食物アレルギー

 近年、食物アレルギーの患者さんは増加の一途をたどり、その多くが乳児期に発生するため、摂取する食品が制限され、お悩みのお母さんも多いと思います。

 食物アレルギーの有病率は、乳児で5〜10%、学童期以後で1.3%程度です。しかし、アトピー性皮膚炎の乳児(1才未満)では、約70%に食物アレルギーを合併しているといわれます。年令が進むにつれて次第に食物アレルギーは軽快することが多いのですが、それまでは、食事に気をつけなくてはいけません。

 一口に、食物アレルギーといっても、食物アレルギーが疑わしい場合から、重症な症状を起こす可能性がある場合まで、その幅はかなり広いです。重症な症状を起こす可能性がある場合は、当然、しばらく除去ますが、そうでなければ、あまり神経質にならなくても良い場合も多くあります。


 どんな症状が見られるの? 

 食物アレルギーの症状は、その食品を食べてから、症状の現れるまでの時間の長さによって、即時型非即時型とに分類されます。

@.即時型アレルギー
 即時型アレルギーの一番多い症状は“じんましん”です。原因となる食物を食べてから、数分くらいで顔面から次第に全身に広がります(大体は1時間以内)。じんましんの他に呼吸器症状(喘鳴、咳、鼻汁、など)や、消化器症状(下痢、腹痛、嘔吐など、)などが見られます。

 “アナフィラキシー”という言葉をご存じでしょうか、アナフィラキシーは、食物摂取後15〜30分くらいのうちにおきる“多臓器のアレルギー症状”で、喘鳴、呼吸困難、全身のじんましん、顔面浮腫、結膜充血、著しい鼻閉、喉頭浮腫、等々の重症な症状がみられます。さらに、血圧低下、頻脈、チアノーゼ、顔面蒼白、のような循環障害が見られる場合をアナフィラキシーショックといってすぐに救急処置をする必要があります。ソバアレルギーのアナフィラキシーが有名ですが、エビ、カニ、セロリ、小麦などでもおこります。

 アナフィラキシーには、“食物依存性運動誘発アナフィラキシー”といって、食事後に運動を行った場合にみられることがあります。症状が軽い時には、気がつかないままでいることもありますので、運動時にいつもより調子が変だなと思ったら、食事もチェックする必要があります。

 A.非即時型アレルギー
 これに対して、非即時型は、原因食物を食べてから、数時間経過して症状がでてきます。(症状発現まで24〜48時間以上かかる場合もあります。)非即時型アレルギーの症状は、消化器症状(下痢、血便、体重増加不良、便秘、など)や、皮膚症状(アトピー性皮膚炎の悪化、むくみを伴う湿疹、など)が多く見られます。食後時間がたってから症状が発現しますので、食物との関連性を証明することが難しいこともあります。

 一般に、即時型の方が非即時型に比べて強い症状がみられます。

 赤ちゃんの食物アレルギーでも、じんましんが多いのですが、頑固な下痢、原因不明の血便、体重増加不良などがみられることもあります。このような場合、ミルクの非即時型食物アレルギーを少し疑う必要があります。


 どんな検査をするの?

 アレルギーの検査では、血液検査や皮膚反応によって、特異的IgE抗体を調べることがよく行われます。

 何か特定の物質とだけ反応する抗体のことを特異的IgE抗体と言います。例えば、卵白なら卵白とのみ反応する抗体を、“卵白に対する特異的IgE抗体”といいます。
 
 特異的IgE抗体の存在は、その食品に対してアレルギーを起こすという事ではなく、アレルギーを起こす準備ができているという意味です。この状態を感作といいます。 しかし、感作されているだけでは(抗体が陽性だからといって)、必ずしも、それがアレルギーの原因というわけではありません。数値の程度、食物の種類、年令、などによって評価も変わります。

 特異的IgE抗体が検出されている食品を食べて、すぐ症状が出れば、まずその食品が即時型の原因である可能性が高いです。

 この様に、即時型は、特異的IgE抗体が検出されることが多く、わかりやすいのですが、非即時型では、特異的IgE抗体が検出されず、診断が難しいこともあります。

 つまり、抗体があっても食べられる場合もありますし、抗体がなくても症状が見られることがあります。ですから、特異的IgE抗体の存在は参考にはなりますが、確定診断には不十分な時もあります。

 確実な検査は、負荷試験です。これはアレルギーが疑われる食品を実際に食べて症状の有無を見る検査です。わかりやすい反面、もともとアレルギーを起こす食品を食べるわけですから、慎重に行う必要があります。

 最近の負荷試験は、診断よりも、“どのくらい食べられるかどうかを確認”するために行われることが多くなりました

 原因がはっきりしない時、食物日誌をつけるとわかることがあります。食物日誌に、毎食どんなものを食べたか記入するわけですが、いつも同じ食品を食べた後に、同じような症状が出れば、原因食品の可能性が高くなります。 

 また、除去試験といって、疑わしい食品の摂取を2週間くらい中止してみることがあります。症状の改善(例えば、湿疹が良くなるなど)が、みられれば、その食品が原因である可能性が高まります。


 アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとはどんな関係なの?

 現在のところ、食物アレルギーが、アトピー性皮膚炎の直接の原因にはならないと思われています。つまり、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、関係が深いものの、それぞれ別の疾患と考えた方がよいと思います。

 逆に、アトピー性皮膚炎が、食物アレルギーの原因になる場合が考えられています。食物抗原は、口(消化管)から体内に入るだけでなく、皮膚からも体内に入って食物アレルギーを引き起こす場合があります。生後5〜6ヶ月のアトピー性皮膚炎乳児では、まだ食べていない食物の特異的IgE抗体が、検出されることが多く、これは、乳児期早期に皮膚からの感作が起きたと想定されます。

 アトピー性皮膚炎は生後1〜2ヶ月で、すでに発症が見られます。湿疹の状態が悪いほど、食物抗原は体内に入りやすくなると考えられます。ですから、乳児期早期に湿疹を十分治療すれば、皮膚から食物抗原が入り込むことを防ぎ、その後の食物アレルギー発生を防ぐ事ができるかもしれません。

 食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎では、即時型、非即時型の両方が関係しますが、非即時型の反応の方が主体と考えられています。食後は何ともなくても、時間がたってから湿疹が悪化するようなときは、非即時型の反応が関係している場合もあります。

 下の図のように、アトピーだけの人、食物アレルギーだけの人、アトピーと食物アレルギーの両方を持つ人がいると考えるとよいでしょう。


 母乳は大丈夫なの?

 【食物抗原が母乳を介して赤ちゃんに移行し、アレルギー症状を引き起こす】ということもあると考えられていますが、決して、多いことではありません。むしろ、稀です。

 以前はスキンシップの点からも、母乳は望ましく、また母乳の成分はたいへん免疫に富んでおり、母乳はアレルギーを抑制するように考えられていました。

 基本的な考え方はこの通りと思いますが、時々、完全母乳の乳児期早期のアトピー性皮膚炎の赤ちゃんから特異的IgE抗体が検出されることがあります。この様な場合には、母乳からの感作が疑われます。

 しかし、これは一部の完全母乳の赤ちゃんに見られることであり、母乳を否定する根拠にはなりません。

 乳児期早期のアトピー性皮膚炎の赤ちゃんは、免疫のバランスが悪く、アレルギーを起こしやすくなっています(乳児のアトピー性皮膚炎:乳児アトピー性皮膚炎の自然歴と、免疫バランスの不均衡)を参照)。この様な状態において、母乳が好ましくない場合があると考えられています。

 つまり、母乳が悪いのでははなく、赤ちゃんの免疫に問題があるということです。

 では、実際どのような場合に母乳をやめればよいかというと、特別な基準はありませんが、一般的には次のような場合には、お母さんの除去食、あるいはアレルギー用ミルクへの切り替えを考慮することがあります。

@.乳児期早期から、中等症〜重症アトピー性皮膚炎。 
A.通常の治療に対して反応がよくない(治りにくい)。 
B.食物の特異的IgE抗体が強陽性。
C.家族のアレルギー歴がはっきりしている。
D.体重増加不良〜難治性下痢を伴う場合も多い。


 アレルギーをおこしにくい食事(幼児期以降)

@.加熱すると抗原性は低下する
 消化が不十分ですと、タンパク質は分解されず、抗原となってしまいます。加熱することにより、消化がよくなります。少しでも油:脂質を使わないように、焼く、揚げるよりは、茹でる、蒸す方がよいです。

 牛乳中の蛋白は、加熱しても抗原性に変化しませんが、加熱することにより消化が良くなります。また、卵白には、抗原性の強い4種類の蛋白質(オボアルブミン、オボトランスフェリン.、リゾチーム、オボムコイド)が含まれていますが、オボムコイドのみが熱に対して安定しており、他の3種類の蛋白は加熱すると抗原性を失いアレルギーをおこさなくなります。

A.ワン・パターンメニューの繰り返しはダメ→回転食のすすめ
 同じ食品を繰り返し、大量に食べるとその食品に対するアレルギーを作りやすくなるので、多くの食品を少しずつ組み合わせて、食べるようにしましょう。 そのためには回転食をお勧めします。同じ食品を、続けて摂らないように回転するように順番を代えていけばよいです。例えば、今日豚肉を食べたら、明日は魚という具合です。
 また、アレルギーの人は一般にミネラルが不足がちですので、乳幼児期から、緑黄野菜、小魚、海草類を多く摂取しましょう。(和食のすすめ

 和 食 の す す め 回転食

  : まめ類
: ごま類
: (は)わかめ類
: やさい類
: さかな類
: しいたけ類
: いも類

B.脂質の摂取を少なくしましょう→ここでも“和食のすすめ”  植物性脂肪のうちリノール酸は、アレルギー反応を促進するロイコトリエンを多く含んでいます。リノール酸を多く含む食品を摂りすぎるとアレルギーは治りにくくなります。
 同じ植物性脂肪でもα−リノレン酸は、リノール酸の働きを抑えて、アレルギー反応に抑制的に作用します。ですから、普段から、リノール酸の多い食品は控えめにして、α−リノレン酸を多く含む食品を摂ることが大事です。

リノール酸の多い食品と、α−リノレン酸の多い食品

@.リノール酸の多い食品
(1) サラダ油、ベニハナ(サフラワー)油、月見草油、コーン油、ゴマ油。
(2) マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、揚げ菓子等、上述の油を使ったもの

A.αーリノレン酸の多い食品
(1) 魚介類一般(アワビを除く)、海草類。
(2) 野菜類、根菜類。
(3) シソ油、エゴマ油。


 治療は?〜除去食と、アウト・グローと、経口免疫療法〜

 食物アレルギーを治療する特効薬はなく、一定の期間、“適切な除去食”をする事が一般的な対策ですが、これは除去すべき食品を、必要な期間だけ除く方法であり、ずっと食べないようにするというわけではありません。

 多くのアレルギー疾患では、成長とともに症状が改善していくことが経験されます。これを“アウト・グロー”といいますが、食物アレルギーにもアウト・グローはみられます。
 
 食物アレルギーのアウト・グローは、経口免疫寛容 という考え方に基づいています。経口免疫寛容とは、消化管が成熟するにつれて、粘膜や免疫の働きが強まり、アレルギーをおこす食品を少しずつ認識して、そのアレルギー反応を抑えるように働く現象です。

 アウト・グローの見られる年令は、症状の強さ、食品の種類などにより、個人差があります。卵アレルギーでは2〜3才までに60%が改善し、7才までに殆どの子が卵を食べられるようになります。牛乳アレルギーでは、1才までに60%、2才までに80%、3才までに90%が改善します。

 従来、食物アレルギーは3才頃からは自然に治癒する場合が多いので、アウト・グローを待つのが一般的でした。しかし、これではいつから食べることができるのかはっきりせず、「偶然、少し食べてみて大丈夫だったから、たぶん大丈夫?」というのが現状です。

 そこで、除去食は短期間にとどめ、、アウト・グローを早める試みとして、「少しずつ食べることにより、次第に慣れて、普通に食べられるようになる。」ことを目標とした治療〜食物アレルギーの経口免疫療法〜が、考案されるようになってきました。

 「食物アレルギーの経口免疫療法」を開始するにあたり、アレルギーを起こす食品の安全な量を決める検査が負荷試験です。前述したように従来の負荷試験はアレルギーを起こす食品を確認する意味で行われていましたが、最近は経口免疫療法を始めるために、“どのくらい食べられるかどうかを確認”する意味で行われることが増えてきました。経口免疫療法は治療というよりも「食事指導」と言った方がわかりやすいように思います。