令和6年4月1日より、五種混合ワクチンの接種が始まります。五種混合ワクチンは、これまでの四種混合ワクチンにヒブワクチンを加えたワクチンです。令和6年4月1日以降に初めてワクチンを接種する赤ちゃんは、これまでの四種混合ワクチン+ヒブワクチンか五種混合ワクチンのいずれかを接種することになります。
Hib(ヒブと読みます)ワクチンは、インフルエンザ菌 b型(Haemophilus Influenzae b)(注1)に対するワクチンです。この菌は冬に流行るインフルエンザウイルスとは全く別な菌です。
あまり聞いたことがない菌と思いますが、喉頭蓋炎、肺炎、菌血症(注2)、細菌性髄膜炎のような重症な病気を起こすとんでもない菌です。
Hibや肺炎球菌(注3)は、乳幼児の鼻や喉から感染します。保育園のような集団生活を始めた乳幼児の半数が、4月の入園時点では、いずれの菌も保有していなかったのに、わずか1〜2か月後には、ほぼすべての園児が、Hibや肺炎球菌を保菌していたという報告があるくらい、集団生活の場では容易に感染をする菌です。
注1:19世紀末に、ヨーロッパでインフルエンザが流行した時、多くの患者の喀痰からある細菌が検出されました。当時の人たちはこの菌がインフルエンザの原因と考えてインフルエンザ菌と名付けました。その後、1933年にインフルエンザウイルスが発見されるまで、この菌が、インフルエンザの原因と考えられていました。インフルエンザ菌は、冬に流行るインフルエンザウイルスとはまったく別なものです。
注2:菌血症とは、「血液中にバイ菌が入り込んだ病態」を言います。5歳未満の子どもの発熱では500人に1人くらいが「菌血症」になっています。乳幼児の発熱のほとんどはウイルス性のカゼで、「菌血症」は、そんなに多く見られるものではありませんが、「重症肺炎」や「細菌性髄膜炎」を引き起こすことがありますので、怖い病態です。
菌血症の80%は肺炎球菌が原因で、15%はHibが原因です。残念ながら、発熱の初期に「菌血症」や「細菌性髄膜炎」と、何もしなくても治る「カゼ」とを確実に区別する方法はありません。どのような検査をしても30%くらいは見逃されます。こういう事実からもHibや肺炎球菌の感染を予防するワクチンが必要とされます。
注3: 肺炎球菌については、“肺炎球菌ワクチン(プレベナー)”をご覧下さい。Hibと肺炎球菌は、どちらも乳幼児に細菌性髄膜炎のような重症感染症を引き起こす菌としてよく似ています。
Hibは、乳幼児の5%が鼻の奥やのどに保菌しているありふれた細菌ですが、脳の髄膜に感染すると、「細菌性髄膜炎」を引き起こします。
体の中でもっとも大切な脳や脊髄を包んでいる膜を髄膜と言います。この髄膜に細菌やウイルスが侵入し、炎症を起こし、発熱、嘔吐、頭痛、けいれんなどの症状を起こす病気が、髄膜炎です。進行すると意識障害から命に関わる重症な病気です。
ウイルスが原因の髄膜炎を「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」といい、細菌が原因の髄膜炎を「細菌性髄膜炎」といいます。「ウイルス性(無菌性)髄膜炎」は概ね軽症ですが、「細菌性髄膜炎」は重症で命に関わります。「細菌性髄膜炎」の60%が、インフルエンザ菌 b型によるHib髄膜炎です。
Hib髄膜炎は極めて重症で、患者の5%(約30人)が死亡、25%(約150人)に運動マヒ、精神遅滞、難聴、てんかんなどの重い後遺症が残る深刻な病気です。Hib髄膜炎の症状は、発熱、嘔吐、けいれんなどです。発熱はほぼ全例で、嘔吐は約半数に見られますが、それらの症状は、カゼや嘔吐下痢症でも見られるような症状です。もし、髄膜炎を疑えば、脊椎に針を刺して髄液検査を行いますが、簡単にできる検査ではなく、最初の診察で髄膜炎と確定診断するのは、現実的に不可能です。どんなに慎重に診察しても、発熱後2日以内だと70%は診断がつかないといわれており、重症化するまで診断が難しいケースがほとんどです。
細菌には抗生物質が効くといいましたが、Hib髄膜炎には、経口(口から飲む)の抗生物質ではまず効きません。むしろ、中途半端に抗生物質を飲むと菌が検出されにくくなり、さらに診断が遅れることにもなりかねません。これはHib髄膜炎に限ったことではありません。よく、「熱があるから抗生物質がほしい」という方がおりますが、安易な抗生物質の処方は行うべきではありません。
抗生物質の注射が唯一の治療ですが、最近は抗生物質の注射に効かないHibも増えてきており、治療に難渋することもしばしばです。このことからも、Hib髄膜炎を防ぐには、ワクチンで予防することが最善策と言えます。
Hib髄膜炎は、新生児では母親からの移行抗体に守られているため発症は少ないのですが、3〜4か月になると移行抗体が消失し、生後4か月から増加し、0才児にもっとも多く見られ、2才までに66%が罹っています。乳児期からの集団保育では特に注意が必要です。
2〜3才からは徐々に自然免疫が発達し、あるいは不顕性感染(罹っても症状が見られないこと)により抗体を獲得することで発症率は低下し、4才以上ではわずか5%の発症で、5才を過ぎると殆ど発症しなくなります。従って、Hibワクチンは、2か月齢以上、5才未満に接種すべきワクチンです。
<Hib髄膜炎の特徴>を、まとめますと、
@.命に関わる病気。
A.運動マヒ、精神遅滞、難聴、てんかんなどの重い後遺症を残す。
B.初期診断が難しい。
C.進行が早い。
D.抗生物質による治療には限界がある。
以上より、根本的な解決策はワクチン接種で発症を防ぐということになります。
★ 公費負担対象者:Hib(ヒブ)ワクチンは、2か月齢以上〜5才未満(5歳の誕生日の前々日まで)のお子さんに接種します。標準開始年齢は、2か月齢以上〜7か月齢未満です。
@.接種開始齢が、2か月齢以上〜7か月齢未満の場合
・初回接種 3回:4週間(医師が必要と認める時は3週間)以上、標準的には4〜8週間の間隔をおいて3回接種。
・追加接種
1回:初回接種終了後、7か月以上、標準的には13か月までの間隔をおいて1回接種。
A.接種開始齢が、7か月齢以上〜12か月齢未満の場合
・初回接種 2回:4週間(医師が必要と認める時は3週間)以上、標準的には4〜8週間の間隔をおいて2回接種。
・追加接種
1回:初回接種終了後、7か月以上、標準的には13か月までの間隔をおいて1回接種。
B.接種開始齢が、1歳以上〜5才未満の場合
・初回接種のみ 1回:1回だけ接種します。追加接種はありません。
Hibワクチンは、他のワクチンと同時接種が認められていますので、肺炎球菌ワクチンや四種混合ワクチンと同時接種できます。1才を過ぎてから接種する場合は、麻疹・風疹ワクチンや、オタフクカゼワクチン、水痘ワクチンなどと同時に接種することもできます。
普通の生活で、かまいません。
Hibワクチンは、安全性が高く、重篤な副作用はありません。注射部位の軽い発赤、腫脹程度です。