熱中症

 熱中症の水分補給には【水分+塩分+糖分】

 熱中症とは、どんな病気?

 私達の体は、体温が上がり過ぎると皮膚から熱を放出したり、汗をかいたりすることで体温を正常に保っています。しかし、高温・多湿の環境に長くさらされていると、体温調節が出来なくなってしまい、体温がどんどん上がり、水分や塩分が失われて、失神(立ちくらみの状態)や筋肉のひきつれ(こむら返り)が起こったり、異常な高体温のため多臓器不全(脳、肺、肝臓、腎臓などの多くの臓器が機能しなくなること)となり、危篤状態に陥ることもあります。

◆ 子どもの熱中症の特徴 

 子どもは体温調節機能や汗腺の働きが十分に発達しておらず、熱中症になりやすいので注意が必要です。閉め切った自動車の中や、炎天下の戸外に長時間いますと、容易に熱中症になってしまいます。
 夏に起こりやすい熱中症ですが、冬に電気毛布や電気カーペットに寝かしておくことでもなることがあります。乳幼児は、体温調節も未熟であるため、知らないうちに熱中症になっていることも多く、親が注意して見る必要があります。

◆ 高齢者の熱中症の特徴

 高齢者も屋外だけでなく室内でも熱中症を発症する場合があります。それは、体温調節機能が低下していたり、暑さやのどの渇きを感じにくくなっているため、やはり、乳幼児同様、知らないうちに熱中症になっているからです。従って、定期的に水分を取ったり、温度計を置いて冷房器具を活用することが大事です。


 熱中症の予防

 熱中症の予防は、「高温な環境に長くいない」ということに尽きます。

@.暑さを避けましょう。
 ・日陰を選んで歩く。
 ・外出は、なるべく午前中や夕方の涼しい時間帯を選んで、炎天下では外出しないようにしましょう。
 ・帽子をかぶる。
 ・窓のすだれやカーテンを利用して室内に直射日光を入れない。

A.服装に注意しましょう。
 ・下着は吸水性のよいもの(吸汗・速乾素材)にしましょう。
 ・輻射熱を吸収する黒色系のものは避ける。白色系〜淡色系の衣服が最適です。
 ・襟元を解放して、風通しを良くする。

B.日常生活の注意事項
 ・のどが渇く前に、水分を補給しましょう。一度の多くの水分は取れませんので、少しずつでいいですから、何回も水分をとるようにしましょう。
 ・睡眠や栄養に気をつけましょう。

C.子どもの熱中症予防
 ・散歩中はアスファルトの照り返しに注意しましょう。
 ・ベビーカーは地表からの熱を受けやすいですので、実際の気温よりもさらに高熱にさらされています。
 ・夏でなくても、赤ちゃんや子どもを車やベビーカーに乗せたままにして、そばを離れることは絶対に止めましょう。
 ・外出前は必ず水筒や飲み物を持参して、まめに水分補給しましょう。
 ・顔が赤く、汗をたくさんかいているときは、体温が上がってきていますので、十分な水分補給と休養が必要です。


 こんな症状には、要注意!! 


 従来、熱中症は以下の@.A.B.に分類されていましたが、少しわかりにくく、現在は下表のように重症度から分類されています。
@.熱失神 熱痙攣
A.熱疲労
B.熱射病

 治療法は大体同じです。熱中症は時間とともに症状が進行してきます。従って、熱中症の程度を上記の@.A.B.とはっきりと決めるには困難である場合が多く、熱中症の治療はその時々の症状に対して行っていくということになります。そこで、実際の治療に即した熱中症の分類(重症度から分類)として「安岡(1999)の報告」がよく使用されています。

 安岡の報告では、熱中症について以下のように分類してます。

分類 程度 症状
T度 軽症 T度:現場での応急処置で対応できる軽症

★ 失神(数秒間程度なもの)
・いわゆる「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不充分になった状態で、“熱失神”と呼ぶこともあります
・失神の他に、呼吸回数の増加、顔色不良、唇がしびれる、めまい、などが見られることがあります。
・運動をやめた直後に起こることが多いとされています。

★ 四肢や腹筋などに痛みをともなった痙攣(腹痛がみられることもある)
・筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴います。多量に発汗しているにも関わらず、水分(塩分などの電解質が入っていない)のみを補給した場合に、塩分(ナトリウム)の欠乏により生じます。これを“熱痙攣”と呼ぶこともあります。
・全身の痙攣は(この段階では)みられません。

★ 大量の発汗

U度 中等症 U度:病院への搬送を必要とする中等症

★ めまい感、疲労感、虚脱感、頭痛、失神、吐き気、嘔吐などのいくつかの症状が重なり合って起きます。
・体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”と言われていた状態です。
・血圧の低下、頻脈(脈の速い状態)、皮膚の蒼白、多量の発汗などのショック症状が見られます。
・脱水と塩分などの電解質が失われて、末梢循環が悪くなり、極度の脱力状態となります。
・V度へ移行する危険性があります。

V度 重症 V度:入院して集中治療の必要性のある重症

★ 呼びかけや刺激への反応がおかしい。意識障害、異常行動、全身の痙攣がみられることもあります。
・自己温度調節機能の破錠による中枢神経系を含めた全身の多臓器障害です。
・重篤で、体内の血液が凝固し、脳、肺、肝臓、腎臓などの全身の臓器の障害を生じる多臓器不全となり、死亡に至る危険性が高くなります。

★ 異常な高体温
・体に触ると熱いという感触です。従来から“熱射病”や“重度の日射病”と言われていたものがこれに相当します。



従来の分類と安岡の分類の対応表
従来の分類 安岡の分類
熱失神
熱痙攣 (熱性筋攣縮、熱性こむらがえり)
T度
熱疲労 U度
熱射病 V度


 熱中症の対処法 

 
 T度(軽症)の症状があれば、すぐに涼しい場所へ移し体を冷やして、水分を与えることが必要です。そして誰かがそばに付き添って見守り、改善しない場合や悪化する場合には病院へ搬送します。
 U度(中等症)で、自分で水分・塩分を摂れないときや、V度(重症)の症状であればすぐに病院へ搬送します。

 ちょっと様子がおかしいと思った時、誰でも出来る応急処置を覚えましょう。

・涼しい日陰やクーラーの効いた場所へ移動する。
・衣類をゆるめる(胸元、袖口、ベルトなど)
・氷や水で濡らしたタオルで、手足や首を冷やす。うちわで扇いで送風する。
・スポーツドリンクなどで、水分を補給する。(汗をかくと塩分も失われるので同時に補給する)


 水分補給の意味


 少量の汗の場合は、塩分があまり失われないため、水やお茶による水分補給で十分なのですが、大量に汗をかくときは、水やお茶だけ飲んでも脱水症状が良くなりません。汗をなめると少ししょっぱいですね。これは、汗の中に塩分が含まれているからです。つまり、汗をかいて水分を失うということは、同時に塩分も失うということです。ですから、大量に汗をかいた時は、水分と同様、塩分も一緒に補給する必要があります。

 大量に汗をかいた時に、水だけを飲んでいると、体液が薄くなります。そこで、私達の体は、これ以上体液を薄めないようにするため、のどの渇きが止まるようにしてしまいます。さらに、体液を濃くしようとするために尿からも水分を出すため、ますます水分が不足することになります。

 したがって、少量の汗の場合は、水やお茶だけで水分補給できますが、大量に汗をかくときは水分と塩分の補給が必要になるわけです。また、塩分は糖分と一緒にとると吸収が早まります。特に、熱中症の状態では疲労しているためにエネルギーを補う必要もありますので、糖分も必要です。

 結論として、熱中症の水分補給には【水分+塩分+糖分】の三大要素が必要ということになります。

 では、具体的にどの様な飲料がよいのでしょうか。

 軽症の場合は、飲料の種類にこだわりませんが、お勧めの飲料は、やはり、「糖質控えめ、塩分多め」の「経口補水液」:OS-1、ソリタ顆粒です。

 経口補水液とは電解質(Na、Cl、Kなど)や糖質をバランスよく配合し、速やかに脱水症状を改善する飲料水です。いわば、【飲む点滴】です。「糖質控えめ、塩分多め」の組成になっているため若干塩味が強いです。市販されているイオン飲料は、糖質が多く塩分が少なめな製品が多く、経口補水液とてしては不十分ですが、最近は「糖質控えめ、塩分多め」の製品も販売されるようになってきました。

 OS-1の成分はNa 50mEq/L(115mg/dl)、K 20mEq/L(78mg/dl)、Cl 50mEq/L(177mg/dl)、糖質(ブドウ糖)2.5%(2.5g/dl)ですので、これに近い組成の飲料であれば良いと思います。

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