減感作療法をご存じですか

◆◇◆ 1年中、お鼻のすっきりしない人のために〜 “アレルギー性鼻炎に抵抗力”をつけよう〜

減感作療法とは、

 アレルギー性鼻炎は、ハウスダストや、花粉などの種々の抗原が、体内に入り、アレルギー反応をおこすことによって生じる疾患です。この原因はアレルギーをおこしやすい体質にあります。この体質が変わらない限り、アレルギー性鼻炎の症状から解放されることはできません。

 残念ながら、現在のところ、アレルギー体質を変える治療法はありません。よく抗アレルギー剤を体質改善の薬と誤解されている方がおりますが、抗アレルギー剤はアレルギー反応を予防する薬であって、体質改善の作用はありません。

 しかしながら、ある程度アレルギー反応をおこしにくくする方法はあります。広い意味での体質改善といえるでしょう。それが減感作療法とよばれる治療法です。つまり、原因になっている抗原を少しずつ体内に皮下注射することによって、原因抗原に対する新たな免疫(抗体)を作っていくのです。この新たな免疫(抗体)によってアレルギー反応をおこしにくい体質になっていくのです。
 


 減感作療法のしくみ

 では具体的な減感作療法についてご説明します。その前にアレルギー性鼻炎の発症のしくみからみていきましょう。

 アレルギー性鼻炎では、まず体内に入ってきた抗原(ハウスダストや、花粉)が、免疫細胞に認識され、それぞれの抗原に対する抗体が作られます。(この状態を感作された状態といいます。)こうしてできた抗体を特異的IgE抗体といいます。特異的という意味は、ハウスダストならハウスダストとだけ、スギ花粉ならスギ花粉とだけしか反応しないという具合に<反応する相手が決まっている>抗体という意味です。

 特異的IgE抗体は、マスト細胞という細胞の上に乗っています。体外から侵入してきた抗原がこの特異的IgE抗体にくっつくことにより、アレルギー反応が始まるのです。これを抗原抗体反応といいます。下図をみて下さい。抗原が特異的IgE抗体と反応すると、異物が入ってきたというメッセージがマスト細胞に伝わります。するとマスト細胞は破裂して、多くの有害な化学伝達物質(ロイコトリエン、ヒスタミンなど)を放出します。この化学伝達物質が、鼻粘膜を刺激することによって、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のようなアレルギー性鼻炎の症状を発現します。

 

 ところが、減感作療法で少しずつ抗原を注射していくと、体内に特異的IgE抗体ではなく、IgG抗体という別の抗体が作られます。このIgG抗体は、抗原が体内に入ってきた時に、抗原より先に特異的IgE抗体にくっつきます。つまりIgG抗体は、抗原と特異的IgE抗体との結合を妨げる事により、アレルギー反応をおこさないように働いてくれるのです。(下図をみて下さい)



 減感作療法の注意点

 とても良い治療法のように思えますが、少し欠点もあります。
@.まず、治療の効果が現れるまで、かなりの時間がかかることです。普通に治療を開始してから、3〜5年かかると思って下さい。その間、一定周期(最初は毎週1〜2回で1〜2ヶ月、以後は、毎月1回位)で、通院して皮下注射を続けなければ、IgG抗体は十分できません。ある程度時間に余裕がないと続けることは、難しいかもしれません。

 ただし、ハウスダストによるアレルギー性鼻炎であれば、6ヶ月くらい続けると効果が出てきます。花粉症の場合は、ハウスダストほど効果が期待できませんので、現在の症状を完全に治すのではなく、次のシーズン以後の症状を少しずつ軽くしていくための治療と考えた方が良いでしょう。

A.IgG抗体のできかたは、人によってかなり差があります。つまり、効果のある人と、あまり効果の期待できない人がいます。このことが治療開始前にわかればよいのですが、残念ながら実際に治療してみないと、効果の判定ができないのが現状です。また、抗原の種類によっても効果には差があり、有効率は、ハウスダストで70〜80%くらい、花粉症では50%くらいです。

B.減感作療法は、少量とはいえ、体内に抗原を注射するわけですから、場合によっては、アレルギー反応をおこすこともあります。(ごく稀ではありますが、ショック症状を呈することもあります)しかし、体調の悪いときは注射を延期したり、注射後20〜30分くらいは安静を保つようにすれば、まず心配することはありません。


 通年性アレルギー性鼻炎と、減感作療法の適応

 花粉がアレルギーの原因となるアレルギー性鼻炎を花粉症といいます。それに対して、ハウスダストやダニが原因となり、1年中症状が見られるアレルギー性鼻炎を、通年性アレルギー性鼻炎といいます。

 軽症な花粉症であれば、症状が出現する季節だけの治療で十分です。しかし、通年性アレルギー性鼻炎のように季節に関係なく、1年中症状が見られる場合には、長期間治療が必要となり、せっせと病院通いを続ける割にはあまり効果がなく、副作用の強い薬(セレスタミン、ヒスタブロック等)を長々と飲まされたり、何かと負担が多いように思います。

 また、通年性アレルギー性鼻炎のお子さんでは、ときおり、頭痛がしたり、集中力がなくなるような症状が見られるにもかかわらず、悪い状態になれてしまったため、周囲の人も本人も鼻炎が原因であることに気づかないでいることもよく見られます。

 通年性アレルギー性鼻炎の自然治癒は、あまり期待できないため、減感作療法が、唯一最善の治療です。減感作療法は、続けて行えば十分効果が期待できる治療法です。最近は内服薬や、点鼻薬にも良い製品がたくさんでてきていますが、一般的薬物治療では、効果のみられない場合や、1年中症状が見られる場合などには、試みるべき治療と思います。

◆◇◆ 通常、減感作療法は、5才以上から行います。それ以前の年令では、副鼻腔や、鼻腔が十分形成されていないため、感染症(カゼ、副鼻腔炎など)で、鼻症状が増悪する事も多く、幼児の「お鼻グチュグチュ」は、必ずしも、アレルギーだけが原因とも言えません。

◆◇◆ 現在の減感作療法は皮下注射ですが、経口減感作といって口腔内から抗原を摂取する方法があります。まだ、試験的な段階ですが、早ければ2〜3年のうちに実用化されそうです。おそらく、スギ花粉での応用が最初になると思います。