インフルエンザ菌 b型とは?

  Hib(ヒブと読みます)ワクチンは、インフルエンザ菌 b型(Haemophilus Influenzae b)(注1)に対するワクチンです。この菌は冬に流行るインフルエンザウイルスとは全く別な菌です。
 あまり聞いたことがない菌と思いますが、喉頭蓋炎、肺炎、菌血症(注2)、細菌性髄膜炎のような重症な病気を起こすとんでもない菌です。

 Hibや肺炎球菌(注3)は、乳幼児の鼻や喉から感染します。保育園のような集団生活を始めた乳幼児の半数が、4月の入園時点では、いずれの菌も保有していなかったのに、わずか1〜2カ月後には、ほぼすべての園児が、Hibや肺炎球菌を保菌していたという報告があるくらい、集団生活の場では容易に感染をする菌です。

注1:19世紀末に、ヨーロッパでインフルエンザが流行した時、多くの患者の喀痰からある細菌が検出されました。当時の人たちはこの菌がインフルエンザの原因と考えてインフルエンザ菌と名付けました。その後、1933年にインフルエンザウイルスが発見されるまで、この菌が、インフルエンザの原因と考えられていました。インフルエンザ菌は、冬に流行るインフルエンザウイルスとはまったく別なものです。

注2:菌血症とは、「血液中にバイ菌が入り込んだ病態」を言います。5歳未満の子どもの発熱では500人に1人くらいが「菌血症」になっています。乳幼児の発熱のほとんどはウイルス性のカゼで、「菌血症」は、そんなに多く見られるものではありませんが、「重症肺炎」や「細菌性髄膜炎」を引き起こすことがありますので、怖い病態です。
 菌血症の80%は肺炎球菌が原因で、15%はHibが原因です。残念ながら、発熱の初期に「菌血症」や「細菌性髄膜炎」と、何もしなくても治る「カゼ」とを確実に区別する方法はありません。どのような検査をしても30%くらいは見逃されます。こういう事実からもHibや肺炎球菌の感染を予防するワクチンが必要とされます。

注3: 肺炎球菌については、“肺炎球菌ワクチン(プレベナー)”をご覧下さい。Hibと肺炎球菌は、どちらも乳幼児に細菌性髄膜炎のような重症感染症を引き起こす菌としてよく似ています。 


 Hib髄膜炎とは?

 Hibは、乳幼児の5%が鼻の奥やのどに保菌しているありふれた細菌ですが、脳の髄膜に感染すると、「細菌性髄膜炎」を引き起こします。
 体の中でもっとも大切な脳や脊髄を包んでいる膜を髄膜と言います。この髄膜に細菌やウイルスが侵入し、炎症を起こし、発熱、嘔吐、頭痛、けいれんなどの症状を起こす病気が、髄膜炎です。進行すると意識障害から命に関わる重症な病気です。

 ウイルスが原因の髄膜炎を「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」といい、細菌が原因の髄膜炎を「細菌性髄膜炎」といいます。「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」は概ね軽症ですが、「細菌性髄膜炎」は重症で命に関わります。「細菌性髄膜炎」の60%が、インフルエンザ菌 b型によるHib髄膜炎です。

 Hib髄膜炎は極めて重症で、毎年5才未満乳幼児2.000人に1人(約600人)が発症しています。患者の5%(約30人)が死亡、25%(約150人)に運動マヒ、精神遅滞、難聴、てんかんなどの重い後遺症が残る深刻な病気です。
 Hib髄膜炎の症状は、発熱、嘔吐、けいれんなどです。発熱はほぼ全例で、嘔吐は約半数に見られますが、それらの症状は、カゼや嘔吐下痢症でも見られるような症状です。もし、髄膜炎を疑えば、脊椎に針を刺して髄液検査を行いますが、簡単にできる検査ではなく、最初の診察で髄膜炎と確定診断するのは、現実的に不可能です。どんなに慎重に診察しても、発熱後2日以内だと70%は診断がつかないといわれており、重症化するまで診断が難しいケースがほとんどです。  

 細菌には抗生物質が効くといいましたが、Hib髄膜炎には、経口(口から飲む)の抗生物質ではまず効きません。むしろ、中途半端に抗生物質を飲むと菌が検出されにくくなり、さらに診断が遅れることにもなりかねません。これはHib髄膜炎に限ったことではありません。よく、「熱があるから抗生物質がほしい」という方がおりますが、安易な抗生物質の処方は行うべきではありません。
 
 抗生物質の注射が唯一の治療ですが、最近は抗生物質の注射に効かないHibも増えてきており、治療に難渋することもしばしばです。このことからも、Hib髄膜炎を防ぐには、ワクチンで予防することが最善策と言えます。

 Hib髄膜炎は、新生児では母親からの移行抗体に守られているため発症は少ないのですが、3〜4ヶ月になると移行抗体が消失し、生後4ヶ月から増加し、0才児にもっとも多く見られ、2才までに66%が罹っています。乳児期からの集団保育では特に注意が必要です。
 2〜3才からは徐々に自然免疫が発達し、あるいは不顕性感染(罹っても症状が見られないこと)により抗体を獲得することで発症率は低下し、4才以上ではわずか5%の発症で、5才を過ぎると殆ど発症しなくなります。従って、Hibワクチンは、2ヶ月齢以上、5才未満に接種すべきワクチンです。

 <Hib髄膜炎の特徴>を、まとめますと、
@.命に関わる病気。
A.運動マヒ、精神遅滞、難聴、てんかんなどの重い後遺症を残す。
B.初期診断が難しい。
C.進行が早い。
D.抗生物質による治療には限界がある。

 以上より、根本的な解決策はワクチン接種で発症を防ぐということになります。


 接種対象者・接種時期 

★ 公費負担対象者:Hib(ヒブ)ワクチンは、2ヶ月齢以上〜5才未満(5歳の誕生日の前々日まで)のお子さんに接種します。標準開始年齢は、2ヶ月齢以上〜7ヶ月齢未満です。

@.接種開始齢が、2ヶ月齢以上〜7ヶ月齢未満の場合
・初回接種 3回:4週間(医師が必要と認める時は3週間)以上、標準的には3〜8週間の間隔をおいて3回接種。
・追加接種 1回:初回接種終了後、7ヶ月以上、標準的には13ヶ月までの間隔をおいて1回接種。

A.接種開始齢が、7ヶ月齢以上〜12ヶ月齢未満の場合
・初回接種 2回:4週間(医師が必要と認める時は3週間)以上、標準的には3〜8週間の間隔をおいて2回接種。
・追加接種 1回:初回接種終了後、7ヶ月以上、標準的には13ヶ月までの間隔をおいて1回接種。

B.接種開始齢が、1歳以上〜5才未満の場合
・初回接種のみ 1回:1回だけ接種します。追加接種はありません。

 Hibワクチンは、他のワクチンと同時接種が認められていますので、四種混合ワクチンと同時接種できます。1才を過ぎてから接種する場合は、麻疹・風疹ワクチンや、オタフクカゼワクチン、水痘ワクチンなどと同時に接種することもできます。

 また、単独接種する場合は、他のワクチンと接種間隔をあけて接種します。その場合、BCG・麻疹風疹・水痘・オタフクカゼなどの生ワクチンを接種した場合は4週間おいて、四種混合・インフルエンザ・日本脳炎などの不活化ワクチンを接種した場合は1週間おいてから接種します。


 接種後の注意

 普通の生活で、かまいません。
 Hibワクチンは、安全性が高く、重篤な副作用はありません。注射部位の軽い発赤、腫脹程度です。


 Hibワクチンを接種しましょう。

 世界中で、Hibワクチンは100カ国以上、肺炎球菌ワクチンは80カ国以上で接種されています。そのおかげで欧米では、細菌性髄膜炎や、重症肺炎に罹る子どもが激減しました。しかるに、日本では、Hibワクチンは世界に遅れること20年、肺炎球菌ワクチンは10年遅れで、やっと接種が始まりました。

 先進国といわれる国々では、Hibワクチンも肺炎球菌ワクチンも公費負担で、国民の負担金はありません。日本でも平成23年4月1日より、全額公費負担で接種できることになりました。さらに、平成25年4月1日より定期接種に組み込まれ、重要なワクチンと位置づけされています。

 Hibワクチンと肺炎球菌ワクチンは、「髄膜炎セット」として、一緒に接種したいワクチンです。これらのワクチンを接種しておけば、子どもが急に発熱したときでも重症細菌感染症の心配をしなくてもすみます。親の子育ての負担も小児科医の負担も大きく減ります。

 子どもの発熱は、殆どがウイルス感染によるものですが、当初は原因を特定しにくいため、夜間救急などではウイルスによるカゼと思っても、細菌感染症を疑って抗生物質を出すことが多いのが現状です。その結果、抗生物質の使い過ぎから薬が効きにくい細菌(耐性菌)を生んでおり、こうした状況の改善も期待されます。

細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会 細菌性髄膜炎から子どもたちを守るため、細菌性髄膜炎についての啓蒙をしているサイトです。

Hib髄膜炎について、私の体験談を2008年12月6日の診察室便り に掲載してありますので、ご一読下さい。