診察室便り

 日常診療で感じたこと、最近の話題、メールへのご返事など、医療だけでなく、いろいろな話題にふれたいと思います。

2008年9月28日(日)
インフルエンザワクチン

 この頃、急に寒くなりましたね。まだ9月ですけどそろそろ、冬の支度もしなければなりませんね。

 今年もインフルエンザの季節が近くなってきました。去年は10月から患者さんが見られるようになって、11月に流行しましたから大変でした。インフルエンザの流行時期を予測することはまず、困難ですが、ここ数年インフルエンザの流行時期は早まってるように感じます。温暖化と関係あるのでしょうか?

 今年も、10月中旬(10月14日)から接種開始します。今までは予約してから接種しましたが、昨年のように早い流行もありますから、今年は予約をせず、来院順に接種しますので、早めに接種して下さい。

 昔と比べるとインフルエンザは何となく軽症化してきたように感じます。ワクチン、検査キット、タミフル、リレンザとインフルエンザの対策が進んできたからと思います。昨年は流行したウイルスが、Aソ連型でした。Aソ連型は、A香港型よりやや軽症です。また、A香港型、Aソ連型、B型のうちで、もっともワクチンの効果が期待できますし、薬の効きも1番よいです。ですから昨年はあまりインフルエンザで苦しんだ人はいなかったように思います。もっとも怖いのはA香港型ですが、昨年はほとんど見られませんでした、ということは・・・、今年あたり心配ではあります。

 新たなインフルエンザ(いわゆる新型)が出現すれば大流行になりますが、何年か続けば多くの人たちが抗体を持つようになり、あまり流行しなくなります。A香港型もAソ連型も、かつては新型として大流行しましたが、今は多くの人たちが抗体を持つようになりました。しかし、みんなが慣れた頃、そういう状況で新型が出現すると言われています。新型インフルエンザ対策はまだ始まったばかりです。毎年流行るインフルエンザだけではなく新型にも注意していかなければなりません。

2008年9月21日(日)
食の安全?

 安心して食べられるのは何?食の安全はどこに行ったの?事故米の次は、メラミンとか?もうメチャクチャですね。ミートホープ、吉兆、ギョウザ、ウナギ、飛騨牛〜まだまだありましたね。あんまり多くて、最初の方はどうなったかわからくなりました。
 
 なぜ、こうも次から次へと、とんでもないことばかりおきるのでしょう。農水省の管理が甘いから、それもあるでしょうが、本質はもっと別なところにあると思います。

 事故米の件では、とりあえず、太田誠一農相は責任をとって辞任したようですが、辞めりゃいいってものではないですよね。この始末はどうするの?敵前逃亡のような辞任です。総選挙が近いから、さっさとその準備をしようということでしょうね。

 食の安全は、もはや地に落ちた感があります。しかし、食だけじゃないです。少し前には、建築偽装の問題が大きく騒がれましたね。その後どうなったのでしょうね。

 思うに、食も建築も個人のモラルに問題があるのではないでしょうか。偽装した当事者達は、どうみても本当に悪いと思って謝罪してるようには見えません。「わからなければいい、自分さえ得すればいい、他人のことなんかどうでもいい。」というあさましい体質を感じます。こいつらが本当に反省しているとは思えない。いつの間にこんな愚かな日本人ができてしまったのだろう。この国の将来はどうなるのだろうと思います。

 いつも思うことですが、どんなに大きな騒動になっても少し時間がたつと皆忘れてしまうことが多いです。時間が解決してはいけない。二度とこんなことを繰り返さないために、どうしたらよいのか?当事者を厳罰に処しても、次から次へと同じようなことがおきるのは、なぜ?

 少し飛躍した話かもしれないですが、「三つ子の魂百まで」と言われるようにしっかりした幼児教育が行われることを期待します。長いこと小児科をしていますと、我慢ができない子、自分勝手な子など将来に不安を感じる子をたくさん見ます。小さい頃から、愛情豊かに、是を是とし非を非として、教えていけば、きっとこういう悪い大人にはならないと思います。自分のできることはそのお手伝いです。

2008年9月14日(日)
三混、BCG、ポリオの接種順について

 今日から、「お八幡(はちま)さんのお祭り」が、始まりました。このお祭りが終わると急に涼しくなり、秋の気配を感じます。今日は三混、BCG、ポリオの接種順についてご質問をいただきましたので、お答えしたいと思います。

Y・Sさんからの


 秋になってポリオの予防接種が始まりました。子どもは今、3ヶ月半です。ポリオは日程が決まってるようですので、ポリオから接種しようと思いましたが、三混か、BCGを先に接種した方がよいとも聞きます。どの順番でもよいのでしょうか?もし決まりがあるなら教えて下さい。



 お便りありがとうございます。通常の定期予防接種は、生後3ヶ月から開始します。三混、BCG、ポリオがこの時期に該当します。さて、順番ですが、特に決まってはいません。どれから初めてもよいわけですが、“安全性の高いワクチン”、“罹る可能性の高い病気を予防するワクチン”から接種することが原則と思います。以下は、HPに掲載した内容ですので、こちらの方も参照して下さい。
予防接種スケジュール

@.安全性について
 “安全性”は、どのワクチンも高く、健康な赤ちゃんが接種するには、まず心配ありません。
 ごく稀ですが、生まれつき重症な免疫不全があれば、ポリオやBCGは、ワクチン接種により、ポリオや結核にかかる心配があります。
  ただし、生後3ヶ月頃になると、そのような重症な免疫不全はまず判明していますので、3ヶ月以後の接種では問題になることはないと思います。

A.罹る可能性の高い病気
“罹る可能性の高い病気を予防するワクチン”という観点から考えますと、
 ポリオは現在の日本では見られなくなった病気であり、流行地域(西南アジア、アフリカなど)に出かけることがなければ、急ぐ必要はありません。
 三種混合ワクチンで予防する百日咳は、最近よく見られるようになってきました。赤ちゃんが百日咳にかかると、咳のため呼吸困難になることもあり、肺炎や、脳炎を起こすこともあります。百日咳の抗体は母体から移行しませんので、生後まもなく感染することもありますので、早めの接種が大切です
 結核も怖い病気です。BCGは生後6ヶ月を過ぎると有料になりますので、早めに接種したいのですが、現実的には百日咳の方が罹る頻度が高いと思いますので、百日咳を含む三種混合ワクチンから接種するようお勧めします。
 もし、チョットうっかりして6ヶ月近くになるのにまだ、BCGを接種してない時は、BCGを優先することになります。
 三種混合は、続けてきちんと2回接種すれば大体免疫ができますので、3回目よりもBCGを先に接種します。ポリオは一番最後でよいと思います。

 具体的には、
@三混1回目→3週間あける→A三混2回目→1週間あける→BBCG→4週間あける→C三混3回目→1週間あける→Dポリオ
 上記の順番が現実的であり、望ましいと思います。

 百日咳の患者さんは7〜8月に3人診ました。マスコミ報道通り、百日咳は増えています。やはり、百日咳を含む三混を優先すべきと考えます。もし、日程的に秋にポリオができなければ、春でもよいと思います。

 以下はおまけですが、興味があればお読み下さい。
 現行のポリオワクチンについては、少し問題があります。ポリオワクチンには、生ワクチンと、不活化ワクチンがあります。日本で使用されているのは、生ワクチンです。
 生ワクチンは菌体(ウイルス)を弱毒化して使用していますので、効果が高い反面、接種したためにその菌体(ウイルス)の症状が見られる心配が少しあります。ポリオの場合、約200万〜300万人の投与につき1回くらいの頻度で、「麻痺」が発生します。時々新聞に載っています。
 これに対して、不活化ワクチンは菌体(ウイルス)そのものを使っていませんので、効果は多少弱いですが、このような副作用の心配がありません。効果をあげるため、不活化ワクチンは複数回接種します。ポリオの場合三混と同じように4回接種します。

 多くの欧米先進国では、ポリオはほとんど見られなくなりましたので、効果が多少弱くても、安全性の高い不活化ワクチンを接種しています。
 これに対して、開発途上国のようにポリオが蔓延している地域では、副作用を気にするどころではありませんので、効果の高い生ワクチンを使用しています。

 つまり、ポリオの感染の少ない地域では、個人防衛のために、安全性の高い不活化ワクチンを接種。ポリオの感染の多い地域では、集団防衛のために、効果の高い生ワクチンを接種しているのが現状です。

 このようなことからみると、日本はどうでしょうか、日本では1972年以来、ポリオは発生していません。もはや、副作用を心配する生ワクチンではなく、安全性の高い不活化ワクチンに切り換えるべきではないでしょうか?数年前に不活化ワクチンに切り換える方針が出されましたが、いつの間にか立ち消えになったようです。

 個人的な考えではありますが、生まれて初めて接種するワクチンは生ワクチンではなく、不活化ワクチンの方が望ましいと思っています。

2008年9月7日(日)
医師不足と医学部定員増

 文部科学省は8月29日、2009年度の予算概算要求をまとめ、医学部入学定員の現時点での検討状況を公表しました。それによると、2009年度の定員は「8560人程度」で、今年度よりも760人増。この数字は、今年6月の政府の「骨太の方針」で打ち出された定員増と、昨年5月の「緊急医師確保対策」の合計分です。

 医師不足といわれる現在、医学部の定員を増やすことはよいことのようにも思えますが、なぜこんな時代になってしまったのでしょう。以前より医師不足といわれてはいましたが、ここ数年医師不足が急速に問題になってきました。

 一番の原因は、現在の初期研修医制度に問題があるといわれています。研修医制度とは医学部を卒業した新米医師に対する教育制度ですが、現在の初期研修医制度は、新米医師にとっては恵まれた制度のように思います。
 私が医師になった二十数年前は、研修医制度は名ばかりで、何一つ教えてもらうこともなく、自分で勉強して先輩の技術をまねして(盗んで?)覚えていくようなものでした。もっともひどかったのは経済的保証が無く、医師になって半年間は無給でした。それに比べると現在の初期研修医制度は、指導医の元に診療を行い、きちんと給料ももらえます。昔は新米医師は奴隷のような生活を強いられていたことを思うと隔世の感があります。

 では、このよい初期研修医制度のもとになぜ、医師不足になってしまったのでしょうか?以前は卒業するとほとんどの新米医師は大学病院に就職し、内科とか外科の医局に入局しました。あまり良い例えではありませんが、大学を大相撲の世界に例えると、医局というのは、○○部屋とかいう相撲部屋みたいなものです。医局(部屋)には絶対的な権力を持った教授(親方)がいて、医局員(関取)の人事権を持っています。「○●くん、明日から、1年間△▲病院へ勤務して、」という具合です。白い巨塔そのものでした。

 しかし、このむちゃくちゃな封建制度のもとでも、地方では、大学からの医師派遣という形で診療を続けていましたが、現在の初期研修医制度は、大学に限らず自由に研修病院を選べるようになりました。もはや大学がすべての時代ではなく、大都市の大病院では多くの研修医を迎えるようになってきました。その結果、大学病院への入局者は激減し、医局からの地方病院への医師派遣は途絶え、地方での医師不足がひどくなってしまいました。

 厚労省の初期研修医制度の本当の狙いは、医局支配の医師供給構造を崩すことにあったといわれています。つまり、二次医療圏ごとに中核研修病院を作りそこから医師を派遣し、大学医局から人事権を奪うというのが、厚労省の狙いだったということです。しかし、現状のような医師不足を招いてしまいました。
 そこで、今度は、文部科学省(厚労省ではないですよ)が、医学部定員増することを決めました。文部科学省に財源が入り、大学の医師が増える。しかし、医師数を増やしても、厚労省が病院必要医師数の増員をするわけがないと思いますので、まだまだ、前途多難のように思います。

 ところで、初期研修医制度を終えた医師達はどこに就職するのでしょうか。毎年新しい研修医が入ってきますから、終わった人たちから順番にどこかの病院へ行くことになると思いますが、そうすれば、今不足している地域にも十分医師は充足されるように思います。今、医学部定員増すれば、何年か後にはむしろ医師過剰になっているかもしれませんね。ここで厚労省が人事権を行使するのでしょうか。これも厚労省の狙い?

 初期研修医制度はよい制度だと思いますが、官僚支配的制度のようにも感じます。厚労省、文部科学省ともに省益を優先することなく、国民目線で考えてほしいものです。

2008年8月28日(木)
日本外来小児科学会

 30日(土)〜31日(日)の二日間、名古屋市で日本外来小児科学会が開かれます。学会出席のため、申し訳ありませんが、30日(土)は休診します。

 この学会は少し普通の学会とは変わっています。外来小児科とあるように、外来での小児診療が中心です。あまり難しい病気の話よりはふだんよく見られる症状、例えば長びく咳や鼻水はどう治療したらよいだろうとか、痛くない採血や予防接種をするにはどうしたらよいだろうとか、待合室にはどんな絵本がよいのかとか、患者さんとのコミュニケーションをよくする工夫とか、小児科にあった電子カルテにはどんなものがあるのか、というようなふだんみんなが考えている疑問、アイデアを出し合って、少人数で徹底して話しあいます。これをワークショップといいます。通常の学会では演者が発表して、それに質問して3〜4分の討論でおしまいですから、ワークショップはかなり中身の濃い話し合いでです。

 6年前も名古屋で開催されましたが、「電話予約」についてのワークショップがありました。それに参加して現在の電話予約をすることにしました。この学会は医師だけでなく、看護師、事務、企業などから広く参加者がおります。少人数で話しあいますので、結構本音も出て、面白いですよ。

 ワークショップは30くらいのテーマがありますが、時間的に一人2〜3題しか参加できませんので、今年は、「母親にとって魅力ある乳幼児健診を探る」 「小児科医の診る中耳炎」 「電子カルテ開発プロジェクト」の3題に参加してきます。学会終了時はものすごく盛り上がるんですけど時間がたつにつれて冷めてしまいますので、よいと思うことはすぐ実行するようにして、9月以後の外来診療にいかしたいと思います。

2008年8月22日(金)
大野病院事件

 一昨日、大野病院事件の一審判決が福島地裁でありました。事件の内容はマスコミ報道でご存知のことと思います。福島地裁(鈴木信行 裁判長)は、「標準的な医療措置で過失はなかった」として無罪判決を下しました。検察側、弁護側、双方の主張を吟味しての判決であり、当然の結果と思います。

 この事件は、最初から警察が介入し、担当の加藤克彦医師の逮捕から始まりました。逮捕というのは、1)証拠隠滅のおそれがある、2)再犯の危険がある、3)逃亡のおそれがある、場合に限るはずです。既にカルテなどは押収していますから、あえて、逮捕して刑事事件とする必要あったのでしょうか。 この事件が社会に与えた影響は計り知れなく大きいです。

 検察や警察が医療事件に介入した場合、医療の知識を有している人がほとんどいないため、本当に事件性があるのかどうか判断に迷うことが多々あると思います。
 今回の事件では、検察側の鑑定人医師は某国立大学の教授ですが、帝王切開の経験はたった1回しかないそうです。そんな医師にこの様な難しいケースの判断をさせるというのはまず無理です。また、求刑は「禁固1年、罰金10万円」です。あまりにも軽すぎる求刑です。威勢よく逮捕したものの、これは勝てる裁判ではないやりすぎたと思ったのではないでしょうか。この事件では加藤先生も遺族も、検察や警察に振り回されたようにも感じます。何が何でも医者をとっつかまえたいという検察官がいたんじゃないのかと裏読みしたくもなります。

 医療においては、その時点でよかれと思って行ったことでも、結果として悪ければ責任を問われます。医師は皆そのことを知っています。いくら説明しても理解、納得できることばかりではないと思いますし、どこまでが不可抗力で、どこからが過失なのか、とても難しいです。

 一般に、どのような職種でも、仕事でミスをすることは多少はあると思います。医療においても、同様です。しかし、ミスをするたびに、警察が来るのではないか、事情徴収されるのではないかと思うと、安心して仕事をすることはできなくなります。その結果は、萎縮診療、医療崩壊へとつながっていきます。

 警察庁の吉村博人 長官は21日の定例記者会見で「将来を見据えた場合、医療行為をめぐる捜査については、判決を踏まえて慎重かつ適切に対応していく必要がある」と述べております。実際、警察はどのような状況から介入し、またしないのかという線引きを明確にすることが、必要と思います。

 厚労省は、患者やその家族が医療に対する信頼と安心を持てるような制度:「医療安全調査委員会」(仮称)の創設を検討しています。近い将来できると思います。患者さんのためにも、医師のためにもよい制度であることを期待します。

2008年8月17日(日)
日本脳炎予防接種は必要か?

 今年のお盆は、遠出することもなく、ノンビリと過ごしました。明日からまた、診療が始まります。気を引き締めてがんばります。
 ところで、7月28日に、日本脳炎予防接種について、掲載したところ、いろいろなご質問をいただきましたので、
今日はそれにお答えしたいと思います。

M・Tさんからの


 日本脳炎予防接種は必要なのでしょうか?回りの人たちの話を聞いていると、どこの先生に相談してもはっきりした返事が返ってこないと言います。また、「積極的に勧めない」とありますが、よく意味がわかりません。



 お便りありがとうございます。確かに「積極的に勧めない」という言い方は理解しがたく、本当に必要な予防接種かどうか疑問が出てくるのも無理がない話です。これまでのいきさつについては、日本脳炎予防接種のお知らせ や7月28日の本欄などから、大体ご理解されていると思いますので、ここでは私の個人的な考え方を述べたいと思います。
 
 そもそも予防接種は病気にかからないためにするものです。日本脳炎という病気はなくなったわけではありません。多くの地域のブタが日本脳炎ウイルスに感染していることや、予防接種をしなくても日本脳炎の抗体ができている子たちが多くいることは、常に感染の機会があることを意味しています。

 日本脳炎は罹ってもみんなが症状が出るわけではなく、全く症状が出ない人も多くいます。この様に罹っても症状が出ない場合を不顕性感染といいます。不顕性感染はおたふくかぜでよく見られます。例えば、おたふくかぜに罹るとみんながほっぺたが腫れるわけではなく、罹ったかどうか大人になってから抗体を調べたら罹っていたことがわかったという具合です。日本脳炎はおたふくかぜより、はるかに不顕性感染が多く、何も症状が出ないままに知らないうちにかかっている場合が多いのです。

 しかし、年間数人しか日本脳炎患者が発生していないと言うことも事実であり、次第に過去の感染症になりつつあるようにも思います。患者数減少の背景には、予防接種の普及、日本脳炎ウイルスの弱毒化、町に養豚場が無くなったこと、用水路の整備など公衆衛生環境の改善、個人の免疫力の向上、などが考えられます。
 では、予防接種は必要ないのかというとそうは思いません。いかなる状況にあってもウイルスが存在すれば、感染しないという保証はどこにもありません。感染する機会がある以上、予防接種は必要と思います。

 ただし、日本脳炎に限らず全ての予防接種は自分自身の意志で行うものです。他人から強制されるものではありません。予防接種の問診票にサインをしたことがあると思いますが、あのサインの意味は「自分の意志で接種をする。無理矢理強制されて接種するのでない。」という意味です。

 「積極的に勧めない」というのは厚労省〜地方自治体の方針です。予防接種の副作用とはっきり断定できないまま、「見切り発進」した反響は大きく、おそらく近い将来見直されると思いますが、これにこだわらず、当院では、接種を希望される方には接種しています。

2008年8月9日(土)
プレパンデミック(大流行前)ワクチン接種開始

 8月4日、新型インフルエンザ対策の一環として、プレパンデミック(大流行前)ワクチンの接種が試験的に開始されました。新型インフルエンザに備えての準備が、いよいよ本格的に始まってきました。しかし、接種については賛否両論がありそうです。

 そもそも、プレパンデミックワクチンは新型を予測して作られるものですから、新型が発生していない現在、果たして本当に当たるかどうかよくわからないわけです。ここ数年、おそらくH5N1が、新型に変異するのだろうと予測されて、それを基にしたワクチンの開発が進んできました。その結果一応できあがったわけですが、副作用については十分な検討がなされていないようです。また、「H5N1は、新型インフルエンザの候補の一つであるが、すべてではない」ということも案外知られていないようです。

 本年5月に、米疾病対策センター(CDC)の研究チームは鳥インフルエンザのうち、H7型も警戒しなければならないという論文を発表しました。H5N1は、主に、アジアを中心に流行していますが、H7型はヨーロッパ、アジアで流行している型と、北米で流行している型があるようです。また、H5N1よりもH7型の方が人への感染力が強いともいわれており、オランダや、英国では人への感染もみられています。今後はこの両者について注意していかなければならないようです。

 このような状況で、安全性が未確認なH5N1型ワクチンを接種開始したということは少し配慮に欠けているという非難もあがっています。かつて1976年、米国で発生した豚インフルエンザが、スペインカゼの再来かと騒がれて、フォード大統領のもと、この株を用いたインフルエンザワクチンが、広く接種されました。ところが、ワクチン接種者からは、ギラン・バレー症候群という神経障害の患者さんが多数発生してしまいました。その結果、このワクチンによる副作用と判断され、中止になったいきさつがあります。今回のワクチン接種についてもそのような心配をしている医師もおります。

 まず、6.400人の医療、検疫関係者に接種したわけですが、今後、備蓄している1.000万人分を安易に接種してよいのか、難しい問題です。これからは、H5N1だけでなく、H7型も視野においた予防政策をとらねばなりません。

2008年8月6日(水)
低体温の子ども達〜冷暖房と運動不足

 毎年暑くなると、院内の空調で苦労します。夏ですから少し涼しくと思うと結構冷えすぎたりしますし、少し温度を上げるとすぐムッとした感じがしたり、いつも今の時期の空調には気を遣います。
 でも、夏は少し汗ばむくらいがいいんですよ。その方が体が体温調節を上手くできるようになって、暑さ、寒さに対応できるようになるからです。今日は、冷暖房の使いすぎや運動不足から、体温調節が上手くできなくなり、その結果、低体温になるという話題です。

 東京都内の私立小学校に、校医として24年間勤務した木村慶子先生という方が、健康小児3.109名(男子2.254名、女子855名)の体温測定を行った結果、「低体温の小児が24年間で6倍以上に増加した」という発表をしました。

 この小学校では、1970年から1993年までの入学児童を対象に、毎年5月に行われる臨海学校で小学4年生の体温を測定してきました。その調査結果を検討すると、児童の平均体温は24年間で徐々に低下し、35℃台の低体温児は1970年代の6倍に増えていることがわかりました。

 1日の平均、起床時、就寝時平均体温のいずれも年を追うごとに低下しており、中でも男女ともに起床時の体温の低下傾向が強く認められたそうです。通常、小児は基礎代謝が活発ですので、体温は成人よりも高いはずですが、しかし、このように低体温児が増加しているということは、本来活発なはずの小児の基礎代謝が低下してきているからだと考えられます。

 体温リズムは自律神経という神経で、コントロールされていますが、この神経のバランスが乱れることで体温調節がうまく行われなくなります。

 その原因を探ると、幼児期から小児期における自律神経の発達と関係しており、特に2〜5歳、子どもが最も活発に動き回る時期に、その行動を制限しすぎたり外遊びを抑制しすぎたりすると、本来獲得すべき機能がきちんと身につかないことがあり、自律神経の発達に影響を与えるようになります。

 冷暖房の普及により快適な環境が得られたものの、暑いとか寒いとかの感覚を覚える機能が十分に備わらないと、寒ければ体を震わせて体温を上昇させ、暑ければ泳いで冷やす。そういった基本的なことが、なかなか身につかずに成長してしまうことになります。また、家にこもってばかりいて運動をしなければ筋肉の量も減少し、結果的に熱の産生能が低下してしまいます。

 体温が1℃下がると酵素の働きが50%となり、脳内伝達物質の産生低下をきたすといわれています。その結果、不眠、気分障害などの障害が見られるようになります。

 最近、特に30〜40歳代の女性の不定愁訴や冷えも増えているのだそうです。このように小児期の自律神経のアンバランスを成人期まで引っ張ってしまう人も多いのかもしれず、木村先生は「脳や神経の発達は子どもの頃に獲得する重要な機能と関係しています。しかし、そのときに十分に発達させておかないと、後からは身につけることができません。それだけに、遊びなどを通して脳に十分な刺激を与えることが重要で、脳の発達が十分なされていないと、成人になってからいろいろな影響が出ることもあります」と、幼・小児期の育て方について、もっと啓発されるべきだと指摘しています。

 子どもを育てる際に、小さいときからの運動習慣がとても大切であることがわかりますね。特に、3〜5歳までに「歩かせる、走らせる」など、思いっきり遊ばせて、脳や神経を十分に発達させることが重要で、跳び上がる感覚、走る感覚、痛いという感覚などを、自分で会得するチャンスを、もっと増やしてあげるべきですね。

 子どもの健康状態を見ながら、できるだけ自由に遊ばせてあげることが、幼児期には特に大切なようです。

 冷暖房はほどほどに、テレビゲームばかりしないで、できるだけ外で遊ぶように心がけましょう。それが大人になってからの健康につながるのですからね。

2008年7月28日(月)
日本脳炎予防接種を続行(読売新聞:h20/7/26)

 「日本脳炎予防接種を続行」 なんだこの記事? 別に中止してるわけじゃないんだから、接種してもいいんですよ。今さら何を言うの? でも、「エッ、日本脳炎予防接種は中止になったんじゃないの?」なんて思っている人もいるかもしれませんね。
 日本脳炎予防接種は定期接種として行われています。ただ、厚生労働省は、積極的には勧めておりません。
 詳しいいきさつは、こちら→日本脳炎予防接種のお知らせ をどうぞ。

 重篤な副作用かどうか判定できないままに何となく副作用が疑わしいから、日本脳炎患者が殆どいなくなり、急いで接種する必要がないから、もうじき新しい日本脳炎ワクチンができるから、予防接種事故が起きた時に国が責任を負いたくないから、減らせる医療費はどんどん減らしたいから、等々の理由で厚労省は積極的には勧めなくなりました。これを受けて事情のよくわからない地方自治体は一斉に厚労省からの通達をそのまま医療機関に提示しました。最初各医療機関の反応はさまざまでしたが、国が、県が、市が、勧めるなと言うならそうせざるをえないということで、平成17年以後、日本脳炎予防接種を受ける人は激減しました。私の所でも接種する人は毎年数人です。

 ところで、本当に感染の心配がない病気なら、さっさと予防接種もやめればよいのに、そういうわけでもないから中止とは言わずに「積極的に勧めない」なんて訳のわからないことを言ってるんでしょうね。
 「流行地域(朝鮮半島、台湾、中国、ベトナムなど)などへ出かける場合や、 蚊に刺されやすい環境にある場合など、感染するおそれが高く、保護者が希望する場合には、予防接種の効果、副反応などにつき、医師の説明を受け、同意書を提出した上で接種することができる。」などといってますが、蚊に刺されやすい環境とはどんな環境か全くわからないじゃないか? それに、この同意書見ればわかるけど、これでも受けるかと言わんばかりの文面です。
 結局接種するからには、接種する医師、接種される人(小児科の場合は保護者)が、責任をとりなさいよと言うことに他なりません。これでは、接種する人も受ける人も少なくなるのが当然です。

 このまま、日本脳炎患者が発生しなければ、あまり問題にならなかったかもしれないけど、平成18年、熊本県で3才の子が日本脳炎にかかってしまいました。少し後遺症が残ったようです。そこで、西日本の小児科医には厚労省の通達に反して積極的に日本脳炎予防接種を勧める人も出てきました。
 次第に日本の国あちこちでこのまま接種を見送っていていいのだろうかという気運が高まりつつありますが、岩手県、特に盛岡市においては殆ど接種されていないようです。

 読売新聞の記事の内容は以下の通りです。
・感染予防の視点から日本脳炎予防接種を続けることが不可欠。
・中断期間が3年以上と長期化し、免疫を持たない幼児が増えている。
・現行のワクチンは来年分も含めて、170万本しかなく供給が底をついている。
・西日本の幼児らへの優先接種や、ワクチンを受け損ねた子どもの対策を話しあう。
・昨年度の接種状況は、3〜4才で1割前後まで減少。免疫を持っている率も2割以下に落ち込んでいる。

 「積極的に勧めない」と言うものの、厚労省も少し心配になってきたみたいですね。もし、この夏一人でも子どもの日本脳炎患者が出たら、大変ですよ。接種を希望すれば受けることができると言っておきながら実際はワクチンが足らず希望者全員が接種できる状況ではないですからね。
 ここにも、我が国の予防接種事業の貧困ぶりが伺われます。

 最後に副作用被害家族からのコメントを掲示します。接種を迷っている方にはお勧めしませんが、接種を希望される方には接種していますのでどうぞおいで下さい。
「1000万分の1の副作用に娘が見舞われたのは、運が悪いとしか言いようがない。そのことで予防接種を中止してよいものかどうか、とも悩んだ。両親は、苦しみ抜いた末、娘のように、まれな後遺症が起きるとしても、重い感染症を防ぐには予防接種は必要、と考えるに至った。」

2008年7月21日(月)
高校野球

 ふだんあまり高校野球を見ることはありませんが、今年は久々に母校(盛岡一高)が、ベスト4まで進出しましたので、決勝は応援に行こうと思っていました。
 残念ながら昨日負けてしまいましたが、一生懸命頑張ったのですから、いい思い出になると思います。それに、社会に出てからも高校運動部で鍛えた精神力はキット役に立ちますよ。
 選手の中には、小さい頃に私が診たお子さんもいます。去年の春、麻疹が首都圏で流行した時、野球部の生徒さん達がおおぜいワクチンを受けにきました。しっかりしてますね。

 高校野球にまつわる思い出話を一つご紹介したいと思います。といっても、もう20年近く前になりますが、その頃私は県南の県立病院に勤務していました。この町の私立高校(S高校とでもしましょうか)は野球が強く、その頃で既に県代表の常連でした。何人かは県外からも入学してきてました。

 ある日、県外からS高校に入学した高校1年生が医師の紹介状を持って私の所にやってきました。紹介状の内容と、本人のお話をまとめると、次のようになります・・・。イヤ実に困りました。どうなってんの?。

 この子はK君といって、関東のある県で野球をしてましたが、すばらしい投手で、リトルリーグかなんかで全国優勝したのだそうです。将来はプロ?というくらい期待されていたようですが、不幸にもチョットやっかいな病気にかかってしまい。今後野球を続けるのは困難ということでした。
 しかし、K君は何が何でも野球を続け、甲子園に出場したくて、高校進学を目指しましたが、地元の高校はK君の病気のことを知り、野球名門校は彼に声をかけてくれなかったそうです。
 S高校の野球部監督は知人を通じてK君を知ったということですが、病気のことはあまり理解していなかったようです。

 私:「野球部での活動は、控えるようにとあるけど、どうしても野球したいの?」
 K君:「はい、でも無理をしないようにします。」
 私:「いくら無理をしないといっても、運動部、特に野球部はハードだから、ダメですよ。前の先生にもそういわれたでしょ。」
 K君:「大丈夫です。きちんと通院しますし、薬も飲みます。」
 
 困りました。始めから無理とわかっていながら、それでも、野球をしたくてわざわざ岩手まできたわけですから、帰りなさいと言うわけにもいかず、どうしたらよいでしょう?
 さっそく、監督さんにもお話ししましたが、「十分休養をとりながら、気をつけてみてます。何かあったらすぐ先生の所へつれてきます。」と言うことでしたが、「何かあってからではね・・・。」 というわけで、大変な不安を抱えながら、K君の岩手での高校生活が始まりました。
 
 初めのうちはまじめに通院していましたが、だんだんこなくなってきました。しばらくぶりにくると具合が悪くなっていて、短期入院ということを何回か繰り返しました。その都度、本人にも監督にも「もう野球をやめなさい。」とお話ししました。その時は「少し休みます。」ということになるのですが、しばらくするとまた野球やってるという具合でした。
 
 K君は本来『先発完投型』だったのですが、やはり病気のため、あまり無理をせず(?)主に『リリーフ』で登板していました。なんだかんだ言いながら、何とか高校3年生までやってきました。
 ところが、春に体調を崩し、また短期入院しました。「本当にもうダメだから、野球をやめよう。」といったところ、その時は渋々承諾してくれました。が、夏の予選が始まるとまた、投げてました。そんなある日、ひょっこりK君がきて、「先生や、看護婦さん達のおかげで何とか3年間野球を続けることができました。あと1ヶ月、野球をやらせて下さい。」と、いつになく真剣なまなざしで訴えてきました。イヤー、ここまでくるともう何も言えない。思わず、「頑張れよ。」といってしまいました。内心「マズイ」と思いながら・・・。

 そして、K君の活躍もあり、S高校は見事県代表になって甲子園出場を果たしましたが、私は気が気でありませんでした。「早く終わって帰ってこい」とそればかり思ってました。
 S高校は1回戦見事に勝ちました。K君はリリーフで出場、キチッと相手打線をおさえて勝利に貢献しました。翌日の新聞には、K君の記事がたくさん載ってました。「病気を克服、すばらしい精神力・技術・・・。」 何だって、いい加減なこと書くなよなー。素晴らしい精神力、技術は認めるけど、病気は治っていないよ〜。もし甲子園で倒れでもされたら、主治医は何をしている〜。ということになるじゃないか。どうして試合にだした〜。などと自分は非難の矢面に立たされるかもしれず、早く帰ってきてちょうだい。と強く強く祈ってました。

 2回戦は残念ながら負けましたが(これで帰ってこられると私はホッとしました。)、念願が叶い、甲子園で一勝、それも自分が投げて勝ったわけですから、本人も満足でしょう。
 大会が終わって2〜3日したら、K君がきました。「3年間僕のわがままを聞いて下さりありがとうございました。先生や、看護婦さん達のことは一生忘れません。大学に進学しますが、もう野球はしません。」なにかジーンときましたね。よく頑張った。病気は治ったわけじゃないけど、そんなに悪くもならなかった。後は、故郷に帰ってゆっくり時間をかけて治療しなさいとお話ししましたら、よくわかりましたと言ってくれました。
 いつも野球をするなといわれていたから、殆どニコリともしない子でしたが、この時は本当にいい顔をしていました。なんかうれしくなって、みんなでサインをもらったんですよ。K君はサインなんかしたことないとびっくりしてましたが、スラスラと書いてくれました。今は、もう立派な大人になっているでしょう。

 夏、高校野球のシーズンになると、いつもK君のことを思い出します。「K君元気ですか。今でも君のサイン持ってますよ。」

2008年7月16日(水)
矢巾町乳幼児健診

 今日の午後は予防接種を休診して、矢巾町へ乳幼児健診に行ってきました。1年に4回くらい出かけています。たまには自分のオフィス(診療所)をはなれて仕事をするのも新鮮な気がしていいモンです。

 なぜ、わざわざ、休診してまで出張するのかというと、実はこれには深い歴史があるのです。といってもそんなに難しい話ではないのですが、今日は、私が矢巾町へ健診に行くことになったいきさつについてお話したいと思います。

 今から十数年前、私は日赤小児科に勤務していました。その頃日赤小児科は矢巾町と玉山村の乳幼児健診を担当していて、私も、矢巾町にも玉山村にもよくいってました。

 日赤を辞めて開業して1年くらいたった頃、突然、矢巾町役場の職員の方と保健婦さんが見えまして、私に乳幼児健診をして欲しいという依頼がありました。何でも、日赤は多忙でなかなか健診まで手が回らなくなったとのことでした。その頃は水曜日の午後は今のように予防接種もせず全く休診にしていましたので、時間的には余裕がありました。そこで、日赤の先生に相談したところ「是非、頼む」ということでしたので、お引き受けすることにしました。が・・・。
 人口増加の著しい矢巾町は当然の如く、乳幼児も多く、1ヶ月に3〜4回健診に出かける羽目になりました。最初はあまり負担になりませんでしたが、さすがにだんだん大変になってきました。ちょうどこの頃、矢巾町にも小児科を開業する先生が増えてきましたので、盛岡市医師会、紫波郡医師会とも相談して、盛岡市医師会としてお手伝いしようということになりました。

 現在は盛岡市医師会として私を含めて4人の小児科医がお手伝いにいっています。といういきさつですが、あまり面白い話ではないかしら?

 ときどき盛岡市から転居した赤ちゃんと会うこともありますし、たまに出かけるのは、けっこう楽しいですね。現在私が担当しているのは6〜7ヶ月児ですが、湿疹のこと、アレルギーのこと、夜泣きのこと、等々いろいろなことを聞かれます。あまり詳しい話をするとかかりつけの先生との間で迷うかもしれませんので、あっさりお話ししています。次は9月です。また、水曜日の午後休診しますがご理解下さるようお願いします。

2008年7月13日(日)
人体の不思議展

 7月12日〜8月31日まで、岩手県民会館で『人体の不思議展』という催しが開かれています。

 これは、一般の人が実際の人体の標本を見ることによって、「人の体のしくみの精巧さ、不思議さを知り、命の尊さ、健康の大切さを実感して欲しい」という趣旨のようです。全国各地を回って開催されているようです。

 実は、1ヶ月ほど前、全く面識のない人(一応、西日本のある病院勤務の医師と名乗っておりました)
から、メールが届きました。「人体の不思議展は、実物の人体の死体をさらし者のように扱い『興味本位な営利主義』に基づくものであり、人間の尊厳性を著しく冒涜(ぼうとく)するものである。」だから、「反対署名してくれ」とか、「カンパしてくれ」とか、「医師会にも後援しないよう働きかけてくれ」という内容でした。
 イヤ、驚きました。さっそく、この催しの主催者やメールを送ってきた人について調べてみましたが、よくわかりませんでしたね。実際に見ないことにはね・・・。

 そうしているうちに、この催しのパンフレットと割引券がゴッソリ送られてきました。2週間くらい前になります。これを患者さんに渡して下さいということですが、はたして、いいのかな?と少し疑問もありましたので、まだ誰にも渡していません。まず一度自分で見てから人に勧めるかどうか決めようと思いましたので、さっそく、昨日見に行ってきました。
 
 開催初日の土曜日の午後でしたが、そんなに混んではいませんでした。私たち医師は学生の時に解剖実習で人体の神経、血管、臓器などを隅から隅までくまなく、勉強させて頂きました。遺体に対して尊厳の気持ちを失わぬよう解剖実習の前と後には必ず、手を合わせました。人体標本に出会うのはそれ以来です。

 この催しで展示されている人体標本は、プラストミックという技術で作られており、保存状態がよいそうです。しかし、よく見ると、筋肉は所々ほぐれたりして、神経も中断していたり、走行がメチャクチャだったりして、失礼ながら少しお粗末な標本という感じでした。

 いろいろなポーズをとっている全身像、各臓器の陳列など多くの人体標本が展示されていました。
 ところで、日本の国では医学教育・研究以外ではこの様に人体標本の展示はできないはずと思っていましたので、会場にいたスタッフの方に、少しお話を聞いてみました。人体標本は全て中国で作られたものだそうですが、全て中国人というわけではないようでした。皆、生前に献体の許可を取っているということでした。また、外国由来の遺体は展示できるのだそうです。つまり、正規の手続きを踏んでいるから展示は別に問題はありませんといってました。

 筋肉や骨の動きをよく見せるために人体標本はいろいろなポーズをとっていましたが、興味本位なポーズにしか見えない標本もありました。実際の筋肉や骨の動きを見せるには不自然なポーズも見られました。
 人体の縦断面の展示には驚きました。人体標本をスライスハムのように切り刻んで、まるで、CTや、MRIの画像を見るようでした。また、死産した胎児の遺体がまるで月例を追うようにたくさん並んでいるのにも驚きました。

 個人の意志に基づく献体とはいうものの、その人達は生前、この様にいろいろなポーズをとらされたり、全身をスライスハムのように切り刻まれて展示されることを承諾したのだろうか・・・?

 1時間くらいで一通り見てきましたが、確かに、純粋に人体の中を見たいという人にとっては勉強になるかもしれないですが、ただ、詳しい説明は何もありませんので、医学知識のない方が見てもおそらく殆どわからないと思います。それに少しお粗末な作りの標本です。何となく人体の中を見たという程度の満足感くらいでしょうか。

 確かに、見方によっては、(少し言い方が悪いかもしれないが)、人間の尊厳を傷つけているような『興業本意の見せ物』という感じがしないでもないです。
 さしあたり、当院ではパンフレットも割引券も配布しません。(希望者には差し上げます。)今後の世間の反応が見たいです。

2008年7月6日(日)
夏カゼと、発熱

 今日は当番医でした。毎年、梅雨明け頃から「夏カゼ」が流行り始めますが、今年もそうですね。

 今日は、「急に熱が上がった。」といって受診したお子さんが殆どでした。急に熱が上がると具合が悪いですよね。「食べない、飲まない、グッタリしている。」とても心配ですよね。

 ところで、どうして熱が上がるんでしょう。考えたことありますか?
 熱の原因で一番多いのは、なんといっても【感染症】です。感染症とは、いろいろなバイ菌が体内に入って悪さをする病気のことを言います。代表的な感染症は、いわゆる『カゼ』です。

 体内にバイ菌が入ると、免疫を担当する細胞が、バイ菌をやっつけるために頑張ります。その結果熱が出るのです。言い換えますと、【熱を上げることによって、バイ菌をやっつけている。】のです。ですから、感染症で熱が上がると言うことは当然のことであり、熱を下げるということは正常な免疫反応を抑えることになり、あまりよいことではありません。

 といってもね〜。熱が上がると焦りますよね。「このままどんどん悪くなるんじゃないか」とか、「高熱が続けば頭がおかしくなるんじゃないか」とか、そんなことはないんですけど、でも心配する気持ちよくわかります。

 私の子どももまだ小さかった頃、よく熱をだしました。お母さん(私の奥さん)は心配します。でも自分は大丈夫と少し見栄を張っていましたが、内心「とんでもない病気だったらどうしよう。」と心配することもありました。なまじっか知識があるからかえって心配するんですよね。3〜4日して治ってしまえば、「マア、こんなモンだよ。」なんて言ってましたが、やはり、高熱が続けば誰でも心配になりますよ。

 《熱が続く時、気をつけてほしいこと。》
@.そんなに元気がないわけじゃない。いつもの半分くらいは食べたり飲んだりしている。→まず心配ありません。
しかし、いくら元気でも、3日以上熱が続けば、必ず、受診して下さい。

A.前の日と比べて、悪くなっているようなとき。→あまり様子など見ることなく、早めに受診して下さい。

B.食べない、飲まない、元気がない、グッタリしている。→そういうときは、熱だけの問題ではなく重症な場合もありますので、早めに受診して下さい。

 今日、発熱で受診したお子さん達、まだ熱が続いてるでしょうね。熱が下がらず、夜間診療所や二次輪番病院を受診してるかもしれません。多分、私と同じような説明をされていると思います。
 熱冷ましを使ったから治りにくくなるというわけではありませんから、いつまでも高熱が続くようでしたら使って良いですよ。1度くらいしか下がらないかもしれませんが、今日はそれで十分です。

 発熱初日はまだ、体が熱になれていないから、かなり悪く見えますが、少し時間がたつと体が熱になれてきます。明日も高熱が続いて元気がないようでしたら、早めにかかりつけの先生を受診して下さいね。皆さんお大事にね。

参考までに→発熱と熱さまし

2008年7月4日(金)
頭ジラミ

 梅雨になったせいか、このごろ、はっきりしない天気が続きますね。盛岡の梅雨はあまり雨も降らず、暑いんだか寒いんだかわからないままにいつの間にか、夏になって、すぐ秋になって、・・・。
 
 先週までは、あまり夏かぜの患者さんも見ませんでしたが、今週になったら、プール熱や、ヘルパンギーナも少し見られるようになりました。そろそろ夏です。

 数日前に、ご近所の皮膚科の先生から、「最近、頭ジラミの小学生がよく受診します。先生(私のこと)が学校医をしている小学校のお子さんもよくきますが
、そちらはどうですか。」と言うようなお電話がありました。
 たまに、頭ジラミのお子さんも受診しますがそんなにくるわけではなく、やはり皮膚科を受診することが多いようです。
 頭ジラミは、決して不衛生にしているからなるのではなく、集団生活の場で、頭と頭が接触することによって感染が拡がっていきます。頭ジラミのタマゴは、0.5mmx0.3mm位の大きさで、髪の毛の片側に飛び出すように固定されてますが、頭ジラミの幼虫や成虫は頭髪の間を素早く動き回ります。
 頭ジラミが寄生して1ヶ月くらいたつと、かゆみが出てきます。頭がかゆくてよく見ると、なにか白いモンがむずむずと動いてるようなので病院を受診というパターンが多いようです。
 園児や、児童に頭ジラミが見つかった場合、かなり広い範囲で感染が起こっていることが予測されますので、集団で検診、治療することが大切です。櫛や、タオルの貸し借りからも感染しますので、集団ではこの様な貸し借り行為は行わないようにしましょう。
 治療はシラミ駆除剤配合のシャンプー:スミスリンシャンプーや、パウダー:スミスリンパウダーが、市販薬として売られていますので、これがよいようです。また、シーツや枕カバーを熱湯消毒したり、ドライクリーニングにだすのも効果があるそうです。

 頭ジラミは普通の生活のなかで感染します。不衛生によって感染するのではありませんので、周囲の人たちもあまり心配しないで、特にいじめの対象にならないように注意することも大切です。