診してきました。まるで、インフルエンザが流行してるみたいでした。

 盛岡市内もそろそろインフルエンザの患者さんが見られるようになってきましたので、何人か検査してみましたが、インフルエンザの患者さんはいませんでした。東京や大阪のような大都市圏でも、まだ、流行していないようです。東北地方では、宮城と青森が少し増えているようです。

 昨日は、RSウイルス感染症の患者さんもたくさん受診しました。今年はRSの当たり年で、全国で流行しています。岩手も例外ではないですね。乳児がRSに罹ると、重症な急性細気管支炎や肺炎になり入院する場合が多いです。

 RSの主な症状は呼吸不全です。同じRSでも、1才くらいになると、呼吸症状は少し緩和された感じがします。そのかわり、発熱が続くことが多いようです。RSの検査は昨年から保険適応(1才未満)になりました。今までは喘息様気管支炎といわれていた患者さんの中にはけっこうRSも含まれていたのでしょう。昨日は、2ヶ月と4ヶ月の赤ちゃんを二次輪番病院に入院紹介しました。

 私は入院必要(と思われる)患者さんには、二種類の紹介状を用意しています。一つは、今すぐ入院必要な場合の紹介状。もう一つは、今すぐ入院必要ではないが、今後症状が悪化したら、受診する時に持って行く紹介状です。

 RSの場合、昼は元気に見えても夜間に呼吸状態が悪化することがよくあります。そのような場合に、あわてなくて済むように、前もって紹介状を書いてお渡ししています。昨日は、二種類の紹介状をそれぞれ二通ずつ書きました。後者の紹介状が不要になっていればいいです。
 
 まだまだ、RSの流行は続きそうです。赤ちゃんのゼーゼーと幼児の長引く発熱は要注意です。

2013年10月24日(木)
久々にカゼをひきました。

 最近冷え込んできましたね。発熱、喘息発作、嘔吐下痢などなど、いろいろな病気が流行ってきました。さらに、インフルエンザワクチン接種も始まり、小児科外来もにぎわってきました。
 
 私はめったにカゼなどひかないのですが、一昨日からちょっと喉が痛くなりました。この頃よくみる「喉の赤い、熱の出るかぜ」のようです。発熱は全くなく、痛みはすぐひけましたが、今日はチョット声が出ません。声が出ないだけで他は何ともないのですが、やはり、診療に影響します。今日はマスクをしながら診療しました、マスクをしている自分を見るのは珍しいとみえて、患者さんからも、「先生もカゼをひいたんですか?」と、聞かれました。マア、たまにはひきますよ。

 マスクの効果は、ウイルスの飛び散るのを防いだり、喉や鼻腔の保温・保湿をして、冷たい空気の刺激を和らげてくれます。どうもマスクをすると話しにくくなるのですが、エチケットとしても大事ですね。

 自分がカゼをひいた時は自分でカゼ薬を処方するわけですが、殆ど漢方薬です。普通は、咳をすれば咳止め、熱が出れば熱冷ましという処方が多いと思います。

 しかし、咳は体内の異物(痰など)を排出するために必要な作用ですし、発熱も体内に入ったバイ菌をやっつけるために必要な作用です。ということは、普通の咳止めや熱冷ましはあまり使わない方がよいのでは・・・?ということになりますが、ケース・バイ・ケースで、使った方がよいこともあります。

 ところで、漢方薬の場合、症状を抑えるという作用はあまりなく、むしろ、体内の抵抗力を強める働きがあります。力ずくで抑えるのではなく、自然治癒力に期待して病気を治していくということです。何となく、漢方薬の宣伝みたいになりましたが、いいことばかりだけでもなく、漢方薬は味がイマイチです。自分は気になりませんが、小さいお子さん達は、なかなか飲んでくれません。普段から甘い味に慣れているからかもしれませんが、子どもにも飲みやすい漢方薬が出来ればいいですね。

2013年10月12日(土)
インフルエンザワクチン

 この頃、暑くなったり、寒くなったり、天候不順です。そのせいか、カゼやら、喘息発作やら、体調不良で受診されるお子さんが増えてきました。特に、保育園、幼稚園では欠席者が増えているようです。

 今年もまた、インフルエンザワクチンの季節になりました。毎年のことですが、出来るだけ年内に接種を済ませるようにして下さい。最近の流行状況を見ていると、10~11月には済ませておいた方が良いように思います。

 今日は、インフルエンザワクチンの接種時期についてご質問を受けましたので、ご紹介します。

 Y.Sさんからの


 いつもお世話になっております。H.Sの母です。インフルエンザワクチンについて教えていただきたくメールしました。毎年流行するといいわれているインフルエンザですが、今年の予想はどうでしょうか?また、ワクチンを接種するのは早いほうが良いのでしょうか?あまり早く接種してしまうと、流行した時に効果がなくなっているので、あまり急がない方がよいとも聞きます。

 お忙しいところ申し訳ありませんが、ご返事いただければ嬉しいです。宜しくお願いします。




 メールありがとうございます。

 今年のインフルエンザの流行状況については、今のところ、はっきりした情報はありません。最近では、沖縄で9月にインフルエンザが見られました。ここ数年なぜか、沖縄ではインフルエンザが夏場によく見られるようになってきましたが、大きな流行にはなっていません。また、静岡県でも9月に今年初めてとなるインフルエンザによる学級閉鎖がありましたが、これも流行するには至っておりません。岩手県内でも少し患者さんは出てきてるようですが、まだ、パラパラという状況のようです。

 今年のインフルエンザの流行規模を予測することは難しいですが、よほどの新型でも出現しない限り、いつもの年と同じ程度の流行~小規模な流行がダラダラと長く続く~が、予測されます。

 現在は、インフルエンザの診断は容易になり、治療薬もあり、また、早期の学級閉鎖によって昔のような大流行になることは殆どなくなりました。マスコミが大流行などと報道することもありますが、検査も薬もない時代の大流行を経験してきた小児科医としては、騒ぐほどの規模ではないというのが実感です。

 しかし、免疫を持っていない人は、いずれ罹ってしまいますので、ある程度流行が続かないと終息しません。そういう意味でも早めにワクチンを接種して免疫を作っておくことが大切です。

 ワクチンを接種しても、免疫ができるまで2週間かかります。2回接種だと、1回目と2回目の間隔は2~4週間ですので、仮に今日1回目のワクチンを接種しても、免疫が出来るのは、今から4~6週間後ということになります。出来た免疫は5~6ヶ月は持続します。

 もう既にインフルエンザの足音が聞こえて来ています。出来るだけ、10~11月中、遅くとも年内には済ませておいた方がよろしいです。

 盛岡市、及び周辺町村では、21日からインフルエンザワクチンの助成金が交付されますので、それからでも良いかと思います。では、お大事にして下さい。

2013年9月29日(日)
RSウイルス感染症流行の兆し

 9月も半ばを過ぎたら、朝晩涼しくなってきました。もう秋ですね。昨年はまだ暑かったように思いますが、今年は例年通りです。

 毎年、冬になると流行るRSウイルス感染症が、今シーズンはもう流行が始まっています。RSウイルスは年長児や成人が罹ってもあまり重症になることはないのですが、赤ちゃん、特に生後半年くらいまでの赤ちゃんが罹ると急性細気管支炎というとても重症な気管支炎になってしまいます。

 多くの場合、ゼイゼイ、ヒューヒューのような呼吸音が聴取され、呼吸困難が強いため入院治療が必要になります。先週も数人、RSウイルス感染症から急性細気管支炎になった赤ちゃんを入院紹介しました。最年少の赤ちゃんは生後3週でした。

 このとんでもないRSウイルスには、医学の進んだ現在でも治療法が確立されていません。ワクチンもありません。唯一、予防できる薬がシナジス(RSウイルスに対する抗体)という注射(筋注)ですが、保険適応となる対象者が、早産児、慢性肺疾患を持つ小児、先天性心疾患を持つ小児、ダウン症などに限られており、誰でも接種できるというわけではありません。以上の疾患以外の患者さんがシナジス投与を希望した場合、投与することは可能ですが、その費用は全額自費となります。

 少しくらいお金がかっても予防できれば良いと考えますが、問題になるのがシナジスの費用です。シナジスの投与量は患者さんの体重で決まります。細かい計算式は省略しますが、赤ちゃんが注射する場合、体重約3kg超だと、シナジス50mg(1バイアル)必要です。1バイアルなら安いかなと、思いきや、シナジス50mg(1バイアル)は、76.987円します。そんな高い薬ってあるの?ですよね。でもあるんですね。

 保険適応になる場合の窓口負担はこの金額の約2割です。さらに乳幼児医療費支給制度がありますので、この制度の対象となるご家族の場合は、後でこの窓口負担分も還付されることにはなります。

 とは言え、シナジスは毎月1回、冬~春先にかけて注射しなければならず、長い場合だと、6ヶ月間行います。6回もシナジス投与を行うとなると、一時的な出費でもばかになりません。それに、この金額は体重約3kg超の赤ちゃんの場合です。月令が進むと、体重は増えてきます。当然、薬の量も増えます。

 生後3~4ヶ月ともなると、体重は6~7kgになります。となると、シナジスは50mgの倍量:100mg必要なります。費用も倍になって153.974円です。これが毎月かかるわけです。さらに、1才ともなれば体重は10kgくらいですので、必要な投与量は150mgとなり、毎月約24万もの費用となります。

 いくら保険適応で2割負担で良いといっても、乳幼児医療費支給制度の対象でない家族や、また、ある程度年収が良かったとしても、毎月数万円もの出費が出ることに対して抵抗がないはずがありません。さらに、保険適応とならない場合は、もはや完全に金銭的な問題で投与が不可能となります。毎月8万~24万の出費が可能な家庭など、そうはいません。

 シナジスは効果のある良い薬とはいえ、投与適応と費用の問題が大きな課題です。となると、予防法は、とにかくRSウイルスに感染した人のそばに行かないことです。保育園のような集団生活の場では、急性細気管支炎が発生したら、流行がおさまるまでは休園した方がよいです。現実には難しいかもしれませんが・・・。

2013年9月17日(火)
院内リフォーム

 9月14~16日の三日間かけて、院内のフローリングの張り替え工事をしました。開院当初は、きれいなフローリングも、月日とともに劣化し汚れも目立ってきました。

 待合室のフローリングは数年前に改修しましたが、今度は、診察室、処置室、事務室など広い範囲に渡り改修しました。ついでに中待合室や玄関のクロスも張り替えました。中待合室のクロスは、どうしても汚れやすく、たびたび補修していましたが、そろそろ限界でしたね。もう一つ、シューズボックスも新品に換えました。夏場はあまり不自由を感じない玄関ですが、冬場はとても混雑します。特に長靴~ブーツは置き場がなく収納できず、脱ぎっぱなしという状況でしたので、今度はロングブーツも収納できるスペースを作りました。

 本当は、玄関を大きくするようなリフォーム工事をしたかったのですが、工期の日数が長くかかるため、断念しました。マイナーチェンジですが、少し環境がよくなったと思います。

 今年も八幡様のお祭りを見てきました。城下町盛岡を彩る秋祭りです。今年のお祭りは連休でしたので、多くの人出が期待されたと思いますが、残念ながら、台風のおかげでイマイチ盛り上がりを欠きました。このお祭りが終わると、本格的な秋の訪れを感じます。

 9月~10月は喘息発作の多い季節でもあります。夜間冷え込んだ時は要注意です。毎年発作を起こすようなお子さんは予防治療しましょう。いつもお話ししていることですが、「喘息は発作を起こしてから治療するのではなく、発作を起こさないように予防治療をすることが大切です。」

紀伊国屋文左衛門:の組(中の橋通り) 曾我兄弟十郎五郎「夜討ち曽我」:八幡町い組
2013年9月8日(日)
エピペン

 2020年のオリンピックが東京に決まりましたね。喜ばしいことです。前回1964年10月10日の開会式ではブルーインパルス(航空自衛隊のアクロバット飛行チーム)が、澄み切った青空に素晴らしい五輪の輪を描いてくれました。2020年のオリンピックでは、どんな演出が行われるのでしょう。今から楽しみです。

 先日、私が学校医をしている小学校の養護教諭さんから、エピペンの使い方を教えてほしいと電話がありました。なんでも、蜂アレルギーのためにエピペンを処方されている児童がいるとのこと。万が一アナフィラキシー症状が見られたら、即、注射するのがエピペンです。

 このエピペン、図1のようにケースに入っております。使用する時は図2のように大腿部外側から、ほぼ直角に筋注します。衣服の上からでも筋注出来ますので、誰にでも出来そうですが、イザという場合、ちょっと戸惑いますね。

 小学校に限らず、幼稚園、保育園などでもエピペンを持参するお子さんは増えてきています。しかし、対応ができないという施設もあるようです。

 この頃、よく聞くエピペンですが、どんなもので、どういう時に使用するのかご存知でしょうか。今週、学校保健委員会がありますので、先生方、ご父兄の方々に少しこの話をしてこようかと思っています。

 エピペンは、アナフィラキシー症状がみられた場合、速やかに注射されます。といってもわかりにくいですね。ところで、アナフィラキシーについてご存知でしょうか?。「アナフィラキシーとは、特定の起因物質により生じた全身性のアレルギー反応で、複数のアレルギー症状が見られる場合」と、医学書にはあっさり書かれていますが、「アナフィラキシーはアナフィラキシーショックにつながる一歩手前の危険な状態」と思って下さい。

 アナフィラキシーショックとは血圧が低下して、命に関わる状態です。多くの場合、アナフィラキシーでは、意識がもうろうとしたり、ゼーゼーした呼吸困難症状を伴います。これが全てショックに至るわけではありませんが、意識障害や呼吸困難症状は危険な前兆の一つです。

 エピペンは、血圧を上げる薬です。ですから、ショックを起こしたら使用すればいいわけですが、これでは間に合わない場合があります。従って、まだ、ショックまで至らないアナフィラキシーの状態でエピペンを注射することになります。なお、稀ではありますが、エピペンによって血圧が上がりすぎる場合もあります。この様な副作用にも注意しなければなりません。

 アナフィラキシーの症状は人によって違います。どんな症状が見られたら、どのタイミングでエピペンを注射したらよいのか、日頃から主治医と連絡をとりあって、エピペンの使用タイミングを決め、しっかりとした対応をしなければなりません。集団生活の場でエピペンを注射するのは、保護者ではなく、先生です。主治医~保護者~先生の緊密な連携が必要です。

 最近、エピペンという言葉を耳にする割には、詳細についてあまり知られていないようです。今、エピペンをお持ちの方も、これから、エピペンを備えようという方も、使用するタイミングをしっかりと理解して下さい。

図.1 図.2

2013年8月29日(木)
若者の“悪ふざけ”

 この頃、若者の“悪ふざけ”報道が目立ちますね。コンビニや飲食店の冷蔵庫や洗濯機に入ったり、ソースやマヨネーズを鼻につっこんだり、パトカーに上がったり、お店にとってはものすごく迷惑なことですね。おかげで閉店した店もあるようです。

 どうしてこんな馬鹿げた事をするのでしょう?おそらく遊びの範疇と思っているのでしょう。全く罪の意識なんぞないのでしょうね。

 こういう“悪ふざけ”が非難される行為であるということを、誰にも教えてもらわなかったからでしょうか。学校教育以前の問題です。早い話、幼児教育がなっていないんでしょう。マア、今さら叱ったところで反省するわけでもなさそうです。

 しっかりと賠償金を支払って罰を受けるべきですが、賠償金を払うのは親でしょうし、未成年となると、あまり重い罰則は適用されないのかな? となると、こういう“悪ふざけ”は今後も後を絶たないということか? 未成年に対する法律も見直す時期にきているかもしれません。

 “悪ふざけ”連中を見ていると、体罰禁止とか叱られないことで、ドンドンつけあがっているように感じます。要するに、甘やかしです。

 ところで、テレビの報道では、顔は写っていませんが、ネットでみると、顔だけではなく、名前や学校名まで掲載されています。(どこまで本当かわかりませんが)そうすると、今度は、ブログ炎上・・・ということにもなりかねません。これも心配です。

 【三つ子の魂百まで】というように、幼児期に、「しても良いこと、してはいけないこと」を、しっかりと教えておく必要があります。たいしたことは言えませんが、私は、そのようなお話を2~3才乳幼児健診の時にしています。

 親はみんな、わが子に良い大人になってほしいと願っているはずです。可愛いからといって、子どものいいなりになってばかりではいけません。だからといって、叱ってばかりいても良くないです。子どもは親の思い通りには育ちません。子どもは親の背中を見て育ちます。だから、子どもは親と同じような大人になります。よい大人になってほしいと望むなら、親自身がお手本になるような行いをしていくことです。

2013年8月19日(月)
離乳食前のアレルギー検査

 今夏の甲子園は面白いですね。昨年と比べると大物選手は少ないものの、競り合った試合や逆転試合が目立ちます。特に今日は、高校野球で一番面白いというベスト8の激突でしたが、全くその通り白熱した試合ばかりだったようです。4試合全て1点差ですもんね。明後日の準決勝には花巻東と日大山形が出場します。出来ることなら、東北勢同士の決勝戦をみたいものですね。

 先日3ヶ月の赤ちゃんのお母さんから、「離乳食を始める前に食物アレルギー検査をしておいた方がよいでしょうか?」というご質問を受けました。よく聞かれることですが、最近、同様のご質問が増えてきたように感じます。食物アレルギーの関心が高まっているのでしょうね。

 このようなご質問をされる方の赤ちゃんは、必ずしもアトピーや喘息のような症状がみられているわけではなく、あまり食物アレルギーを疑う根拠はなさそうに見えます。多くの場合、「検査しなくていいですよ。」とお話ししていますが、お母さんから、「検査しなくていい理由はどうしてですか?」とつっこまれると、ちょっと、答えに窮してしまうこともあります。

 アレルギー症状の有無にかかわらず、食物アレルギーの検査をすれば、抗体が陽性にでる赤ちゃんはたくさんいます。だからといって食べられないわけではなく、抗体の存在はアレルギーを起こす可能性を示唆するに過ぎません。実際にアレルギーを起こすかどうかは食べてみないと分からないことです。

 食物アレルギーの診断は、同じ食物を摂取したときに再現性を持って同じ症状がでることです。これは、抗体があってもなくても起こります。ですから、抗体は参考程度の検査です。だから、「検査しなくていいですよ。」・・・では、まだ納得できませんよね。

 質問するお母さんは、アレルギーを起こす食品を知らないで食べて重い症状が出たら心配だ。あるいは、今は、アレルギーを起こしていなくても、将来起こす可能性があるなら、今のうちから除去したい。そういう気持ちもあるようです。

 確かに、初めて食べた食品でアナフィラキシー(ショック)のような重症アレルギー症状を起こすことはあります。決して多いことではありませんが、もし、どういう食品でアナフィラキシーが起きるのか分かっていれば、それをさけることができるわけです。しかし、抗体が検出されても、どの食品がアナフィラキシーを起こすのかまでは分かりません。つまり、事前にアナフィラキシーの予測は困難なのです。

 お母さんは子どものために何かしたい。がんばりたいという気持ちが強いんです。その気持ちをくみながら説明するのは、なかなか大変です。

 検査するかどうかは、ケース・バイ・ケースですが、抗体が検出された場合、食物の種類、抗体の数値、アレルギー症状の有無、家族歴、食事環境などを考慮します。そして、お母さんが食物アレルギーがあると思い込んだり、先入観をもったりして、意味のない食事制限を行わないようご説明しています。当然ながら、除去食をお勧めすることもあります。

 乳児期に出現した多くの食物抗体は年令が進むにつれて漸減消失する場合が多いです。最近は、経口免疫寛容といって少しずつ食べていった方が、全く食べないでいるよりも早く食べられるようになるという現象も分かってきました。

 食物アレルギーは、数あるアレルギー疾患のなかでも、あまり積極的な治療法が確立されていない分野ですが、最近は新しい知見も増えてきており、次第に解明されつつあります。

 「離乳食前のアレルギー検査」は、積極的に行う必要はないものの、全く不要とも言い切れないように思います。気になることがあれば、ご遠慮なくご相談下さい。

2013年8月9日(金)
経験したことのない大雨

 今日の大雨はビックリしました。今まで経験したことのない大雨という警報でしたが、全くその通りでした。朝、ずいぶん降るなと思っていましたが、その後も雨は降り続け、午後3時30分には当院のある西仙北1丁目に避難準備情報が発令されました。幸い、午後7時27分には、解除されましたので、事なきを得ましたが、イヤ~、ビックリした。

 あちこちで大雨の被害が出ているようです。帰宅途中、明治橋を通りましたが、ものすごく増水してました。明治橋でこんなに北上川の水量が増えているのを見たことがありません。ちょっと、ゾッとしました。私が子どもの頃、太田橋が大雨で流されたことがありました。それに匹敵するくらいの大雨だったようです。今晩はもう降らないようですが、上流から下流に増量した川の水が流れ込んできます。あすも要注意です。絶対に川の近くに行かないようにしましょう。

 関東から西では手・足・口病が大流行しているようです。盛岡市周辺でも先月中旬くらいから、少しずつ流行してきましたね。手足口病の原因になるウイルスには、エンテロウイルスとコクサッキーウイルスの二種類があり、さらにそれぞれいくつかの型があります。従って、一口に手足口病といっても、症状は若干異なってきます。

 今年の手足口病は、通常の手のひらや足の裏に水疱が見られる手足口病は少なく、肘、膝、背中など広範囲に多くの水疱が見られています。一見すると、水痘(水ぼうそう)と間違えそうです。また、手足口病では発熱はあまり見られないことが多いのですが、今年は、二日くらい発熱が続いて、解熱する頃に肘、膝、背中などに水疱が見られるというような突発性発疹に似た経過も見られています。

 手足口病は、時として重症化することもありますが、今のところ、みんな軽症です。関東方面では重症化するタイプのエンテロウイルス71型が検出されていますが、だからといって、重症例が多いわけではないようです。

 手足口病は、感染力が強く、唾液からは2週間、便からは4週間ウイルスが排泄されています。完全な予防は困難ですが、よく手を洗う。うがいをする。タオルを共有しない。等々が大切です、また、お子さんが手足口病に罹ったら、お母さんはお子さんの食べ残しを食べないで下さい。また、食器を共有しないで下さい。そこから感染します。子どもが罹れば軽症な手足口病ですが、大人が罹ればけっこう重症です。お子さんから感染しないように気をつけて下さい。

 やっと、盛岡市内の避難勧告が解除されてきました。まずは、峠を越したようですね。大雨の被害にあった方々のご無事をお祈りします。

2013年7月19日(金)
テレビと子ども

 東京では、手・足・口病が、大流行しているそうです。当地でもチラホラみるようになりました。これから増えてきそうです。手足口病には特効薬はありません。手洗い・うがいをする。タオルは共有しない。という予防が大切です。

 時々、乳幼児健診で、赤ちゃん(子ども)とテレビの関連について、ご質問を受けます。

 テレビやゲームの視聴が子どもの脳に与える影響については、数多く論じられています。米国小児科学会や日本小児科医会は、2才以下の子どもにはテレビを見せないこと、2才以上でも、1~2時間にとどめることを推奨しています。では、なぜ、子どもにテレビが良くないのでしょうか?

 テレビからは一方的に音声が発生されるだけなので、自分から言葉を発する必要が無くなります。また、自分が声を出してもテレビはそれに応えてくれません。会話は相手がいて初めて成り立つので、一方的な音声の発生では、対人とのコミュニケーション能力が育たなくなり、その結果、言葉の遅れが見られることになってしまいます。

 また、脳が働く基本的なプログラムは成長とともに形成されていきますが、生まれてから2年くらいの間は、脳が発達するとても重要な時期です。この時期にテレビからの映像や音響などの機械的・イメージ的な情報を一方的に受容し続けると、自ら思考する脳力が育たなくなってしまいます。

 この時期には、できるだけテレビのような電子媒体を避けて、親とのお話や遊びを通して心の発達を促す方がよいと言われるゆえんです。

 さらに、大きくなってからもテレビやゲームに熱中していると、運動や読書、宿題、友人との遊び、家族との時間などの活動的な時間が減ってしまいます。

 何となく、悪いことだらけのテレビになってしまいますが、テレビにも良い面はあります。幼稚園児くらいになると文字を覚えたりしますし、小学生くらいになりますと自然科学に興味を持ってきます。もうちょっと大きくなると、ニュースで世間の情勢を知るようになります。

 となると、100%悪いことばかりではなさそうです。一概にテレビの善悪を決めることは難しいです。教育番組なら良しと言う人もいれば、全くテレビを見ない方が良いという人もいます。

 お子さんの年令や、番組の内容も考慮すべきです。最近の研究では「寝ている間も、脳は音を拾い続けている」ということもわかってきました。赤ちゃんが寝ているそばでテレビを見ることはあまりよいことではないですね。確かに生後2才くらいまではテレビは避けた方がよさそうです。

 成長するにつれて、テレビに接する機会は増えます。大人でもテレビに出てくるキャラクターと自分を重ねてみてしまうことがあります。子どもであればなおさらです。キャラクターはカッコいいところだけではありません。喫煙や飲酒や危険な行動も平然と行います。子どもはそれをまねしてしまいます。現実と虚構の世界を混乱すると、必ず問題が起きます。親が子どものテレビ視聴を管理することが大切です。

2013年7月9日(火)
成人風疹ワクチン助成

 関東、関西方面で猛威をふるっていた風疹も、ようやく少なくなってきたようです。とは言え、今まであまり流行っていなかった地域はこれからが要注意です。風疹は春から初夏にかけて流行しますので、当地では、まだまだ安心できません。

 全国各地で風疹ワクチンの助成が始まってきました。ワクチン接種にかかる費用の一部を自治体が負担してくれるということで、大変よいことだと思います。盛岡市でも7月16日(火)から申請受付が始まるようです。(詳細は盛岡市広報7月15日号に掲載されます。) 助成対象期間は平成25年4月1日~平成26年3月31日までです。既に接種された方でも4月1日までさかのぼって申請可能です。

 ところで、風疹ワクチンの助成があるのはありがたいのですが、最近、十分な免疫(抗体)を持っていない人に限って、費用の一部助成をする自治体が増えてきました。これは、風疹ワクチンを接種する成人が増えてきたために、本来受けるべき子どもへのワクチン不足に配慮した措置と言うことです。

 最初は出来るだけ多くの人に接種するように勧められていたように思いましたが、ここにきて、ワクチン不足が心配になってきたようですね。確かに、免疫のある人にワクチンは不要ですが、それをどうやって調べるかというと、採血して調べることになるわけです。その費用は、助成なしで自費のようです。免疫検査にも5~6千円程度の費用がかかります。せっかく、ワクチンに助成があっても検査費用がかかるなら、あまり、ワクチン接種したくないなと、思ってしまいますね。出来れば、免疫検査費用も助成してほしいものです。

 幸い盛岡市は免疫検査の如何に関わらずワクチン接種してくれるようです。もちろん自費で免疫を調べてから接種するかどうかを決めてもかまいません。

 では、実際、どのくらいの免疫があれば、大丈夫かというと?これがまた、難しいです。風疹免疫は主にHI法という検査で調べますが、昔の教科書にはHIが8倍あれば免疫があるように書かれていました。しかし、最近は32倍以上と記載されるようになってきました。この32倍以上というのは一応の基準になっているようですが、過去に風疹に罹った事があるのか、ワクチン接種したことがあるのか、などの条件によって評価はかわります。

 接種基準が統一されないと、同じ抗体価でも、接種する医療機関もあったり、接種しない医療機関もあったりして、混乱をきたすかもしれません。免疫の有無にかかわらず接種した方が無難ですが、そうすると、本当にワクチン不足になるかもしれません。いやはや、難しい問題です。

2013年7月1日(月)
国際リニアコライダー(ILC)

  一昨日、高校の同窓会がありました。3割弱の出席率でしたが、北は北海道、南は神戸からと、大勢の旧友達と再会できました。いつもですと、飲んで、食べて、おしまいでしたが、今回は同窓生3名の著名人?による講演がありました。その演題の一つが「国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)」でした。ちょうど同じ日に盛岡市内でも、ILCの誘致決議が行われたようです。

 ILCは最近よく耳にする言葉ですが、どういうものか、ご存じですか?ILCが誘致されると、産業、経済、教育などいろいろな分野で大きな効果があるらしいですよ。そうはいうものの、私をはじめ、周囲の連中もよくわかっていないようでした。

 今回ILCをわかりやすく講演してくれたのは、芝浦工業大学学長:村上雅人先生です。ILCは、物理学の話です。原子、電子、陽子(ようこではありません。ようしと読みます。)、素粒子、円環式加速器、線形加速器、などなど、懐かしいが聞き慣れないたくさんの言葉が次々と出てきました。彼は中学校程度の物理の話から始めて、わかりやすく説明してくれましたが、何となくわかったような?わからないような?次のようなお話しでした。(同窓生のよしみで、先生ではなく、君にしました。)

 村上君:「国際リニアコライダー(ILC)とは、電子とその反粒子である陽電子を超高速エネルギーで正面衝突させ、それによって生成された様々な『粒子』を測定、解析することによって、未知の素粒子発見など物理理論の究明に役立たせるものです。」
 みんな:「・・・?」

 村上君:「ヒッグス粒子をはじめとして、様々な『粒子』が出現します。その時、これまで誰も見たことのない現象が生じます。その粒子を観測することにより、どのようにして宇宙が生まれ、物質が生まれたのか、という宇宙誕生の謎にせまることもできます。」 
 みんな:「ますます、・・・?」

 村上君:「その応用範囲は、医療、生命科学から、環境、エネルギー、精密機械、農業、通信技術などなど、非常に多岐にわたると考えられています。」
 みんな:「ほ~、それはすごい。で、具体的には?」

 村上君:「新粒子が発見されたとしても、すぐに応用できるわけではありませんが、素粒子を生み出す加速器技術は、これまでも多くのイノベーション(技術革新)をもたらしています。例えば、テレビのブラウン管や携帯電話も、加速器の応用によって開発されました。
 また、加速器技術から生まれた最先端医療の一つとして、重粒子線がん治療があります。」
※ 重粒子線がん治療:がん病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる放射線を用いた治療法
 みんな:「どうやら、ILCは、多くの分野で新しい技術革新を引き起こす産業革命のようなもので、世の中を良くしてくれるらしい。」

 村上君:「ILCが誘致されれば、そこには世界中から最先端の加速器技術と研究者が集まってきます。そして、新たな技術開発が行われ、産業が生まれ、企業が集まり、新たな産業拠点になります。それは、一つの【巨大科学文化都市】が出来ることを意味します。 
 現在、世界各地で誘致合戦が繰り広げられていますが、日本はかなり有力な候補地です。その中で、岩手と九州(福岡~佐賀)が名乗りを上げています。岩手に誘致できれば、岩手の発展と復興に大きな力となります。」
 みんな:「これは、もう、絶対岩手に持ってくるべきだ。」

 聴いたときは、何となく納得しましたが、人に説明しようとすると、なかなか難しいですね。ILCが誘致されるには、地盤が固いことが絶対条件のようです。東日本大震災でも大きな影響を受けなかった岩手県の北上山地は有力な候補地のようです。村上君は、最後に、「ILCを誘致するために、岩手県民みんながILCを知って、盛り上げていくことが大切だ。それが、復興にもつながっていく。」と、述べていました。

 実現したら凄いことになりそうですね。ILCの話題が出たら、「岩手県は地盤が固く、海の幸、山の幸にも恵まれて立地条件が最適。」と言って、日本中に、いや、世界中にアピールしていきましょう。