歌の文句ではありませんが、もう少しで今年も終わりですね。幸いインフルエンザもノロウイルスも大きな流行はみられず、穏やかな年末になりました。
来年の4月で開業18年になります。病院勤務の頃と比べるとあまり高度な医療をしているわけではありませんが、この年月を振り返ってみると、診療内容にいろいろな変化があったように思います。
医学の進歩はめざましく、私たちは多くの恩恵を受けてきました。しかし、単純に喜んでばかりいられないようなこともあります。今から14年前にインフルエンザの迅速診断キットが発売されました。それまでは症状や周囲の流行状況を頼りに、インフルエンザの診断をしていたわけですが、迅速診断キットの登場により、即座に、かつ正確にインフルエンザの診断が出来るようになりました。
この年以降に医師になった方々にはピンとこないかもしれませんが、自分の目の前にいる患者さんに対して、はっきりとインフルエンザと診断することに驚きと感動を覚えました。そして、翌年には抗インフルエンザ薬としてリレンザが、翌々年にはタミフルが発売され、インフルエンザの治療は劇的にかわりました。それまでは、二次感染予防として処方した抗生物質は不要になり、インフルエンザと診断がついた患者さんだけに抗インフルエンザ薬を処方すればよくなりました。
現在ではRSウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、マイコプラズマ、溶連菌なども、迅速診断キットで即座に診断が出来るようになってきました。しかしながら、一方では、あまりに病原菌を調べることにこだわりすぎてきたようにも感じます。
治療する上で、原因菌を確認することは大いに役に立ちます。例えば、発熱が続いてのどが赤い様なお子さんの場合、溶連菌なら抗生物質が必要です。しかし、アデノウイルスなら抗生物質は不要です。また、気管支炎や肺炎が疑われる場合、マイコプラズマとそれ以外の菌では使用する抗生物質が異なります。この様に迅速診断キットのおかげで、その場で適切な治療を選択することが簡単にできるようになりました。
ところで、最近は病名にこだわる保護者が多くなったように感じます。いわゆる、「検査のための受診」です。保育園や幼稚園から調べてもらって下さいと言われて受診する人も多く見られます。同じ疾患でも軽症から重症まで範囲は広いです。また、検査結果は100%正確に出るものでもありません。病名よりも重症度に重きを置くべきと考えますが、病名にこだわる人は多いです。
病名を重視する風潮は、感染防止に対してどの様な役割を果たしているのでしょうか?いわゆる「移る病気=感染症」には、出席停止期間が定められています。感染拡大防止という観点からは、感染力がなくなるまで休むように義務づけられています。しかし、感染症には軽症から重症まであり、また感染しても症状が見られない不顕性感染もあります。となると、単に検査で陽性の子だけを休ませてもどれだけの感染予防効果があるのでしょうか?
先日受診したお子さんは嘔吐下痢が頻回にあり、元気がないようでした。周囲でノロウイルスが流行っているというので検査したら陰性でした。ノロでなければ保育園に行けると思ってたようですが、一般状態が悪い場合はお休みするようにお話しました。
登園(登校)出来るかどうかだけを決めるような迅速診断キットであってはならないと思います。現在の症状をみて、検査結果を参考に、登園(登校)の可否や治療方針が決まっていくものと思います。
今後も感染症関連の迅速診断キットは増えていくと思います。検査結果をどの様に判断し活かしていくのか、そろそろ検討すべき時期になってきたように思います。
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