気管支喘息とは、どんな病気なの?

 気管支喘息とは、≪種々の刺激に対して、気道の過敏性亢進を伴う、気道の慢性炎症≫と言われています。そして、その症状は、<突然おきる(発作性の)呼吸困難、喘鳴、咳が繰り返しみられる>ことです。

 これが、多くの医学書に記載されている内容ですが、少しわかりにくいですね。

 では、もっと簡単にすると、

 「空気の通り道である気管支が敏感であるため、カゼを引いたり、汚い空気を吸った時に、
気管支がギュッと狭くなって呼吸が苦しくなる病気」というふうに理解しましょう。


 喘息は“気管支が敏感”であるためにおきますが、

   “気管支が敏感”とは、どういうことなのでしょうか

 ダニやホコリのアレルギーでも気管支喘息は起こりますが、それだけではないのです。気管支喘息と診断されても、アレルギー検査は何も異常がない?と言われたことないですか。気管支喘息でも成人の50%、子どもの20%は、ダニやホコリの抗体が検出されません。

 気管支喘息を起こす気管支に共通していることは、“気管支が敏感”ということです。これは、いろいろな刺激(例えば、運動、冷たい空気、タバコの煙、天候の変化、かぜをひいた後、等々)に対して、気管支が収縮し狭くなることを意味します。

 つまり、→気管支が収縮し狭くなる。→空気が通りにくくなる。→苦しくなる。 これが喘息発作です。 


 喘息発作はどうして苦しいの

 気管支が狭くなりますから、肺の中に入ってくる酸素量も少なくなり、当然苦しくなります。また、狭くなった気管支を空気が通るたびに、ゼーゼー、ヒューヒューという音が聞こえます。これは、狭い気管支に空気を通すため、通常は使わない筋肉を総動員して呼吸をしているためで、大変苦しい状態です。

 呼吸の苦しさの段階は、はじめ少し肩で息をするように見えます。この時、背中に手を当てたり、耳を当てるとゼーゼーした音がわかります。もう少し苦しくなると、次第に、胸がペコペコし、さらに苦しくなると喉仏のあたりまでペコペコしてきます。


 一度でもゼーゼー、ヒューヒューしたら喘息なの?

 気管支喘息は、繰り返し発作を起こす病気です。一度発作を起こしたからといって、すぐ喘息と診断するのは少し急ぎすぎと思います。また、乳幼児では気管支炎でも痰が多くからんでくるとゼーゼーしてきます。

 一般的には、3回発作をおこしたら、喘息と診断されるようですが、回数だけでなく症状の程度にもよると思います。ただ、いかなる状況にせよ、一度でもゼーゼーしたことがあるなら、普通の人よりは、少し気管支が過敏かもしれないと思った方がよいです。はっきりした診断には、少し経過を見ることが必要です。 


 どうすれば治るの

“気管支が敏感”ということを、“気道過敏性が亢進”しているといいます。

 気道の過敏性は、喘息発作を起こす度にどんどん悪くなります。そして、過敏性が強まると、ますます発作を起こし易くなります。その結果、喘息は治りにくくなります。

 逆に、発作が起きないと過敏性は弱まり、気管支が丈夫になり、発作を起こしにくくなります。その結果、軽症化し、治癒へと向かうのです。

 つまり、発作を起こすことが、気道過敏性を亢進する最大の原因なのです。ですから、治療の目標は、気管の過敏性を和らげること=できるだけ発作を起こさないようにすること(予防すること)にあります。極めて当然ではありますが、発作を起こしてからあせって治療するのではなく、発作がなくても普段から予防治療することがとても大事なのです。

 大事なことですので、もう一度繰り返します。喘息の治療は発作を起こしてから行うのではありません。発作を起こさないように普段から予防治療を行うことが喘息の治療です。


 もう少し具体的に、予防治療が大切なわけを

 気管支喘息は発作を起こすたびに気管支に汚れがたまります。その結果、発作がないときでも常に気管支は炎症(赤く腫れてむくんでいる状態)をおこしています。この状態を慢性炎症(下図.中)といって、気道過敏性も高まり、わずかな刺激でも発作を起こしやすくなっています。

 慢性炎症といっても適切な治療をすれば正常な気管支(下図.左)に戻ります。ところが、慢性炎症を放っておきますと、どんどん汚れがたまり元に戻れなくなってしまいます。この状態をリモデリング(下図.右)といって、ちょうど、古くなって硬くなった消しゴムが、元のように軟らかくならない状態に似ています。こうなると一生治療が必要になってしまいます。



リモデリングの状態にならないように、できるだけ早期に慢性炎症を改善する治療が予防治療なのです。

 こどもの気管支喘息は、成人と比べると治りやすいとも言われています。それは、慢性炎症があまり進んでいないからです。今(小児期に)、治療をすることは今だけ良くなればよいのではなく、長い一生、喘息で苦労しないため、将来のための治療でもあるのです。とても大事なことだから、よく理解して下さい。 


 治療のポイントは、


☆ 気管を刺激する要因をできるだけ少なくすること

 気管を刺激する要因はたくさんあります。例えば、運動、冷たい空気、タバコの煙、天候の変化等々、この中には避けることのできるものがいくらでもあります。生活環境を整備し、早寝早起きを基調とした規則正しい生活リズムを守ること。こういう基本的なことが大切です。

 よくあることですが、親戚の家に泊まりにって、発作を起こすことがあります。こういう時は、長くしまっておいた布団がほこりっぽくなっていることが多いようです。泊まる前に布団に掃除機をかけてもらったり、乾燥機をかけてもらったりすればよいでしょう。また、室内犬や、猫も要注意です。

☆ 薬を上手に使うこと

 気管支喘息のお薬はいろいろありますが、予防に用いられるものと、直接発作を抑えるものとの2つに分類されます。

 予防のお薬は、アレルギー反応をおこしにくくしたり、慢性炎症を治したりするものなどがあります。これらは、予防薬ですから発作のない時でも、きちんと内服(吸入)を続けることが大事です。直接発作を抑えるお薬は、主に気管支を広げるお薬で、予防にも用いられることもありますが、発作の強弱によって使い分ける必要があります。薬は、良くなってくれば少しずつ減量し終了します。

 大事なことは、少し調子がよいからといって、いきなり止めないこと。再発の反復は治り難くなります。医師の説明を良く聞き、薬の内容を理解して治療を続けましょう。

☆ 症状(重症度)に応じた治療が大切

 一口に気管支喘息といっても、軽症の人もいれば、重症な人もいるわけですから、全ての人が同じ治療ということはありません。一人一人の状態に応じて治療計画が立てられるべきです。よく喘息の治療は、オーダーメイドといわれますが、そのとおりだと思います。軽いのにたくさんのお薬は必要ありません。逆に、重症なら少し症状が落ち着くまで、濃厚な治療が必要になります。主治医とよく相談して、喘息の重症度をよく理解した上で、治療しましょう。 


 最後に、大事なことをもう一度。

 気管支喘息は、気道過敏性の亢進が基盤にある病気です(アレルギーが全てではありません)。アレルギー体質が治って喘息が治るのではなく、“過敏性”が良くなるから喘息が治るのです。

 発作を繰り返す度に気管支の過敏性は高まり、さらに慢性炎症からリモデリングへと進み難治性となります。
 喘息を治すには<気道過敏性を和らげる><慢性炎症を治療する><発作を起こさない><予防が大切>なのです。


 咳が長く続いたら〜喘息かもしれない?と、いわれたことありませんか?


     長く続く咳と気道過敏性の亢進ー咳喘息(CVA)とは?

 咳が1ヶ月も2ヶ月も続いて、不快な思いをしたことはないでしょうか。長引く咳の原因は、いろいろなものがあります。例えば、気管支炎、マイコプラズマ肺炎、百日咳、結核、異物誤嚥、副鼻腔炎(蓄膿症)、喉頭アレルギー、心因性咳そう、等々。普通はそれらの原因に対して、適切な治療が行われれば咳は止まるはずです。しかし、それでも咳が続くことがあります。

 これは長期間咳が続くことによって、次第に気管が汚れ、過敏性が高まり、軽い刺激にも反応しやすくなるものと考えられています。ちょうど気管支喘息の気管とよく似ています。ただし、喘息と違って、ゼイゼイ、ヒューヒューの様な喘鳴はみられません。このような病気を咳喘息(Cough Variant Asthma:CVA)といいます。咳喘息は、気管支喘息の前段階であったり、気管支喘息の一種ともいわれています。  
 <咳喘息の特徴は>

1.8週間以上(小児では、4週間以上)続く咳。
2.夜間に多い。
3.運動、冷気、タバコの煙などで容易に咳が誘発される
4.本人あるいは家族にアトピー素因があることが多い(40%〜100%)。
5.ゼイゼイ、ヒューヒューのような喘鳴を伴うことは少ない。
6.乾いた咳が多く、あまり多量の痰は伴わない(感染を併発すると痰は、増える)。
7.一般的な咳止めの薬(鎮咳剤)や、抗生物質は殆ど効かない。
咳喘息は放置しておくと気管支喘息に発展することもありますので、あまりひどくならないうちに治療することが大切です。