Q1.気管支喘息やアトピー性皮膚炎は、花粉によって悪化しませんか?
直接、花粉が気管支まで到達してアレルギー反応を起こすかどうかということは、まだ証明されていませんが、花粉の一部が気管支や皮膚に作用して、気管支喘息やアトピー性皮膚炎が悪化することはよくあります。あまり多く見られることではありませんが、ブタクサの花粉は小径(20μm)なため、気管支まで花粉が侵入し気管支喘息を起こすことがあります。また、鼻症状のうち特に鼻づまりが強いと鼻で呼吸できず、いつも口で呼吸することになります。
鼻には、
@.吸い込む空気をきれいにする“フィルター”の働きと、
A.加温加湿した空気を気管に送る“加湿器”の働きがあります。
鼻づまりのため、口呼吸になりますと、これらの働きが妨げられるため、汚れて、冷たい、乾燥した空気が気管に送られることになります。これが原因で気管支喘息が悪化することがあります。
また、扁桃腺や、咽頭も汚れやすくなるため、バイ菌もつきやすくなり、風邪もひきやすくなってしまいます。
Q2.両親が花粉症を持っていれば、子どもも花粉症になるのですか?
多くのアレルギー疾患は遺伝性がありますが、花粉症も例外ではなく、両親がスギ花粉症を持っていれば、お子さんは、ほぼ100%スギ花粉症を発症します。また、ダニやハウスダストの抗体が陽性の場合、年をとるにつれてスギ花粉症を発生することもよく見られます。
残念ながら自然治癒は極めて少なく、2〜5%くらいといわれています。たとえ、ある年に症状が出なくても、軽症であれば花粉の量が少ない時は症状が見られないこともありますので、これだけで治ったとは判断できません。花粉が大量に飛んだ年に症状がなければ、もしかしたら治ったかもしれません。
一般にアレルギー反応は年をとるにつれて弱くなってきますので、高令になれば少し症状が軽くなることが多いです。ただこれは、正常な免疫反応も弱まるためにアレルギーも起こしにくくなるわけで、あまりうれしいことではないです。
乳幼児期から花粉を回避することが大切ですが、現在、花粉症未発症児の予防対策は殆ど行われていません。
両親または、父親、母親の一方でもアレルギーを持っている場合、お子さんがアレルギー疾患を発症することが多いので、将来の花粉症の発生を遅らせ、重症化を防ぐためにも、なるべく花粉に接触しないようにするしかありません。そのためには、花粉の飛びそうな日の外出を控えるなどして、乳児期から予防を心がけることが大切です。
参考までに、
◎ 冬にカゼ(気管支炎)をひいた赤ちゃんは、花粉症になり易い?
赤ちゃんは、生まれた年の冬(最初の冬)によくカゼをひきますが、カゼの原因ウイルスの1つにRSウイルスというウイルスがあります。このウイルスは、細気管支炎という重症な気管支炎を引き起こすことでよく知られています。
また、このウイルスに感染すると、気管支や鼻の粘膜が傷つき、過敏な反応を示しやすくなってしまいます。その結果、気管支喘息や、花粉症(アレルギー性鼻炎)に罹患しやすくなることも、近年明らかになってきました。
冬に重症な呼吸器感染症にかかった赤ちゃんは、春の外出には気をつけるようにしましょう。
◎ 妊娠後期(7ヶ月〜10ヶ月)の妊婦さんは、花粉に注意。
妊婦さんが、妊娠後期(7ヶ月〜10ヶ月)に大量の花粉に暴露されると、生まれてくる赤ちゃんが花粉症や気管支喘息を起こすおそれが強まると言うことが、報告されています。妊娠後期の妊婦さんは、花粉の多い日の外出をなるべく控えるようにしましょう。
◎ 生まれ月による花粉症発生率の違い
スギ花粉症は、生まれた月によって、発生率が異なってくることが、最近わかってきました。花粉が大量に飛散した年の前年10月〜1月に産まれた赤ちゃんは、花粉症になりやすいのです。これは、赤ちゃんの免疫形成期に、体内に大量の花粉が入ることが原因と考えられています。
花粉症のシーズン(3〜5月)の花粉飛散量が多いホカホカ陽気の日は、生後半年くらいまでの赤ちゃんは、なるべく外出を控えた方がよいでしょう。
京都府で、小中学生500人のスギ花粉に対する特異的IgE抗体量を調べたところ、10月〜1月に生まれた学童の方が、スギ花粉シーズン終了後の6〜9月に生まれた学童よりも、2倍以上に高かったという結果でした。
Q5.市販薬と病院でもらう薬では、効果に違いがありますか?また、市販薬を使用する時に気をつけることはなんですか?
市販薬の主成分は、抗ヒスタミン剤(第1世代)です。この薬は、くしゃみや鼻水には効き目が早いですが、眠気やのどの乾きなどの副作用が多く、車の運転のような眠気が起こると危険を伴う仕事に就いている人には向きません。さらに、鼻づまりにはあまり効果が期待できません。
また、市販薬の点鼻薬は殆どの場合血管収縮剤が入っています。血管収縮剤は、点鼻後数分で、鼻閉がとれてすっきりしますが、使うほどに効果が弱くなり、使用回数が増えると鼻粘膜がかたくなって、前よりも悪くなることがありますので、短期間の使用にとどめる薬です。安全性の問題もあり、(血管を収縮させるため、血圧が低下してショックをおこす心配があります。)2才未満の乳幼児では、使用されません。
血管収縮剤の薬品名は、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、などです。成分表示に、これらの薬品が含まれているときは、長期連用しないように注意して下さい。特に小児では、使用しない方が無難です。というわけで、この薬は使い方が難しく、あまりお勧めできません。
一方、病院でもらう処方薬のほとんどは、抗アレルギー剤(第2世代)です。効き目の早さでは、抗ヒスタミン剤(第1世代)に比べてやや劣りますが、くしゃみ、鼻水だけでなく、鼻づまりにも効果が期待できます。眠気のような副作用も少なく、のどの乾きは殆ど見られません。
また、鼻づまりに有効なロイコトリエン受容体拮抗薬や、トロンボキサンA2受容体拮抗薬も処方されています。これらのお薬は市販薬にはありません。
点鼻薬も血管収縮剤は通常処方しませんが、時々短期間に限って処方されることがあります。プリビナ、ナーベル、トーク、ナシビン、コールタイジン(コールタイジンは血管収縮剤とステロイド剤との合剤)、というような薬が血管収縮剤の点鼻薬です。あまり長期に使用しないように注意して下さい。普通は、抗アレルギー剤や、ステロイド剤の点鼻薬を処方します。鼻づまりの強い場合には、ステロイド剤の点鼻薬の方が有効です。(ステロイド剤の点鼻薬については次の質問で詳しく解説します)
ステロイド剤は、私たちにとって不都合な免疫反応、つまり、アレルギー反応を抑えるために使用されますが、同時に正常な免疫反応も抑えてしまいます。いわゆる、両刃の剣です。したがって使用するには注意が必要です。
外用剤(点鼻薬、点眼薬、吸入薬など)は、極めて微量で、局所にしか作用しません。また、短時間で体外に排出されますので、期間と量に注意して使用すれば、まず心配いりません。
これに対して、内服薬のステロイド剤(セレスタミン、ヒスタブロック、プレドニン、リンデロンなど)は、一般にはあまり用いられません。それは、点鼻薬と違って、ステロイド剤を長期に飲み続けると、必ず、全身性の副作用(免疫力が弱まり、感染症にかかりやすくなる。多毛、肥満、糖尿病、等)がでるからです。
しかし、重症な時は一時的に使用されることもあります。例えば、鼻にフタをされて息ができないくらい苦しいとか、眼を取り出して洗いたいくらいかゆいとか、そういうようなウ〜ンと苦しいような時にだけ短期間(数日間)使用されます。
こどもでは、ステロイド剤を内服しなければならない重症な花粉症は、殆どみられません。しかし、セレスタミンを処方されているお子さんを時々見ることがあります。内服している時は調子よく見えても長期に続けると必ず副作用が見られます。このような薬は安易に内服してはいけません。
さらに、注射薬のステロイドはとても危険です。注射後長期間(1〜4週)効果が持続するといってますが、この期間ず〜と、ステロイドが体内に貯留していますので副作用が長期にわたってみられます。また、ステロイドに依存した体質になってしまい、急にステロイドの効果が無くなると大変体調が悪くなることもあります。常識ある医師はまず行っていません。
点鼻薬、点眼薬を使用する時の注意として、点鼻薬はいつも同じ方向に向けて点鼻していると、そこの鼻粘膜ばかり刺激を受けますから、時々点鼻方向を変えるようにして下さい。普通は内側に向けて点鼻することが多いと思いますので、意識的に外側に向けて点鼻して下さい。
点眼薬では長期に使用すると眼圧が上昇することがあります。通常使用するステロイド点眼剤ではあまり心配ありませんが、眼科の先生から定期的に眼圧検査を勧められるようなときは必ず受診するようにして下さい。
Q7.医師に処方された薬を飲んでも、眠くなるだけであまりよくなりません。
人によって薬の効果には個人差があります。Aさんに効いた薬が、Bさんに効かないというようなことはよくあります。花粉症のお薬はたくさんあります。一般に抗ヒスタミン剤(第1世代)は眠けが見られることが多いです。また、抗アレルギー剤(第2世代)にも眠けのでやすいものはありますが、種類がたくさんありますので、眠気の少ない薬を処方してもらえばよいです。
薬の効果は花粉の飛散量にも関係してきます。今まで調子よかったのに飛散量が増えたため薬の効果が無くなったかもしれません。他の薬に替えたり点鼻薬を併用したりすれば効果があると思います。
薬には全て特許権があり、販売開始後一定の期間は他の製薬会社は同じ薬を作ることができません。特許期間が切れると作ることができますので、人気のある薬は多くの会社から販売されることになります。この様にして作られた薬を後発品(ジェネリック)といいます。もともとの薬は先発品といいます。
注意することは後発品は先発品と全く同じ薬ではないということです。以前は、先発品と比べると効果が劣る後発品も見られましたが、最近は、同等の効果が期待できる製品が殆どです。後発品は開発費がかかっていないだけ薬価は安いです。厚労省は医療費抑制のため後発品を勧めていますので、今後も販売量は増えるものと思われます。
アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因であるアレルゲンを少量から投与することで、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療法です。
アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる可能性のある治療法です。(症状が完全に抑えられない場合でも、症状を和らげ、お薬の使用量を減らすことも期待できます。)
アレルゲン免疫療法には「皮下免疫療法」と「舌下免疫療法」があります。皮下免疫療法は、皮下に注射する治療法ですので、病院で行われます。注射ですから通院が必要です。一方、舌下免疫療法は舌下に治療薬を投与しますので、自宅で治療できます。便利な反面、服用方法、副作用に対する対応など、治療に対する患者さんの理解が必要な治療法です。
Q10.妊娠している時、内服薬(飲み薬)は安全ですか?また、薬物以外の治療法はありますか?
一般に妊娠によってアレルギー疾患は増悪することが多いです。妊婦さんの場合、胎児に対する薬物の影響を考えないわけにはいきませんので、「薬物療法」よりも「セルフケア」が中心になります。
内服薬を処方する場合、一般的には古くから使われている薬剤の方が経験的に長期使用され、安全性や危険性がある程度判明しています。そのため、比較的歴史の浅い抗アレルギー剤よりも、抗ヒスタミン剤の方が使われることが多いです。なかでも、クロルフェニラミン(ポララミンなど)、とクレマスチン(タベジールなど)が安全性が高いといわれています。ただ、もともと眠けなどの副作用も多い薬なので、長期連用は避けた方がよいです。むしろ、内服薬よりも点鼻薬などの外用剤の方が、安全性が高いと考えられます。
また、妊娠する可能性のある方は、最終生理の開始日から4週間を過ぎて次の生理が遅れている場合には、内服薬は控えた方が良いと思います。
妊婦さんにお勧めしたい治療は、【温熱エアロゾル療法】です。
温泉や、お風呂に入ったとき、鼻がスーッと通るのを経験されたことはありませんか。温熱エアロゾル療法は、熱めのお風呂とほぼ同じ温度の43度cの蒸気を、のどや鼻の粘膜全体に行き渡らせることによって、のどや鼻の不快感を和らげる療法です。これは、薬品を全く使わない水だけの蒸気ですので、妊娠されている方、薬剤アレルギーの方でも安全に使用できます。
花粉症の場合、1回10分間で、1日2〜3回行います。専用器具が必要で、「のど、鼻用スチーム吸入器」などの名称で電気屋さんなどでも販売されています。値段:1万円前後
漢方薬もアレルギー疾患によく処方されています。ただ、独特の味がありますので、ふだん飲み慣れていないと少し飲みにくいかもしれません。特に小児では難しいように思います。漢方薬は免疫力を高めてくれますので、好んで飲まれる方も多いです。効果のほどはやはり、人それぞれです。
よく処方される漢方薬は、くしゃみ、鼻水に効く小青竜湯。鼻づまり、眼のかゆみに効く越卑加充湯。汚い鼻汁が多いときには葛根湯加川弓辛夷、等がよく使用されます。花粉症で用いられる漢方薬には麻黄という成分が含まれていることが多いです。麻黄はやせ気味や少し体格が華奢な人では、動悸がしたり腹痛が見られることがありますので注意が必要です。
Q12.花粉症のシーズンを快適に過ごすにはどうしたらよいですか?
薬物治療や一般的なセルフケアはもちろん大事です。花粉症に限らず、アレルギー疾患全般に言えることですが、規則正しい生活が大切です。アレルギーは自律神経の異常でも悪化します。自律神経とは私たちの意志とは別に体の調子を整えてくれる神経です。例えば、暑い時には汗をかいて、体温を一定に保つように働いてくれます。
不摂生な生活をすると自律神経の働きが乱れて、体調が悪くなります。特に睡眠不足は自律神経の大敵です。花粉症のシーズン中は、早寝早起きを基調とし、十分な睡眠をとり、規則正しい生活をすることが大切です
室内の温度は、花粉とあまり関係ありませんが、熱いお風呂は、鼻づまりや眼のかゆみを増強しますのでぬるめのお風呂がよいです。
一方、湿度の調整はとても大切です。空気が乾燥すると、鼻や目の粘膜が傷ついて、症状が悪化してしまいます。最適な湿度は50%前後です。これ以上湿度を上げると、今度はカビが繁殖しやすくなります。
特別メニューはありませんが、カロチンの多いニンジンやカボチャは、鼻の粘膜を丈夫にしますので、お勧めします。逆に、脂肪の多い食品(天ぷら、焼肉、等)は、アレルギー反応を促進しますので、花粉飛散中は、なるべく低脂肪の食品を主体にしましょう。
カレーのスパイスのような刺激物が花粉症を悪化させることはありません。また、トウガラシにはカプサイシンが含まれていますが、その作用で大量に鼻水がでることがあります。ただ、これは一時的なもので、花粉症が悪化したわけではありません。
健康食品についてはたくさん販売されていますが、医学的に効果が証明されていないものが殆どです。あまりお勧めできません。「○○が効いた」というような体験談はよく聞きますが、人によりさまざまでしょう。誰にでも当てはまるわけではないですから、補助的治療にとどめて、“薬物治療”と“セルフケア”を中心にした方がよいです。
タバコは百害あって一利なしです。お酒は少量なら問題ないですが、アルコールによって鼻粘膜が充血して腫れるため、鼻呼吸ができなくなり、その結果口呼吸になって、喉が痛んだり、咳が出たり、熟睡できなくなり、体調を崩すことがあります。
また、薬を飲んですぐ、お酒を飲んでしまうと眠気が強まることもあります。こういうことに注意すれば、ストレス解消程度の飲酒なら悪いことはないです。
最悪の例として、脂肪の多い食品をタップリ食べて、お酒もタップリ飲んで、熱いお風呂にタップリつかれば、さあ大変!鼻は詰まる、眼は痒い。と、とんでもないことになりますので、ご注意を。