タミフルと副作用?

タミフルは安全なの?

インフルエンザと、脳症と、タミフルの関連は?


 そもそも異常行動とは?


 タミフルは大変効果のある薬ですが、“タミフル服用後に異常行動がみられた”という報道があります。本当にタミフルと関連があるのでしょうか?。

 タミフルの添付文書には、「精神・神経症状(妄想、せんもう、けいれん、嗜眠)が現れることがある」と書かれています。(ただし、頻度不明とのことです。)ところで、こどもの場合、高熱を出したときに、特にインフルエンザの場合<熱性せんもう>といって、幻視、幻覚、幻聴などから、異常行動をする事があります。例えば、「アニメのキャラクターや、動物が見えると言ったり、訳もなく笑ったり、意味不明の言葉を話したり、怖い怖いと叫んだりすること」があります。

 <熱性せんもう>は、決して心配なものではなく、脳炎・脳症を合併しなくてもみられますが、長い時間続いたり、意識障害が強まる場合は、脳炎・脳症の疑いもあります。

 つまり、タミフル内服時の異常行動は、@.熱性せんもう A.脳炎・脳症 B.タミフルの副作用3通りの場合があることになります。一番多いのは、@.熱性せんもうです。A.脳炎・脳症は、年間100〜300人くらい。B.タミフルの副作用については、詳細不明です。
 脳症はきわめて進行が早く、異常行動が見られた場合、それが熱性せんもうか、脳症か、副作用か即座に判断することは困難です。
 その患者を診た医師が、副作用と思えば副作用として報告し、熱性せんもうと思えば副作用扱いしません。
(平成19年3月25日:「10才未満幻覚など81件」という見出しの新聞報道がありましたが、これらは診察した医師が、副作用の疑いがあると判断した例であり、本当にタミフルの副作用かどうかはこれから詳細に検討するとのことです。)
 発熱もなく全く健康な人にタミフル服用後の異常行動がみられれば副作用といえるかもしれませんが、残念ながらそのようなデータはありません。
 
 厚労省は「意識障害からくる異常行動は、インフルエンザによる脳炎・脳症の症状でもあり、タミフルの副作用とは言い切れない。」としていましたが、あまり脳炎・脳症の見られない10代未成年でも、「転落・飛び降り」のような異常行動が見られることから、10代未成年での使用を原則中止とし(平成19年3月20日)、今後、再検討するとしました。(平成19年3月23日)。

 10才未満の小児でも異常行動は見られますが、この年代はインフルエンザで重症化する場合が多いことより、従来通り使用制限はせず、発熱中は、保護者が注意深い観察をするように指導しています。


 脳症は、なぜ起こる?

 ところで、異常行動をきたすような脳症は、なぜ起こるのでしょうか。まだ、はっきりと原因が解明されていませんが、次のような仮説があります。
(※脳炎と脳症との鑑別は厳密には難しいですが、一般的に、脳内に直接ウイルスが浸潤して、炎症を起こす場合を脳炎といい、脳内にウイルスが検出されず、免疫の異常が高度に見られる場合に脳症と診断されています。)

 ウイルスは、最初鼻粘膜に感染して、ここで増殖して全身に広がります。当然、脳内にもウイルスが侵入していると思われます。ところが、脳症では、脳内からウイルスが検出されたことは殆どありません。つまり、脳症はウイルスが直接脳内に侵入しなくても発症するのです。

 なぜでしょう。インフルエンザの病原性(毒性)は、きわめて強く、このため体を守る働きをする免疫系が強烈なダメージを受けます。免疫を調節し、体内に侵入した病原体を排除する物質を“サイトカイン”といって多くの種類がありますが、インフルエンザによって、サイトカインの働きがメチャクチャになった状態を、「高サイトカイン血症」といいます。

 脳内では、「高サイトカイン脳症」という状態になり、免疫が正常に機能しないため、けいれん、意識障害、異常行動などが見られるようになります。
 さらに多くの細胞が障害を受け、全身状態が悪化すると、呼吸が止まったり、血管が詰まったりし、多くの臓器の障害多臓器不全)へと進み、命に関わる重症となります。

 鼻粘膜に一番近い脳は、側頭葉といって、<感覚・感情を調整する働き>を持っています。
 ですから、側頭葉が障害を受けると、感覚・感情の変化→幻覚・幻聴などの異常行動がみられることになります。(異常行動の原因が、脳症か、タミフルかはともかく、「転落・飛び降り」は、側頭葉の症状ともいえます。)

 以上まとめますと、脳症の進行は次の四段階に分けられます。

@.ウイルスの感染と鼻粘膜での増殖
A.免疫系の障害→高サイトカイン血症
 (脳内では、高サイトカイン脳症→けいれん、意識障害、異常行動
B.多くの細胞が障害を受け、全身状態が悪化
C.血管が詰まったり、多くの臓器の障害(多臓器不全


 タミフルはウイルスの増殖を防ぐ薬ですから、@の段階で内服すれば、A以上の進行を防ぐことができると思いますが、脳症の進行は急激で、発熱後48時間以内で脳症になっている場合が殆どです。
 すでに、Aの段階に進んでいれば、タミフルを飲んでも(飲んだら?)【脳症による異常行動】ということになるかもしれません。


 現時点での、インフルエンザと脳症とタミフルの関連について、

@ .タミフル内服時に見られた異常行動の発生率と、タミフルを飲まないで発生した異常行動の発生率には差がないこと。
(現在、より詳細な調査が行われています。)

A .脳症の進行は急激で、発熱後48時間以内で脳症になっている場合が殆どであり、この段階でタミフルを飲んでも脳症の進行を防ぐことは難しいこと。(タミフルを飲んでも(飲んだら?)異常行動

B .異常行動は、脳症を起こした場合に見られる脳の側頭葉に関連する症状と類似していること。

C.一方で、タミフルは脳内にもよく移行する薬であることから、副作用として神経症状が見られることも十分に考えられること。

D.重篤な異常行動は、あまり脳炎・脳症の見られない10代未成年に多いこと。


 インフルエンザにかかったら、注意すること

・原因が脳症かタミフルかは別として、インフルエンザに罹れば異常行動が見られることがあると用心することです。
異常行動の多くは、発熱後(タミフルを内服後?)間もなく起きています。ですから、タミフル内服中(特に発熱中)は、注意深い観察をし、異常行動(脳症?)が疑われたら、早めに医療機関を受診することです。
・そのためには保護者が傍にいて看病してあげることが大切だと思います。


★.(追加)よく聞かれること:乳児(1才未満)へのタミフル使用について。

 乳児について、タミフルは、禁忌(使用してはいけないという意味)となっていませんが、薬の承認時に、乳児に関しては十分な使用経験がなかったため、添付文書には「乳児に対する安全性及び有効性は、確立していない」と記載されています。この記載は多くの薬品にみられる「決まり文句」のようなものです。 

 発売元であるロシュ社が行った動物実験で、生後7日目の幼若ラットに1.000mg/kg(体重1kgあたり1.000mg)のタミフルを投与したところ、重篤な副作用がみられました。この1.000mg/kgという投与量は、人の幼少児に対して通常使用する500倍の量です。どんな薬でも500倍も投与したら異常が見られると思いますので、この実験だけで乳児に対する危険性は判断できず、現時点では、「有益性と危険性を考慮しつつ慎重に投与すべき」とされています。


 もう1つの治療薬:リレンザ 

 インフルエンザの薬としてタミフルはすっかり有名になりましたが、もう1つインフルエンザに有効なお薬があります。
 リレンザという名前を耳にしたことはないでしょうか。リレンザもタミフル同様、ウイルスの増殖を防いでくれますので、発症早期(いわゆる48時間以内:実際はもう少し遅れても効果があります。)に使用します。効果はタミフルと同等です。

 リレンザは、タミフルよりも1年くらい前に発売されましたが、ちょうどインフルエンザシーズンの終わり頃でしたので、あまり多くは使われませんでした。その後も、この薬はタミフルと比べるとあまり使用されていません。
(タミフル98.5%に対して、リレンザは1.5%)
 
 リレンザは吸入薬ですので、どうしても内服と比べると面倒で、使いにくい感じがするからなのでしょう。また、発売当時は小児の適応がなく、成人のみの適応でしたので、あまり広まらなかったようです。

 しかし、タミフルの問題が浮上するにつれて、少し注目されてきました。それは吸入薬ですので、脳内への移行が少なく、今のところタミフルに見られるよな異常行動がほとんどないということです。また、今年から、小児でも5才以上から使用できるようになりました。A型に対する効果はタミフルと同等です。B型に対してはタミフルの無効例にも効果が見られる場合もあります。(私の数少ない経験では、B型に対しては、タミフルよりもリレンザの方が効果があるように感じています。)

 薬の販売量も少ないためか、耐性ウイルス(薬の効きにくいウイルス)も少なく、これからは、リレンザが使用される機会も増えると思います。ただ、タミフルと比べると圧倒的に消費量が少ないため、未知の部分もあり、今後多く使われるにつれ、いろいろな副作用が見つかっていくかもしれません。が、さしあたり、タミフルに不安があれば、リレンザをお勧めします。