インフルエンザ(H1N1)2009の検証
  インフルエンザ(H1N1)2009の検証



平成22年4月20日

 ※ 本文の内容は、平成22年4月20日に記載したものです。

 ここで言う新型インフルエンザは、2009年4月にメキシコで発生した豚インフルエンザ(H1N1)についてです。鳥インフルエンザ(H5N1)ではありません。
 豚インフルエンザ(H1N1)は、平成23年3月18日、
インフルエンザ(H1N1)2009と名称が変わり、季節性のインフルエンザと位置づけられました。


 新型インフルエンザ発生から、1年を振り返って

 昨年の春、メキシコで“新型インフルエンザ”が発生しました。あれから、早1年経ちました。世界中で流行した“新型インフルエンザ”は、まだ、流行している国々もありますが、日本では終息に向かっているようです。

 今、日本の国民は“新型インフルエンザ”を、どの様に思っているのでしょうか、「終わってみれば、こんなもの」というのが、本音ではないでしょうか。大騒ぎした割には、“季節性インフルエンザ”よりも、症状は軽く、社会・経済に与える影響も、思ったより少なかったことは事実です。

 しかし、死亡した人もいますし、入院した人もいます。総じて軽症者が多かったとはいえ、今後、どの様な形で新型が流行するか全く見当がつきませんし、“高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)”もなくなったわけではありません。

 メキシコで発生した“新型インフルエンザ”は、【神様が人類に与えてくれた試練〜予行演習】と、捉えるべきです。今回の“新型インフルエンザ”の体験を活かして、今後さらなる“高病原性新型インフルエンザ”に備える心構えが必要です。
 
 「未知」の疾患:“新型インフルエンザ” について、この1年間で経験したことを検証し、“新たな新型”に備える準備を始めたいと思います。


 全国的な流行の推移と、世界との比較

 新型インフルエンザ(以下、新型)の流行は、2009年5月に、関西地域から始まりました。当初、新型は病原性がかなり強い(高病原性)と考えられたため、すでに策定されていたガイドライン(新型インフルエンザ対策行動計画)に基づいて、発症者の入院隔離、濃厚接触者の自宅待機、地域の学校閉鎖など、かなり強い措置がとられました。

 今から見ると、日本の措置は少し厳しすぎる対策ではありましたが、社会全体で防衛手段をとったため、大きな流行にはつながらず、また、重症者も見られず、比較的短期間で流行は一時下火になりました。
 
 しかし、一度定着した新型は、6月〜7月にかけて全国で5000例くらいみられるようになり、殆どの都道府県で新型がみられるようになりました。

 7〜8月に、高校総体、高校野球、修学旅行、夏休みなどがあって、特に中学・高校生の行動範囲が拡大しました。その結果、新型が全国にバラまかれていったという感じがします。盛岡市でも夏休みが終わる頃からは徐々に患者が増え始め、10月〜11月にピークを迎えました。

 12月には次第に患者数も減少し、年が明けてからはあまり見られなくなりました。凄まじい流行のような印象がありましたが、2010年1月現在で、患者総数は1.700万人です。過去10年の季節性インフルエンザの患者数は、流行の少ない年で約1.000万人、多い年だと約1.800万人の患者が出ていると推計されていますので、新型が特別大流行したというわけではなさそうです。

 世界全体の死亡数は推計17.000人。米国は同12.000人に対し、日本では198人と二桁も少ないです。「日本だけが、なぜ新型の犠牲者が少なかったのか?」各国のメディアは、おおぜいの人がマスクをして町を歩く姿を見て、「パラノイア(偏執狂)の国」と皮肉ったりしました。しかし、マスクはともかくとして、日本の対策は有効なものが多く、例えば、、学校閉鎖のような社会的防衛手段を積極的に行ったこと。誰でもすぐ病院を受診できる保険制度があること。世界最大のタミフル備蓄国であること。等が、日本での犠牲者が少なくてすんだことだと思います。


 対策の効果と是非、発想の転換

 新型発生当初は、高病原性を想定していたため、かなり強い措置がありましたが、次第に低病原性とわかってくると、規制は緩和されるようになってきました。しかし、新型の毒性について、いつ、誰が、どの様な根拠で、高病原性、あるいは、低病原性と判断するのか、明確な基準があるわけではなく、医療現場、特に入院設備のある病院では混乱が続きました。
 
 一度、国内に入った新型の流行を止めるというのは、無理です。当初、成田空港での水際作戦(検疫の問題)にいろいろな意見が出されましたが、日本への侵入を本気で防ぐつもりなら、鎖国しなければならないでしょうし、また、国内に持ち込まれた新型を流行らさせないようにするには、みんなが防空壕か地下室にでもこもって何ヶ月も生活しなければなりません。しかし、そのようなことをすれば社会がメチャクチャになりますし、現実には不可能です。
 
 つまり、「新型を、国内に入れない。流行らさせない。」と考えるのはいいとして、現実に「国内に入ってくるわけだし、流行するわけです。」ここで発想の転換が必要になります。

 発想の転換を流行の推移とともに考えると、最初に発生する段階では「未知」の部分が多く、その正体がよくわからないわけですから、できるだけ国内侵入を防ぐため、検疫の強化などを行います(第1段階)。それでも国内で患者が発生し始めたら、できるだけ他人にうつさないようにしながら、状況を観察していきます(第2段階)。感染者が増えるにつれて、今までわからなかった事がわかってきます。例えば、どの様な症状が見られるのか、大人に多いのか、子どもに多いのか、重症者が多いのか、軽症者が多いのか、等など、つまり、「未知」の内容が少しずつ判明してきます。(第3段階)。
 
 この様な経過をたどりながら、それぞれの段階で、対策を修正していかなければなりませんでした。

 今回の新型の場合、初めは重症者が多く出るのではないかということで、かなり強い措置もとられましたが、次第に軽症者が多いということがわかってきました。

 ところが、感染拡大期において、その発想の転換が遅かったように感じます。例えば、新型を「重症」と思い続けている医療従事者は、患者を診なかったり、全部の患者の隔離を考えたりする一方、「軽症」しか診ていない医療従事者は、こんな軽い病気に対して果たして薬が必要だろうか?とか、1週間も学校を休む必要があるのだろうか?等と考えました。
 
 このように、状況の変化に対して司令塔になるべき人(機関)が不在であったため、全体の意思統一が取れないままに、流行期に突入していったという感じです。これは大いに反省すべき点であり、今後はハッキリと指示を出せる司令塔が必要なことは言うまでもありません。


 患者の年令層

 新型の患者の年令層を見ると、一番多いのは5〜9歳、10〜14歳といった幼児期後半、小中学生で、男女差はほとんどありません。入院した患者は、5〜9歳をピークに、0〜4歳が比較的多いなど、圧倒的に年少者が多いです。

 不思議なことに、中高年者では患者の発生が少ないです。この理由として、もしかしたら免疫がある?つまり、過去に類似したウイルスの流行があったのではないか、との見方がありますが、はっきりと結論は出ていません。
 しかし、新型インフルエンザによる死亡例を年令別で見ると、患者の発生が少なかった中高年者において、致死率は急に高くなっています。また、亡くなった中高年者においては基礎疾患を持っている割合が非常に高くなっています。

 つまり、小児はかかりやすいけど、重症者は少ない。中高年者はかかりにくいけれど一旦かかると悪化しやすく、ことに基礎疾患のある人はよりリスクが高い、といえます。これは季節性インフルエンザ(以下、季節性)とも共通しています。

 以上のような流行状況から考えますと、すでに小中高生ではかなりの人数が新型にかかっている可能性があり、またワクチン接種をしている人も増えているので、これから、爆発的な流行はないかもしれません。

 一方、中高年者の場合は、かかりにくいが、かかってしまうと重症化することがあるということから、高令者施設などでいったん流行が始まったりすると、死亡者が増えてくる危険性があります。やはり、注意は必要です。


 症状

  新型も、季節性と同様、突然の高熱、倦怠感、筋肉痛、関節痛などの症状が見られますが、季節性よりも少し軽い印象を受けました。実際、タミフルやリレンザを使用すれば、発熱期間は、せいぜい、1〜2日間と短く、重症者は殆ど見られませんでした。

 しかし、気管支喘息のような呼吸器疾患を持っている場合、危篤状態に陥るくらい重症になる人がいました。“重症な呼吸器障害”これが新型の症状の特徴です。

 なぜ、新型では重症な呼吸器障害が見られるのか?はっきりと証明されたわけではありませんが、季節性は、直接肺に浸潤して肺炎を起こすことは少なく、季節性に罹って体力が弱った状態で、季節性以外のウイルスや細菌によって肺炎を併発することが多く、高令者によく見られます。
 これに対して、新型は、直接肺胞(汚い空気ときれいな空気を交換する組織)に障害を与えますので、一気に低酸素状態となり、季節性とは比較にならないくらい重症になります。

 一方、毎年、話題になる「脳炎・脳症」は、季節性よりも新型は少ないようでした。新型の好発年令は季節性よりも、やや年長にシフトしていますので、乳幼児に多い「脳炎・脳症」は少なかったものと思われます。


 検査キットと診断

 幸い、検査キット、薬は十分供給されたように思います。当院では、今シーズン検査キット、薬が不足することはありませんでしたが、「熱が上がったらすぐ受診?」ということで、【発熱→即、検査】を希望する患者さんが実に多数見えました。

 ご存じの通り、インフルエンザは発熱してから、少し時間がたたないと、検査しても結果がわかりません。しかし、検査を希望する発熱者は「検査をしなければ気が済まない」という感じで来院されます。この傾向は、通常の診療のみならず、夜間急患診療所、休日当番医でも同様でした。そのため、発熱後すぐに検査することも多く、陰性例が目立ちました。また、新型は陽性率が低く、検査だけでの診断は当てになりませんでした。

 検査キットの課題は、時間の問題です。もっと精度が上がれば、より短時間で結果がわかるようになると思います。

 このように限界のある検査キットに頼ってしまっては、かえって誤ってしまいます。検査キットがなくてもインフルエンザ流行期には、周囲の流行状況、顔(症状)を見れば、インフルエンザかどうか、わかります。

 私は検査キットは、参考程度として、診断しましたが、特に困ることはありませんでした。ただ、「検査キットでは陰性でも、(症状から)インフルエンザです。」と説明した時に、疑問な顔をされる方も多く、あまりに検査が過信され、医師の診断技術が軽んじられているという傾向を感じました。

 インフルエンザの検査キットが発売されたのは平成11年(1999年)です。それまでは、周囲の流行状況や、本人の症状からインフルエンザと診断していました。早い話、平成11年以後に医師になった人やインフルエンザに罹った人は「始めに検査ありき」なのかもしれません。
 
 私は昭和の時代に医師になっていますので、検査もタミフル・リレンザもなんにもない時代を経験しています。とても大変でした。それに比べたら、今はなんと恵まれていることか、むしろ、かえって検査に頼ってしまい、医師本来の技量を発揮できなくなってしまっているようにも思えました。

 「インフルエンザに罹っていない証明書」なるものにはまいりました。インフルエンザに罹ってもすぐ症状がみられるわけではなく、潜伏期間にはわかりません。それに流行期であれば、いつ罹ってもおかしくないわけですから、罹ってない証明書等というものはあり得ません。この説明でどれだけ時間を費やしたことか、行政や医師会はこの様な「誤った新型対策」に、警鐘を唱えるべきでした。マスコミなどを通じて、「インフルエンザに罹っていない証明書」等はあり得ないものと、ハッキリ公表すべきだったと思います。


 治療:薬

 今シーズンは、タミフルもリレンザも十分間に合いました。タミフルの異常行動についてはあまり報告もなく、昨シーズンまでの騒ぎは、いったい何だったのかという感じでした。 
 厚労省は、新型が出現した5月に「新型にはタミフルを第1選択剤とする」と公表しています。にもかかわらず「十代未成年でのタミフルは原則禁止」とも言っています。

 5月に神戸で新型が流行した時、高校生の患者の半数にはタミフルが使用されています。十代未成年に第1選択剤として、タミフルを使用してもよいのかどうか?曖昧な表現では医療現場が混乱したままです。

 もう一つの薬リレンザは、5才以上で使用できるようになりました。タミフルもリレンザも元々の成分は同じですから、異常行動を心配するなら、同様の注意が必要でしょう。

 しかし、「タミフルとリレンザのどちらがよいですか?」と患者さんに伺いますと、リレンザを選択する人が多いです。「飲めばタミフル、吸えばリレンザ」です。この二剤は同じ薬と考えた方がよいです。

 ところで、タミフルは年令別に薬の量が設定されていますが、リレンザはありません。5才の子も大人も同じ量です。このことを知っている人は意外と少なく、タミフルではなくリレンザを選択したものの、チョット、戸惑うようでした。

 タミフルもリレンザも5日間必要ですが、新型は薬の効きがよく、殆どの場合、1〜2日で解熱してしまいます。新型に限らず、インフルエンザは体内に5日間は残っているため、最低5日間は薬が必要とされていますが、実際に5日間内服(吸入)する人ばかりでなく、解熱したらそこで薬を止めてしまう人も多く見られました。

 新型発生当初に、薬は5日間必要とみんな思っていましたし、5日間では足りないのではないかと思う医師もいました。しかし、大部分の患者が、軽症とわかっても、5日間投与の基本方針は変わりませんでした。投薬期間については、検討の余地があります。


 夜間救急・休日診療

 盛岡市では、新型の患者数が増えてきた10月中旬から、夜間急患診療所では土・日・休日は小児科医2名で診療に当たりました。過去にこの様な例はなく、初めての試みでした。盛岡市の小児科医は、全員で頑張りました。その結果、100名くらいの急患にも十分対応することが出来ました。ただ、小児科医が二人いても、会計などの事務職が増えているわけではないので、早く診察が終わっても、そのあとの待ち時間が結構長かったようです。

 また、新型と診断された人も、これから診察を受ける人も一緒の待合室にいました。はっきり新型と診断がつけば、その人たちは、他の人たちと別の待合室にすればいいわけですが、はっきりと診断がつかず、新型が疑わしいが、違うかもしれないという人も多く、どのような基準で、待合室を分けたらよいかということは、今後の課題として残りました。

 休日当番医は、以前より、インフルエンザなどの流行期には市内1件ではなく、もっと増やしてほしいとの要望が寄せられていますが、現状は、マンパワーの不足(小児科医不足)により、1件で行わざるを得ません。「待ち時間が長い」と医師会には苦情が寄せられますが、休日も休まずに診察を続ければ、必ずどこかに無理が出てきます。

 今回の新型の流行は、思ったほどの規模にはならず、一般の診療所においても、「スタッフが新型に罹って診療を続けることが出来ずに休診」等ということはなかったようです。
 長丁場が予想される場合、やはり、短期間とはいえど、無理は出来ません。無理して倒れたら、そこで、ストップです。休日診療どころか、平日の診療も出来なくなります。

 ただ、複数の休日当番医は、不定期であれば、可能かもしれません。一般診療所の休日当番医は3ヶ月に1回くらいの割合で、回ってきます。ですから、しばらく当番医が当たらない状況であれば、臨時に当番医が出来るかもしれません。これは、それぞれの医師個人の体力、技量でしょうから、強制されるものではないです。

 しかし、「最近、インフルエンザで休日当番医が混雑しています。どなたか臨時で当番医をしてもらえませんか」と、手上げ方式で、臨時の当番医を募った場合、ある週は2〜3件の当番医がいて、ある週は1件しかいないというようなことも起きるかもしれません。なにぶん「出来る人はして下さい」という手上げ方式ではそういう問題が起きそうです。

 これでは必ず非難を浴びることになりますし、臨時当番医をしない医師は肩身の狭い思いをします。言い換えますと、この辺の事情をご理解いただければ、臨時の当番医を増やすことはそんなには難しくないかもしれません。
  
 私は12月30日に臨時の当番医をしてみましたが、すでに新型の流行はピークを越え、広報などによる公表がなかったせいか、あまり多くの患者さんは受診されませんでした。

 小児科の臨時当番医については、いつ流行期に突入するか、予測することが困難であり、医師数も少なく、前もって複数の当番医を確保することは無理です。しかし、不定期ですが、時々、複数の当番医をおくことは可能のように思います。


 学校閉鎖

 学校では、低病原性のためか一気の大流行には至りませんでしたが、その代わり小流行が持続しました。
 1学級に2人で学級閉鎖、2学級以上で学年閉鎖、2学年以上で学校閉鎖、という取り決めになりましたが、閉鎖すると一時的に患者数が減って、また、みんなが登校すると患者が発生して・・・。の繰り返しでした。

 この年代での発症者が一番多く、学校での流行状況が現在の流行状況を示していました。医師会からは、FAXで、どこの学校の何年生が新型に罹ったという情報が毎日のように送られてきましたが、盛岡市あるいは、岩手県全体でどのくらいの人数が罹っているのか、今流行しているのはどこの学校(地域)か、ということがわからないため、流行の全体像が捉えにくかったように思います。その日の夕方くらいには、各学校別に新型患者数をインターネットで公表すればよかったと思います。

 度重なる閉鎖のため学校では授業の遅れが心配されましたが、幸い、長期休暇にあまり影響なかったようです。新型に対する閉鎖基準は今回の通りでよかったに思われます。さらに強毒性が出現した場合は、また、考えなければなりませんが、特に、幼稚園・保育園は学校ほど閉鎖が行われにくく、学校とは別な対策〜基準が必要かもしれません。


 ワクチン

 ご存じの通り一番混乱を極めたのはワクチンではないでしょうか。優先順位については、その基準がわかりにくく、大変混乱しました。そもそも「基礎疾患」なる言葉が曖昧です。

 小児における基礎疾患は【 小児慢性特定疾患 】のうち、易感染性のあるものと定義すれば良かったと思います。そのような疾患は一般の診療所でみることはなく、大学病院や地域の基幹病院で治療されていますので、よほどわかりやすく、困難も少なかったはずです。

 残念に思うのは、ワクチンを接種する時期があったのに、それを逃したことです。最初、厳しい?優先順位のため、接種できる人は限られていました。また、新型大流行の真最中に接種が始まったため、医療機関ではてんてこ舞いの忙しさでした。

 しかし、11月第2週からは患者数が少なくなってきました。インフルエンザを何度も経験してきた医師なら、これからは終息に向かっていくと直感します。事実、以後患者数は減少していきます。当然、時間的余裕が生まれますから、新型ワクチン接種に時間をとることができました。この時に、接種対象者の枠を広げて、誰でも接種できるようにすればよかったと思います。もちろん、通常の診療時間だけでは足りないでしょうから、臨時に新型ワクチン接種時間を設けなければならなかったでしょうが、流行のピークを過ぎた当時なら十分可能だったと思います。
 地方自治体は、厚労省通知通りでなく、現場の状況を見て、臨機応変に対応してほしかったと思います。ここでも発想の転換の遅れが見られました。

 ワクチンは、ワクチン株を入手すれば作ることが出来ます。世界中でインフルエンザワクチンを作ることができる国は十数カ国しかありません。日本はそのうちの一つです。その日本が、なぜ、外国からワクチンを輸入しなければならなかったのか?不思議です。

 もともと、日本のワクチン製造メーカーは中小企業が多く、今回のように大量に生産しなければならなくなった場合、対応できないようです。翻って、新型が流行するだろうと、ここ数年言われているわけですから、もう少し多くの企業にワクチンを製造できる技術・環境を整えておけばよかったはずです。

 今回のワクチン不足のためか、日本国民がワクチンの重要さに関心を持ってきたためか、来年度からは、国内の二つの大きな製薬メーカーがインフルエンザワクチン製造に乗り出します。今後は量的には不足することはあまりないように思われます。

 新型が激減した今、ワクチンは大幅に余っています。しかし、最初は高病原性か、低病原性かわかるわけがないので、多くの人の分を用意して間違いではなかったと思います。


 当院での新型対策    

 最後に、当院での新型対策について検証してみました。盛岡市内の小・中学生に新型が見られるようになってきた9月初旬に、当院では【流行期の新型インフルエンザ対策】 【インフルエンザ大流行期における外来診療】 として、以下のような対策を立て、院内や、ホームページに掲示しました。


流行期 の 新型インフルエンザ 対策

 新型インフルエンザは、今後感染の規模を広げ、何回も大きな流行の波を繰り返すだろうと言われています。我々人類は免疫を持っていないため、今後3〜4年の間に殆どの人が感染すると考えられます。

 さしあたり、現在の流行は10月中旬にピークを迎えるようです。通常の季節性インフルエンザの流行が、せいぜい2〜3週間であるのに比べ、はるかに長い期間にわたって流行が続くものと思われます。

 もはや、流行の波を抑えることは困難です。今、求められている対策は、
感染の拡大をできるだけ小さく遅くする。重症化を防ぐ。です。 
 予防として、手洗い、うがいなどは大切なことですが、罹ったあとの対策も大切です。新型は季節性と比べて、罹ったあとに長く体内に残っています。中途半端に治療して人混みに行けばそこで他の人に移してしまい、さらに感染が広がってしまいます。
 季節性インフルエンザでは、解熱後二日間経過すれば社会復帰してもよいことになっていますが、新型では、解熱後二日間経過するか、または、発症後(熱がでてから)一週間経過するか、のどちらか長い方を選択します。多くの場合、『発症後一週間経過してから社会復帰』ということになると思います。感染拡大防止のため、みんながルールを守ることが大事です。

 やたらと心配をあおるようなマスコミ報道も見られます。私も、何人か新型(と思われる)インフルエンザの患者さんを診ましたが、毎年流行する季節性インフルエンザと変わりません。今のところ、季節性インフルエンザと同じように対応をしていけばよいと思います。

 長期間にわたり、患者数は増え、外来は大変混乱すると思います。避けがたいことですが、誰も経験したことのない非常事態が目前に迫っています。少しでも混乱を少なくし、円滑な診療ができるように地域の一医療機関として最大限の努力をしますので、皆様にもご協力をお願いします。


インフルエンザ 大流行期 における
外来診療

1.予約診療は一時中止します。

 待ち時間を短縮するため、予約診療していますが、患者数の増加のため、予約しても2〜3時間待ち、予約しなければ4〜5時間待ちという事態が予測されます。このような状況で予約の意味はなく、「予約したのにいつ診てもらえるんだ」というような混乱が生ずることが予測されます。
 流行期になり次第、予約診療は中止し、来院順に整理券を渡して診療します。なお、診察順は必ずしも整理券どおりにはなりません。ご了承下さい。


2.受付窓口、順番のトラブルを少なくするようご協力下さい。

 大勢の患者さんで外来は大変混雑すると思います。待ち時間、順番などをめぐってトラブルも多く生じると思います。できるだけスムーズな診療を心がけますが、皆様にもご協力をお願いします。

@.受付窓口では混乱が予想されます。事務員一人に対して、患者さん一人の対応にして下さい。事務員が一人の患者さんと応接中に、横から割り込まないようにお願いします。

A.必ず、診察券を持ってきて下さい。診察券がない場合、受付に時間がかかり、他の患者さんにもご迷惑をおかけします。

B.診察順は、患者さんの容態も配慮しますので、必ずしも整理券どおりにはなりませんので、ご了承下さい。

C.順番になってお呼びしてもその場にいない場合は、次の方を先に診察します。その場合さらに待ち時間が長くなります。

D.順番まで、院外でお待ちいただいてもけっこうですが、順番を過ぎてから、院内に戻り、「自分の番になっているから(自分の番は過ぎているから)、すぐ診てくれ」というご要望には応じかねます。やはり、それまで院内でお待ち頂いている方がいるわけですから、その方々を優先的に診察することが正論と思います。席を外して順番を過ぎた場合は、さらに待ち時間が長くなります。

E.混み合っている場合、待ち時間は、予測できません。「あとどのくらい待つのか」というご質問には正確にはお答えしかねます。
 目安として、例えば、現在、整理券50番の人が診察中だとして、ご自分の番号が70番なら、一人あたりの診察時間を約4分として、(70-50)x4=80分待つことになります。

F.着脱しやすい衣服でいらして下さい。上下がつながっている赤ちゃんのお洋服は着脱が不便です。なるべく上下別々のお洋服でいらして下さい。

G.中待合室では上着のボタンをはずすなどして、診察の準備をしていて下さい。


3.慢性疾患に対する対応

 定期的に当院を受診されている気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などの慢性疾患患者さんについては、症状が落ち着いていることが確認できれば、問診(症状を聴くこと)中心の診療とし、できるだけ受診回数を少なくなるように配慮します。
 なお、これは『慢性疾患で定期的に受診』されている患者さんに限ってのことです。新患の方、及び、しばらく受診していない方は対象外です。


4.乳幼児健診 予防接種の時間帯は、発熱患者の診療はしません。

 乳幼児健診(火・金:午後1時30分〜3時)、予防接種(水・木:午後1時30分〜3時)の時間帯は健康なお子さんだけを診察しています。熱のある方は受診を控えて下さい。
 受診されても院外で3時過ぎまで待っていただくことになります。健康なお子さんにインフルエンザを移さないための配慮ですので、ご協力下さい。
 乳幼児健診 、予防接種は、引き続き予約診療を行います。しかし、あまりにインフルエンザが増えれば、乳幼児健診、予防接種も時間を短縮し、その分を一般診療時間に充てるようにします。
 なお、当然のことではありますが、乳幼児健診 、予防接種にいらっしゃるお子さんも発熱している場合は、この時間帯に受診せずに、一般診療の時間帯においで下さい


5.受付時間厳守で、お願いします。

 受付時間内に受診した患者さんは、全員診療しますが、受付時間に間に合わない場合は、夜間急患診療所を受診して下さい。
 個人の診療所が、短期間夜遅くまで、がんばればすむような事態ではなく、新型インフルエンザの流行は長丁場になると思いますので、医療機関の崩壊を防ぐ意味でも、受付時間厳守でお願いします。


6.スタッフ不足

 当院の事務員、看護師などがインフルエンザなどのため、勤務できない場合、労働力が不足し、通常の診療を続けることが困難になります。しかし、全面的に休診しますと、多くの患者さんだけでなく、周辺医療機関にもご迷惑をおかけすることになります。 
 特に、あまりに多くの患者さんが、二次医療機関を受診すれば、二次医療機関本来の入院診療に支障をきたすおそれがあります。入院を受け入れることができなくなれば大変です。二次医療機関(入院施設)の崩壊は、地域全体の医療崩壊につながります。
 二次医療機関を守るためにも、おいそれと休診するわけにはいかないと思っております。しかし、スタッフの不足は何とも致しがたく、診療時間の短縮(例えば、午前のみ診療とか、午後3時で終診とか、)で対応したいと思います。


7.診療の簡素化

 インフルエンザ以外の疾患に関する検査、処置、説明などは、急を要する場合を除き、簡素化します。当日の診療内容について、もっと詳しく聞きたかったこと、よくわからなかったこと、などがあれば、後ほど、メールやFAXなどでお問い合わせ下さい。多忙な時期ですので、すぐご返答できないかもしれませんが、できるだけ速やかに対応します。


8.検査キット、薬の不足

 検査キット、薬はできるだけ確保するようにしていますが、いずれ不足する事態も想定されます。在庫がなくなった場合には、院内に掲示します。


9.ワクチン接種時期

 新型については、未定です。優先順位やら、輸入ワクチンやら、はっきりしないことばかりですので、追ってお知らせします。
 季節性については、9月24日より接種しています。

 いつ大流行期に突入するか、予測できません。上記につきましては、 予告なしで、突然、行なわざるを得なくなると思いますので、ご了承下さい。


 検証:
 患者数からみると、思ったほどの大流行ではありませんでしたので、大きな混乱はなく、無事、“新型の第一波”は、クリアできたかと思います。何事も「備えあれば憂いなし」というように、流行前に当院の方針として
【流行期の新型インフルエンザ対策】 【インフルエンザ大流行期における外来診療】 を掲示したことはよかったと思っています。

 来院される方々は、この掲示をご覧になったと思います。一度見ただけではよくわからないこともあったと思いますが、繰り返し読まれることによって、「なるほど、自分たちが出来る対策とは、みんなが協力することなんだな。」 「自分勝手なことをしてはいけないんだな。」 「当たり前のことを当たり前にすれば良いんだな。」と、心の準備をすることが出来たと思いますし、安心感と期待感を持って頂いたと思います。

 「対策」と言えば、すぐ、「検査、薬」などしか思い浮かばないかもしれませんが、インフルエンザ対策は、「検査、薬」だけではなく、
【患者さんも、医療従事者も、お互いに協力する事】が、一番大切な対策であるということを、ご理解頂けたと思います。

 しかし、一方では、この様な掲示には全く目もくれず、あるいは、初めから協力する気の全く見られない人もおりました。診察室では1:1の対応ですので、あまり混乱はありませんでしたが、受付窓口には一度に多くの患者さんが押し寄せ、順番を守らず、横から割り込み、自分勝手な要求をする人もいました。診察室での対応が1:1であるように、受付窓口での対応も1:1です。これはいかなる業種においても当然のことです。

 この様な身勝手な人はごく少数でしたので、大きな混乱には至りませんでした。とはいえ、この様な身勝手な人は、日頃から当院をご利用下さっている常識ある多くの方々にご迷惑をかけます。身勝手な要求が通って正直者が馬鹿を見てはいけません。常識ある多くの方々が不快な思いをしないように、今後はこの様な身勝手な人に対しての接し方も考えなければなりません。これは新型に対してだけでなく、日常の診療についても言えることです。

 一般診療の予約は続けることが出来ました。1日の一般診療患者数が150名を超える日が続くようになったら予約診療は中止しようと思っていましたが、幸い、そういう事態にはなりませんでした。待ち時間はいつもよりは長かったと思いますが、予約診療はある程度受診時間を分けることが出来るため、患者さんが分散しますので、予約を続けて良かったと思っています。

 予防接種は大変混雑しました。新型の流行、新型ワクチンを視野に入れて、季節性ワクチンを例年よりも早めて、9月24日より接種開始しました。それでも、時間が足らず、水曜日は時間延長して行いました。予約あり、予約なしとも多く、順番が混同し、せっかく予約して頂いた方でも順番が後になったりして、ご迷惑をおかけしました。予防接種は、『予約なしで整理券による来院順』が良かったかもしれません。

 当番日に診療整理券を使いました。「自分の順番がわかって良かった。」「忘れられていないと安心して待てた。」と好評でした。初めての患者さんには整理券がわかりやすいようでした。整理券は精神安定剤のようなものかもしれません。

 今後は、待ち時間が長くなりそうな時には、現在の進行状況(例えば、今、何番の人が診察中で、自分が何番だから、あとどのくらいで自分の番になる。というようなこと)が、わかるような掲示が出来ればよいと思っています。現在検討しています。

 重症な呼吸器障害の患者さんもおりましたが、早い段階で診断がつき、速やかに入院紹介できました。重症患者の殆どが気管支喘息で通院中であったり、過去において発作が見られています。気管支喘息の患者さんには積極的にワクチン接種を勧めました。しかし、気管支喘息の患者さんが、気管支喘息を基礎疾患と捉えていない場合も多く、接種する時期が遅くなった人もいました。「気管支喘息は基礎疾患」ということを、もっと強くアピールすべきでした。

 大体、以上のように検証しました。この経験を今後に行かしていきたいと思います。引き続き皆様のご協力もお願いします。


 今後の新型

 まだ、終息宣言がだされたわけではありませんが、患者さんは殆どみなくなりました。実質的には終息と言ってよいでしょう。しかし、仮に終息宣言がでたからといって新型が消えたわけではありません。今後どのような形で我々の前に現れてくるのか全く見当がつきません。
 スペインインフルエンザのように大きな流行が何回か繰り返してくるかもしれませんし、高病原性になるかもしれませんし、もしかしたら、消えてなくなるかもしれません。

 まさに、「群盲像を撫づ」から始まった新型対策は、「未知」の本質に対して発想の転換が出来ずに、後手後手と回ってしまいました。混乱の極みは、『行政〜医師会〜マスコミ』が、意思疎通を欠いたことだと思います。行政の方針が決まれば、マスコミはそれをそのまま公表しました。不安に駆られた患者さんが医療機関を受診しても医療機関に入る情報もマスコミを通じてのものでしかなく、何が真実なのかわからないまま、多くの風評が拡がり、「新型インフルエンザに関しては、一億総評論家」という皮肉も聞かれ混乱が続きました。今後は、『行政〜医師会〜マスコミ』が、もっと綿密な連携をとらねばなりません。

 一般の診療所で出来ることは、【患者さんも、医療従事者も、お互いに協力する事】です。これは決して難しいことではありません。患者さんと医療従事者との信頼関係があれば、可能なことです。

 当院では、新型発生後、『誰も経験したことのない非常事態』が迫っているとして、【流行期の新型インフルエンザ対策】 【インフルエンザ大流行期における外来診療】を掲示しました。今にしてみれば少し大げさにも思えますが、「未知」の本質が見えない時点では、このくらい用心してよかったと思っています。それによって患者さん達のモチベーションも高まったと思います。

 今、新型といえば、昨年4月にメキシコで発生したH1N1を意味しますが、もともと新型の第1候補だった致死率60%鳥インフルエンザ(H5N1)は依然として地球上に存在してますし、それ以外の新型も発生する可能性はあります。

 私たちは今回の新型インフルエンザの体験を教訓として、さらなる新型への対策を準備していかなければなりません。