肺炎球菌とは? 予防はワクチンが最善です。    

 子どもの細菌感染症の原因として、最も多いのが肺炎球菌です。中耳炎、肺炎、菌血症(注1)、細菌性髄膜炎のような病気の原因になります。

 肺炎球菌は、とてもありふれた菌で、多くの子どもが鼻や喉に保菌(菌を持っていること)しています。汚い青っぱなを垂らしている子は、まず保菌していると思って間違いありません。ただ保菌しているだけなら問題になりませんが、肺炎球菌は菌の表面に莢膜という膜を持っており、人の免疫(抗体)が効きにくくなっています。

 健康な人では、体内まで菌が侵入しがたいのですが、2〜3才までの乳幼児では、肺炎球菌に対する免疫を持っていないため、容易に感染症を起こしてしまいます。

 肺炎球菌や、Hib(ヒブと読みます。注2)は、乳幼児の鼻や喉から感染します。保育園のような集団生活を始めた乳幼児の半数が、4月の入園時点では、いずれの菌も保有していなかったのに、わずか1〜2か月後には、ほぼすべての園児が、肺炎球菌やHibを保菌していたという報告があるくらい、集団生活の場では容易に感染をする菌です。

 この様な肺炎球菌感染症から体を守ってくれるのが、肺炎球菌ワクチンです。肺炎球菌ワクチンを接種すれば、肺炎球菌による感染症の80%を予防することができます。


注1: 菌血症とは、「血液中にバイ菌が入り込んだ病態」を言います。5歳未満の子どもの発熱では500人に1人くらいが「菌血症」になっています。乳幼児の発熱のほとんどはウイルス性のカゼで、「菌血症」は、そんなに多く見られるものではありませんが、「重症肺炎」や「細菌性髄膜炎」を引き起こすことがありますので、怖い病態です。
 菌血症の80%は肺炎球菌が原因で、15%はHibが原因です。残念ながら、発熱の初期に「菌血症」や「細菌性髄膜炎」と、何もしなくても治る「カゼ」とを確実に区別する方法はありません。どのような検査をしても30%くらいは見逃されます。 こういう事実からも肺炎球菌やHibの感染を予防するワクチンが必要とされます。

注2: Hib:Haemophilus Influenzae b =インフルエンザ菌 b型 については、“Hibワクチン”をご覧下さい。肺炎球菌とHibは、どちらも乳幼児に細菌性髄膜炎のような重症感染症を引き起こす菌としてよく似ています。 


 肺炎球菌に罹ると、どんな病気になるの?


 肺炎球菌が原因の病気は?

 肺炎球菌感染症で、よく見られる病気は、中耳炎、肺炎、菌血症、細菌性髄膜炎です。肺炎球菌が、耳に入ると「中耳炎」を、肺に入ると「肺炎」を、血液の中に入ると「菌血症」を、脳や脊髄を覆っている髄膜の中に入ると「細菌性髄膜炎」を、発症します。
 
 肺炎や中耳炎も、薬が効きにくく重症化する場合が多いですが、。なかでも、もっとも重症な病気が、細菌性髄膜炎です。 

 これらの病気は、他の細菌やウイルスが原因で起こることもありますが、肺炎球菌が起因菌(原因となる菌)であることがほとんどで、細菌性髄膜炎ではHibに次いで、2番目に多いです。また、肺炎、中耳炎、菌血症の起因菌では1番目です。(中耳炎の起因菌は、年令により若干の差がありますが、幼少児では、肺炎球菌が多い傾向にあります)


 もっとも重症な病気が、細菌性髄膜炎です。

 肺炎球菌が、脳の髄膜に感染すると、「細菌性髄膜炎」を引き起こします。
 体の中でもっとも大切な脳や脊髄を包んでいる膜を髄膜と言います。この髄膜に細菌やウイルスが侵入し、炎症を起こし、発熱、嘔吐、頭痛、けいれんなどの症状を起こす病気が、髄膜炎です。進行すると意識障害から命に関わる重症な病気です。

 ウイルスが原因の髄膜炎を「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」といい、細菌が原因の髄膜炎を「細菌性髄膜炎」といいます。「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」は概ね軽症ですが、「細菌性髄膜炎」は重症で命に関わります。

 細菌性髄膜炎の原因となる細菌の中で、最も多いのがHib(ヒブ)で、60%。その次に多いのが肺炎球菌で、30%です。この二つの菌で細菌性髄膜炎の90%を占めていることになります。言い換えれば、この二つの菌による感染を予防することができれば、細菌性髄膜炎はほぼ予防できるということになります。

 肺炎球菌髄膜炎患者の約10%が死亡、約30〜40%に運動マヒ、精神遅滞、難聴、てんかんなどの重い後遺症が残る深刻な病気です。Hib髄膜炎では、死亡率は約5%、後遺症が残る割合が約25%ですから、患者数は少ないものの、重症者は、肺炎球菌髄膜炎の方が多いです。

 細菌性髄膜炎の症状は、発熱、嘔吐、けいれんなどです。発熱はほぼ全例で、嘔吐は約半数に見られますが、それらの症状は、カゼや嘔吐下痢症でも見られるような症状です。もし、髄膜炎を疑えば、脊椎に針を刺して髄液検査を行いますが、簡単にできる検査ではなく、最初の診察で細菌性髄膜炎と確定診断するのは、現実的に不可能です。どんなに慎重に診察しても、発熱後2日以内だと70%は診断がつかないといわれており、重症化するまで診断が難しいケースがほとんどです。  

 細菌には抗生物質が効きますが、細菌性髄膜炎には、経口(口から飲む)の抗生物質ではまず効きません。むしろ、中途半端に抗生物質を飲むと菌が検出されにくくなり、さらに診断が遅れることにもなりかねません。これは細菌性髄膜炎に限ったことではありません。よく、「熱があるから抗生物質がほしい」という方がおりますが、安易な抗生物質の処方は行うべきではありません。
 
 抗生物質の注射が唯一の治療ですが、最近は抗生物質の注射に効かない肺炎球菌・Hibも増えてきており、治療に難渋することもしばしばです。このことからも、細菌性髄膜炎を防ぐには、ワクチンで予防することが最善策と言えます。


 もっとも患者数が多い病気が、中耳炎です。

 乳幼児の中耳炎の起因菌で、最も多いのが、肺炎球菌とインフルエンザ菌です。ただ、中耳炎を起こすインフルエンザ菌はHibとは別な種類のインフルエンザ菌が多く、Hibワクチンを接種しても、乳幼児の中耳炎にはあまり効果を期待できません。しかし、中耳炎を起こす肺炎球菌は、細菌性髄膜炎を起こす肺炎球菌と同じ種類ですので、肺炎球菌ワクチンは、乳幼児の<肺炎球菌による重症中耳炎>を予防することができます。

 保育園に入った途端にカゼをひいて青っぱなを垂れ流してすぐ中耳炎にかかるようなお子さんは、実に多く見られます。中耳炎になると、長々と抗生物質を投与されることも多く、そのうち、菌が薬に効きにくくなってしまいます。さらに強い抗生物質を延々と飲み続け、最後は入院ということもよくあります。

 保育園入園前に肺炎球菌ワクチンを接種すれば、少なくとも肺炎球菌による重症中耳炎を防ぐことができます。その結果、抗生物質や鼓膜切開などもあまり必要なくなります。


 接種対象者・接種時期

★ 公費負担対象者:肺炎球菌ワクチンは、2か月齢以上〜5才未満(5歳の誕生日の前々日まで)のお子さんに接種します。、標準開始年齢は、2か月齢以上〜7か月齢未満です。

@.接種開始齢が、2か月齢以上〜7か月齢未満の場合
・初回接種 3回:標準的には生後12か月までに、4週間以上の間隔をおいて3回接種。
・追加接種 1回:生後12〜15か月を標準的な接種期間として、初回接種終了後60日以上の間隔をおいて、かつ生後12か月以降に1回接種。

A.接種開始齢が、7か月齢以上〜1才未満の場合
・初回接種 2回:標準的には生後12か月までに、4週間以上の間隔をおいて2回接種。
・追加接種 1回:初回接種終了後60日以上の間隔をおいて、かつ生後12か月以降に1回接種。

B.接種開始齢が、1歳以上〜2歳未満の場合
・60日以上の間隔で2回接種

C.接種開始齢が、2歳以上〜5歳未満
・1回だけ接種します。追加接種はありません。

 肺炎球菌ワクチンは、他のワクチンと同時接種が認められていますので、Hibワクチン、四種混合ワクチン、五種混合ワクチンと同時接種できます。






 接種後の注意

 普通の生活で、かまいません。
 肺炎球菌ワクチンは、安全性が高く、重篤な副作用はありません。四種混合ワクチンや五種混合ワクチンより、若干発熱の頻度が高いくらいです。


 VPD〜知っていますか?→ワクチンで防げる病気をVPDと言います

「ワクチンで防げる病気」の事をVPDと言います。VPDとは、Vaccine Preventable Diseasesの略です。

・Vaccine(ヴァクシーン)→ワクチン
・Preventable(プリベンタブル)→防ぐ事ができる
・Diseases(ディスイーズ)→病気

 医学が進歩した現在でも、はっきりした治療法がなかったり、重い後遺症を残すような病気がまだまだあります。そんななかで、ワクチンで予防できる病気は決して多くはありませんが、ワクチンで防げると言うことはとても幸運なことと思います。「予防できる病気は予防する」ことが原則と思います。


ワクチンで防げる病気
 麻疹(はしか)  ポリオ  A型肝炎(※)
 風疹  結核  B型肝炎
 流行性耳下腺炎
(オタフクカゼ)
日本脳炎  インフルエンザ
 水痘(水ぼうそう) Hib感染症  ロタウイルス胃腸炎
 ジフテリア 肺炎球菌感染症 黄熱病(※)
 百日咳   子宮頸がん  狂犬病(※)
 破傷風    
赤文字が、日本で定期接種(公費負担)されているワクチン
青文字が、日本で任意接種(自費負担)されているワクチン

(※)は、流行地域へ行く時に接種