乳児のアトピー性皮膚炎

★ 赤ちゃんの赤い湿疹は、アトピー?

 乳児のアトピー性皮膚炎は、よく見られる疾患ですが、乳児期早期は、赤いブツブツができる皮膚の病気は、たくさんあります。ですから、アトピー性皮膚炎とその他の湿疹との区別が、難しい時期でもあります。
 生後1〜2ヶ月くらいの赤ちゃんは、皮脂の分泌が多く、赤ちゃんニキビといわれるような赤いブツブツがよくみられますが、アトピーではありません。 また、生後2〜3ヶ月頃になると赤ちゃんの皮膚は乾燥して、ガサガサしてくる場合が多いのですが、乾燥肌が全てアトピーというわけでもありません。


 赤ちゃんの赤い湿疹は、アトピー?〜赤いブツブツができる皮膚の病気〜


 乳児アトピー性皮膚炎の特徴、診断基準は?

 簡単にいえば、「良くなったり悪くなったりして、慢性的に続くかゆみの強い湿疹で、アレルギーが関係する場合が多い。」と言えます。

 一般に、アトピーの赤ちゃんでは、生後1〜2ヶ月頃の乳児期早期から湿疹がみられています。湿疹は、最初、頭部、顔面から始まり、次第に下降してきます。 湿疹のピークは離乳食開始期に相当する5〜6ヶ月の間に多くみられ、その時期を過ぎると、少し改善傾向がみられ、顔面の湿疹は1才頃には殆ど消退してしまいます。

 卵白に対する抗体(特異的IgE抗体)は、4ヶ月で既に陽性になっている場合が多く60%を越えています。注意しなければならないのは、卵白の抗体が検出されたからといって、全員が卵白を食べられないというわけではありません。1才くらいまでは控えるとしても、その後は食べられるお子さんが多数を占めています。検査については、アトピー性皮膚炎の検査:特異的IgE抗体とTARC(後述)を参照して下さい。

 以上より、最近は、「“皮膚のかゆい状態”がある」を必須項目として、次の@.〜C.の3つ以上を満たす場合を、乳児アトピー性皮膚炎と診断するようになりました。

@.現在,肘窩や膝窩などの屈曲部,頬部,四肢外側のどこかに湿疹が確認できる。
A.屈曲部,頬部,四肢外側のどこかに湿疹の既往がある。
B.皮膚乾燥の既往がある。
C.一等親以内にアレルギー疾患の既往がある

 なぜ、このような湿疹が出るのか、今のところ、はっきりとした原因は分かっていませんが、乳児期の乾燥肌、免疫バランスの不均衡、環境(衣・食・住)の変化、遺伝的要因、等々いくつもの原因が複雑に絡んでいるものと考えられています。


 乳児アトピー性皮膚炎の自然歴と、免疫バランスの不均衡

 人間の免疫には2種類あり、それぞれ、Th1とTh2と呼ばれます。主に、Th1は、ばい菌をやっつける働きがあり、Th2は、アレルギーに関係します。本来、Th1とTh2とは、バランスを取り合ってちょうど良い状態にあるはずですが、Th2がTh1より強くなるとアレルギー疾患が発症しやすくなります。

 妊娠中の母胎では、Th2がTh1より強いのですが(このため、妊娠中に喘息やアレルギー性鼻炎が悪化することがあります。)、通常は、出生とともにTh2が弱まります。ところが、乳児期にアトピーを疑われる赤ちゃんの殆どは、Th2が強い状態のままと考えられており、アレルギーを起こしやすくなっています。
 
 しかし、1才半〜2才くらいまでには、自然にTh2が弱まり、Th1とTh2とのバランスがよくなりますので、乳児アトピーはこの頃に軽快するものと考えられています。つまり、乳児アトピー性皮膚炎は難治性の成人アトピー性皮膚炎とは根本的に違うのです。


 アトピーとアレルギーとの違いは?

 アトピーとは<変わった>とか<不思議な>というような意味です。アトピー体質とは、一言で言えば、普通の人では何でもないような刺激に対して、敏感であったり、いろいろな変わった反応が、起こる体質といえます。例えば、化繊の下着を着たとたんにかゆくなったりするような過敏な肌であったり、タバコの煙や冷たい空気で喘息発作がおきるような場合がそうです。 

 これに対し、アレルギーは、食物、ダニ、花粉など特定のものに対して、免疫が過剰に働き、いろいろな体内反応が引き起こされることを言います。

 両者を比較しますと、アレルギーは免疫の異常反応ですが、アトピー体質は免疫の異常だけでは説明のできない反応をも、含んでいるといえます。

 下図のように、アトピーは、アレルギーとアレルギー以外の反応の両者を合わせ持っていると思えばよいでしょう。


 アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとは別のもの

 現在のところ、食物アレルギーが、アトピー性皮膚炎の直接の原因にはならないと思われています。つまり、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、関係が深いものの、それぞれ別の疾患と考えた方がよいと思います。

 逆に、アトピー性皮膚炎が、食物アレルギーの原因になる場合が考えられています。食物抗原は、口(消化管)から体内に入るだけでなく、皮膚からも体内に入って食物アレルギーを引き起こす場合があります。生後5〜6ヶ月のアトピー性皮膚炎乳児では、まだ食べていない食物の特異的IgE抗体が、検出されることが多く、これは、乳児期早期に皮膚からの感作が起きたと想定されます。

 アトピー性皮膚炎は生後1〜2ヶ月で、すでに発症が見られます。湿疹の状態が悪いほど、食物抗原は体内に入りやすくなると考えられます。ですから、乳児期早期に湿疹を十分治療すれば、皮膚から食物抗原が入り込むことを防ぎ、その後の食物アレルギー発生を防ぐ事ができるかもしれません。

 アトピー性皮膚炎で、食物アレルギーの関与を考える場合は、通常の治療(ステロイド外用剤や、保湿剤を十分使用しても)では、なかなか症状がよくならないときです。しかし、こういう場合は決して多くはありません。

 下図のように、アトピーだけの人、食物アレルギーだけの人、アトピーと食物アレルギーの両方を持つ人がいると考えるとよいでしょう。


 アトピー性皮膚炎の検査:特異的IgE抗体とTARC

 アトピー性皮膚炎で、抗体(特異的IgE抗体)を調べる意味は、「アトピー性皮膚炎に合併するアレルギー疾患」を調べると言うことです。アトピー性皮膚炎の原因を調べているのではありません。 

 例えば、卵の抗体が検出された場合、卵による食物アレルギーが見られる可能性はありますが、卵がアトピー性皮膚炎の原因と言うことではないのです。

 食物アレルギーでよく見られる症状はじんましんです。ある食物に対する抗体が検出された場合、それに対してアレルギーを起こす可能性があります。検査値が高値(一般にRASTスコア3以上)の場合は要注意です。ただし、食物の種類、検査値の程度、年令などによってその判断は変わります。

 「アトピー性皮膚炎の重症度」はTARC(タルク、ターク)という血液検査で調べることができます。アトピーの皮膚は一見、きれいになったように見えても、まだ痒みが残っていたり、ガサガサしていることがあります。

 皮膚はウエハースのように何層にも重なって出来ていますので、皮膚表面がきれいになったように見えても、皮膚深部ではまだ炎症が残っている場合が多いのです。この皮膚深部での炎症の程度、言い換えればアトピーの重症度を見るのがTARCです。TARCは治療内容を決める上で価値ある検査といえます。

 TARCは、乳児のアトピー性皮膚炎にも用いられるようになってきました。乳児湿疹と言われている赤ちゃんの中には、かなり多くのアトピー性皮膚炎が混じっています。しかし、診断がつくのは湿疹が全身に広がってくる3〜4ヶ月頃です。ここから治療が開始されているのが現状です。

“アトピー性皮膚炎の早期介入”とは、乳児期早期から積極的にアトピー治療を開始することを言います。アトピー性皮膚炎の赤ちゃんでは、顔にしか湿疹が見られていない生後1〜2ヶ月くらいの乳児期早期でも、既にTARCはかなり高値になっていることがあります。つまり、皮膚深部では炎症が進んでいると言うことです。これが月齢が進むにつれて全身に拡がっていくわけです。

 TARCを参考にして、乳児期早期から積極的に治療を始めれば、湿疹が全身に拡がることを防ぐことができるかもしれません。


 乳児のアトピー性皮膚炎で悩まないように(よくあるパターンを参考に)

 生後1〜2ヶ月頃に湿疹がみられるようになりますと、まず、小児科を受診(1件目)することが多いと思います。最初、乳児湿疹と診断され、非ステロイド系外用剤(コンベック、ベシカムなど)が処方されることが多いと思います。ところが、塗れば塗るほど湿疹がひどくなります。

 これは大変と他院(2件目)を受診しますが、今度はアトピーと診断され、ステロイド外用剤が処方されます。今度はあっという間に湿疹はよくなりました。でも塗るのを止めると、また湿疹が出ます。また塗るとよくなるのですが、止めるとまた湿疹が出ます。よく見るとこの薬はステロイド!。ずーと使ってもよいのか不安になってきます。

 そこで、また、他院(3件目)を受診します。アトピーはアレルギー(?)というもっともらしい説明をうけ、アレルギー検査で採血され、その結果がどうあれ、アレルギーの薬(ザジテン、ザイザル、インタール、ブレント)を処方され、卵はダメ母乳は中止し、ミルクはアレルギー用ミルクへ変更され、だからといってステロイドを止めるわけにもいかず、湿疹は一進一退を繰り返します。

 子育て雑誌やインターネットには、百花繚乱のごとくアトピーの話題が満載されています。何が正しいのかどこの病院へ行ったらよいのか、これでは悩むなという方が無理というもの。

 乳児のアトピーは、成人のアトピーのように難治性ということは少なく、殆どは免疫のバランスがよくなる1才半〜2才頃に軽快〜治癒します。それまでは湿疹の消長を繰り返しますが、特別な治療法はなく、スキンケア薬物療法(ステロイド外用剤、抗アレルギー剤、等)環境整備、が基本治療です。

 何でもやればよいというわけではなく、また、何もしなくてもよいということではありません。そのお子さんにあった治療法が大切です。

 学童〜思春期〜成人では、長期間治療が必要なこともありますが、学童以後のアトピー性皮膚炎は、乳児のアトピー性皮膚炎と少し別な見方をした方がよいと思います。

 普段の診療で気がついたことを“〜乳児のアトピー対策〜”としてまとめてみました。乳児のアトピー性皮膚炎で悩まないように、参考にして下さい。


 〜乳児のアトピー対策〜

★☆★ アトピー性皮膚炎治療の3大原則
スキンケア→@. ・薬物療法→A.B. ・環境整備→C.D.E.

@.スキンケアは、保湿剤を十分に塗りましょう。
□ スキンケアとは“皮膚を清潔にして、外部の刺激から保護し、皮膚内に十分な水分を保つ事”です。そのためには、保湿剤は1日3〜4回塗りましょう。
□ 1日に何回も塗るのが大変な時は、朝、昼は塗りやすいローションで、夜はたっぷり軟膏を→入浴後は効果抜群、入浴後5〜10分以内に塗りましょう。
□ 皮膚の状態によっては、保湿剤でも皮膚に刺激を与えます。そのときの皮膚にあった保湿剤を選択しましょう。
□ 食事で口の回りが汚れやすい時は、食事の前にも保湿剤を塗りましょう。
□ 少し良くなったからといってすぐ止めず、毎日続けることが大事です。

A.ジュクジュクして、かゆい時は、ステロイド外用剤を
□ ジュクジュクして、かゆい時、つまり、炎症の強い時は、ステロイド外用剤を医師の指示通りに塗りましょう。
□ ステロイド使用初めは、正しい使い方を理解するために、必ず決められた受診日に受診しましょう。
□ ステロイドに期待すること:ジュクジュクせず、かゆみがある程度おさまること。そのためにはメリハリのある使い方が大切です。
□ 皮膚の状態で塗り方も変わります。指示通りに塗っても改善しないときは早めに受診しましょう。
□ 非ステロイド系外用剤(コンベック、ベシカム、スタデルム、等)は、敏感な肌ではかぶれやすいので、アトピーで使うことは殆どありません

B.内服薬は“効能”をよく理解してから飲みましょう。
□ 抗アレルギー剤(ザジテン、ザイザルなど)は、直接、アトピーを治す薬ではありません。“症状(かゆみ)を軽くする薬”です。
□ インタール、ブレントは、“食物アレルギーで悪化するアトピー性皮膚炎” には有効とされていますが、直接、食物アレルギーを治す薬ではありません。いくら飲んでも、食物アレルギーは治りません。

C.衣:下着は、肌に優しい木綿 を。
□ 自動洗濯機は濯ぎの時間を長めにしましょう。(漂白剤は使わないように、洗剤は少なめに、残留洗剤に注意)。
□ 体温が上がるとかゆみが強くなります。お風呂の温度はぬるめにして、冬は、脱衣所を暖めるようにしましょう。
□ 低刺激性石鹸は乾燥肌にはよいが、洗浄力が弱いため脂漏性湿疹には不向き。

D.食:あまり神経質にならないように。
□ 除去食は、はっきりとした根拠のある場合だけにしましょう。
□ アレルギー用ミルクが必要な場合は、原則的にミルクアレルギーの時だけ
□ 動物性蛋白質は症状をみながら、ゆっくり始めましょう。
□ 乳児期から和食を心がけましょう。焼く、炒めるよりは、煮る、蒸す。

E.住:ダニ・ホコリ対策が大切。
□ 敷き布団、掛け布団にも掃除機をかけましょう(布団専用ノズルが便利)。
□ 長くしまっておいた布団には、必ず、掃除機や布団乾燥機を使用しましょう。
□ とれる絨毯は、なるべくとりましょう
□ 毛のあるペット(イヌ、ネコ)は、なるべく避けましょう。
□ 冷暖房は外気との温度差を少なく、エアコンのフィルター掃除を忘れずに。

F.医師を上手に活用しましょう。
□ 受診日に聞きたいことは、前もってメモしていきましょう。
□ 何でも疑問なことは、遠慮なく尋ねましょう。
□ 受診日は守りましょう
□ 患者さんが言いたいことが言えて、気分が安らぐ診療がベストです。

G.悪質なアトピー・ビジネスに注意。
□ 広告を鵜呑みにしないこと、体験談は作り話が多い。
□ 高価なものには要注意(薬と化粧品は高くないと売れないらしい...?)。
□ まず、医師と相談するようにしましょう。

H.治療目標を定める。
□ 多少の赤み、かさつきはあまり気にしないようにしましょう。
□ よく眠れて、日常生活に支障がなければ、大丈夫。と考えましょう。
□ 乳児アトピーの自然歴を理解しましょう。


 〜治療の継続が大切です〜

 アトピーの薬物治療は、ステロイド外用剤や保湿剤を塗ることです。一見、簡単なように見えますが、けっこうコツがいります。

 ステロイドを塗るとよくなるけど、止めると、また湿疹が出て悪化してしまう。また塗るとよくなるが、止めると悪化する・・・。この繰り返しが多いように思います。

 医師からは、“よくなったらステロイドは止めましょう”といわれても、現実には(すぐ、再発するじゃないか!!)ということになります。“よくなったら止めましょう”という言葉の前には、“副作用が心配だから”と言う文言がみえます。これでは、どうしてよいのか、途方に暮れるばかりです。“よくなったら止めましょう”は、‘母を悩ませる悪い言葉’かもしれません。

 医師の説明は、“よくなるまでステロイドを使いましょう”が、正しい表現です。次に、“そのためには、継続的に診察して、皮膚の状態にあったステロイド外用剤を使用します。”と言う文言が続きます。

 アトピーの皮膚をよ〜く見ると、いつも同じではないですよね。ジュクジュクした赤みの強い湿疹と乾燥してガサガサした黒っぽい湿疹では、使うステロイド外用剤も保湿剤も当然異なってきます。

 ステロイド外用剤を上手に使うには、その時々の皮膚の状態にあったものを選択することが大切です。いつも同じ薬ではないのです。正しい治療をするためには、継続的に受診して下さい。治療を続けるうちに、必ず、ステロイド外用剤の安全な塗り方のコツをつかんできます。

 不安なことも多いでしょうが、<あと1年もすればよくなるんだ>と考えて、あまり神経質にならないことが大事です。乳児のアトピーは治りやすいのです。 それは、心身の成長とともに、免疫力が増強し(ステロイドホルモンは体内でも作られているのです)、皮膚も丈夫になり、自然治癒力が高まっていくからなのです。

 すぐ治らないからといってあせらないこと。親のストレスは赤ちゃんのストレスとなり、かえって治りにくくしてしまいます。のんびりと構えて下さい。