吐いたら飲むな!!です。
・「急性胃腸炎」とは、おなかの中にウイルスが入って、吐いたり、下痢をする病気です。わかりやすく「おなかのカゼ」とも言われます。
・便から移りますが、乾燥した吐物からウイルスが舞い上がって空気感染も します。
・下痢が治まっても、1週間くらいは、便からウイルスがでていますので、 徹底 して手を洗いましょう。
・原因ウイルスは、ロタウイルス、ノロウイルス、腸管アデノウイルス等です。
・なかでもロタウイルスとノロウイルスによる急性胃腸炎が多いです。どちらも嘔吐や下痢が主な症状ですが、若干の違いがあります。
◆ ロタとノロの比較
まず、基礎的な知識として、ロタウイルス(以下、ロタ)とノロウイルス(以下、ノロ)による急性胃腸炎の比較をしてみましょう。
ロタは主に乳幼児が感染します。ノロでは発熱は軽度ですが、ロタでは発熱・嘔吐・下痢の3主徴がそろうことが多いです。中等度〜高度の脱水をきたす重症例が多く、下痢が長引くのもロタの特徴です。ノロは全年令で罹患しますので患者数は多く、集団での流行も多く見られます。重症例も見られますが、ロタと比べると中等症が多いです。秋から冬にかけて大流行する急性胃腸炎はノロが多いです。
ロタウイルス | ノロウイルス | |
---|---|---|
潜伏期間 | 1〜3日間 | 1〜2日間 |
流行時期 | 冬〜春 | 秋〜冬 |
罹患年令層 | 乳幼児 | 全年令層 |
嘔吐 | + | + |
下痢 | ++長引く | + |
発熱 | + | -~+ |
脱水症状 | ++〜+++ | +〜++ |
検査 | 全年令保険適応 | 保険適応は3才未満と65才以上 |
ワクチン | 生後104日前までに開始 | なし |
薬 | なし | なし |
ロタとノロとでは若干の違いはありますが、どちらも嘔吐や下痢が主症状であることにはかわりありません。ここでは、ノロによる急性胃腸炎についてお話ししたいと思います。
◆ ノロウイルスかな?と思ったら。
ノロウイルスによる急性胃腸炎は冬に流行る一番ありふれた「おなかのカゼ」です。多くの人が感染しますが、特別に怖い病気ではありません。ノロは人体にとって有害なウイルスですので、これを排除するために嘔吐や下痢をします。
ノロに特効薬はありませんので、嘔吐や下痢が体を守る防御反応〜治療なのです。
◆ ノロウイルス胃腸炎の経過を正しく理解しましょう。
突然の嘔吐で始まることが多く、引き続き数回〜10回くらいの嘔吐がみられますので、1〜2回吐いたからといって慌てて病院に行くことはありません。
最初の6時間くらいは、最も吐き気が強く、吐き気止めの薬を使っても症状はおさまりません。吐いている時に吐き気止めの薬を使うと、“吐きたいのに吐けない”ため、かえって苦しくなりますので使わない方が良いです。
いくら水分を与えても吐いてしまいます。吐いてるときに飲ませると、さらに吐いて悪くなりますので、絶飲食(何も食べない。飲まない。)とします。吐いているのに【何も飲まない。食べない。薬も使わない。】と言われると不安ですが、嘔吐がおさまるまでジッと時間の経つのを待って下さい。
脱水症状が心配と思いますが、嘔吐が続いている3〜6時間程度は脱水は軽度です。脱水が強くなるのは下痢が始まってからです。最後の嘔吐から1〜2時間経ち、少し元気が出てきたら水分補給を始めます。通常、激しい嘔吐は6時間くらいで落ち着きますが、早急に受診が必要なこともあります。
◆ こういう時は受診しよう。
・6〜12時間以上嘔吐が続いたり、緑色の吐物が見られる。
・明らかな血便、黒色便が見られる。
・間欠的な激しい腹痛、啼泣。
・意識障害(顔色が悪いままウトウトする。刺激をしてもすぐに寝てしまう。抱きつく力もない。※けいれん。など)
※けいれんは発症2〜3日後に多く、嘔吐はおさまり下痢が続いてる時に見られます。
◆ 嘔吐が治まったら何を飲もうか?→お勧めは「経口補水液」
最後の嘔吐から1〜2時間経っても吐かないようでしたら、ここで始めて水分補給を開始します。嘔吐がおさまってから下痢が始まるまで少し時間があります。この頃になると吐き気は弱くなっていますので、回復を早める意味で吐き気止めの薬を使っても良いです。
乳幼児の水分補給のポイントは、「根気よく、こまめに、少しずつ、」与えることです。「糖質控えめ、塩分多め」の「経口補水液」が勧められますが、嘔吐が続いている3〜6時間程度は脱水は軽度です。脱水が強くなるのは下痢が始まってからですので、最初は飲料にこだわらず“飲めるもの”でかまいません。まず、小さじ1杯(約5ml)〜2杯くらいから始めます。1回10〜20mlの少量で、10〜30分毎に「根気よく、こまめに、少しずつ、」与えます。2〜3回飲んで吐かないようであれば、少しずつ増量します。
1時間あたり50〜60mlが飲めるようになったら、あとは飲みたいだけ飲ませてかまいません。ただし、飲みすぎると嘔吐しますので注意してください。
1日あたりに飲ませる目安量は次の通りです。
・乳児:体重1kgあたり30〜50ml
・幼児:300〜600ml
・学童・成人:500〜1.000ml
脱水は嘔吐や下痢(特に下痢)によって水分が失われるために生じますが、水分だけでなく多量の塩分も喪失しますので、厳密には「脱塩水症状」です。軽症の場合は、飲料の種類にこだわりませんが、お勧めの飲料は、やはり、「糖質控えめ、塩分多め」の「経口補水液」:OS-1、ソリタ顆粒です。
経口補水液とは電解質(Na、Cl、Kなど)や糖質をバランスよく配合し、速やかに脱水症状を改善する飲料水です。いわば、【飲む点滴】です。「糖質控えめ、塩分多め」の組成になっているため若干塩味が強いです。市販されているイオン飲料は糖質が多く塩分が少なめな製品が多く、経口補水液とてしては不十分ですが、最近は「糖質控えめ、塩分多め」の製品も販売されるようになってきました。
OS-1の成分はNa 50mEq/L(115mg/dl)、K 20mEq/L(78mg/dl)、Cl 50mEq/L(177mg/dl)、糖質(ブドウ糖)2.5%(2.5g/dl)ですので、これに近い組成の飲料であれば良いと思います。
自宅で簡単にできる「湯冷まし1リットル+砂糖40g(上白糖大さじ4と1/2杯)+食塩3g(小さじ1/2杯)」は、糖分や塩分がほどよい濃度で含まれていますので、病気の初期には適していますが、下痢が長引いてくるとK(カリウム)も不足してきますので、その場合はやはり経口補水液に切り替えた方が良いでしょう。
◆ 何を食べたらいいの?
嘔吐がおさまり下痢が続いている時の食事は、以前はとにかく消化によいものが進められましたが、最近は、あまり消化にこだわらなくなってきました。殆ど水のような下痢が1日数回続くような場合は別として、軟便程度でしたら、あまり厳密な食事制限は行いません。
大まかな目安ですが、乳児の離乳食は少し前の段階に戻して、いつもより軟らかく水分、塩分を少し多めにする。幼児には、消化によいデンプンなどの糖類(うどん、おじやなど)がよいでしょう。肉や魚も食べてよいですが、脂質を少なくするために、“焼く、炒める”は、さけて、“煮る、蒸す”料理にしましょう。果物は、リンゴがよいです(リンゴジュースはダメ、甘すぎる)。
あまり、食べない方がよいものは、牛乳、脂肪の多い食品(天ぷら、、ラーメン、中華料理など)。発酵しやすい食品(砂糖が多く含まれている食品、サツマイモ、クリなど)。ミカンのような柑橘系果実。等です。
◆ ノロの検査は
ノロの検査は、3才未満と65才以上の方に健康保険が適用されています。結果が陽性であればノロに感染していることがわかりますが、感染していても陽性とならない場合がありますので、ノロに感染していないことを確かめることはできません。
◆ 以上まとめますと
・数回〜10回くらいの嘔吐が続きます。いくら水分を与えても全部吐いてしまいます。本人も家族も嘔吐が一番つらい。でも、「吐いたら飲むな!!」です。
・最後の嘔吐から1〜2時間経っても吐かないようでしたら、水分補給を開始。
・嘔吐がおさまらないのに、のどが渇いてどうしてもほしがるときはスプーン一杯でがまんする。
・丸一日何も食べなくても心配することはありません。
・嘔吐が落ち着いたら、少量の水分を「根気よく、こまめに、少しずつ、」与える。
・急いで受診する場合は、→ ◆ こういう時は受診しよう。(上述)
◆ 幼稚園、保育園、学校はいつから行っていいの?
嘔吐している時は、まずお休みです。ロタに限らず胃腸炎は便から移ります。あまり下痢の回数が多ければ休むべきです。どの程度まで回復すればよいかというような基準はありませんが、嘔吐せず、食べることができ、元気が良く、便の管理(便から移りますので、他の人へ移さないような配慮)ができるなら良いでしょう。
◆ ノロ予防
感染予防の基本は手洗いです。また、吐物の処理も大切です。広島県福山市で作成された「ノロウイルス対応マニュアル」は手洗いや消毒液の作り方などを大変わかりやすく説明してくれています。とても参考になります。是非ご参照下さい。
ノロウイルス対応マニュアル(家庭編)
◆ 補足
寒い時期に見られる病気に「腸重責」という病気があります。腸が腸にめり込んでいって腸閉塞(腸が動かなくなること)のため頻回に嘔吐します。放置しておくと命に関わることもあります。急性胃腸炎では、胃液くらいまでは嘔吐しますが(吐物が黄色)、腸重責では胆汁まで嘔吐しますので、緑色の吐物が見られることがあります。最初は少しわかりにくいこともあります。
以前、病院勤務していた頃、「嘔吐下痢症だと思って様子を見ていたけどいつまでたってもはき続ける」といって深夜に受診したお子さんがいましたが、腸重責でした。無事、元気になりましたが、急性胃腸炎の流行る冬季は腸重責との鑑別が必要なこともあります。嘔吐が、なかなかおさまらない場合は、早めに受診しましょう。