インフルエンザは、毎年冬に流行するカゼの親玉のようなものですが、欧米では普通のカゼと区別して、重症疾患として取り扱っています。ふつうのカゼと大きく違う点は、発熱、咳、倦怠感などの症状が強く、治りにくいということです。<インフルエンザは、カゼではない>のです。
特徴的な症状は突然の高熱ですが、あまり熱のでない時もあります。また、筋肉痛、関節痛などの症状が強く見られます。
インフルエンザの症状を一言で言えば、“今まで経験したことがないような、どうにもならない倦怠感”といえます。一度かかった人なら誰でもわかりますよね。“周囲にインフルエンザの人がいて、突然高熱が出て、目が充血して、ぼーっとした表情”だと、インフルエンザかなと思います。
この症状は数日から1週間くらい続きます。以前は(と言っても、もはや十数年前の話ですが・・・)、インフルエンザに効く薬がなかったので、毎日解熱剤を使ったり、点滴したりしてましたが、どんどん悪化して、入院することも珍しくありませんでした。何とか治っても、しばらく体調が戻らないため、2~3週間は仕事が手につかない方も多く見られました。
とても重症な病気と思ってください。
インフルエンザの合併症には中耳炎、気管支炎、肺炎などがありますが、年令別に見るといくつか特徴があります。また、乳幼児の脳症のように、過剰な免疫反応が原因と考えられる合併症も見られています。
学童期や青壮年層では、悪寒、筋肉痛、関節痛などが見られ、気管支炎、肺炎のような呼吸器感染症の合併が目立ちます。
乳幼児(0~5才)で、問題になっているのは脳炎・脳症です。流行の規模によって発生数は異なりますが、幼児を中心として毎年100~200人が発症し、約10~30%が死亡し、ほぼ同数の後遺症患者が出ていると推測されています。
脳症は、1~5才に多く見られます。なぜこの年令層に多いのかよくわかっていませんが、インフルエンザウイルスに対する過剰な免疫反応が原因と考えられています。(詳しくは脳炎・脳症を参照)
ただ、脳症は、1才以下では少ないです。1才以下を【6ヶ月未満乳児】と【6ヶ月~1才乳児】とに分けてみると、
・【6ヶ月未満乳児】では、インフルエンザ自体軽症のことが多いです。親からの免疫があるからとも言われていますが、これだけでは根拠に乏しく、おそらくあまり免疫力が強くないため、免疫が過剰に反応することもなく、脳症のような重症な合併症も見られないのではないかと考えられています。
・【6ヶ月~1才乳児】になりますと、インフルエンザ自体の症状は【6ヶ月未満乳児】より強く見られますし、大体1才以上の子と同じような症状に見えます。ただ、脳症はあまり見られず、やはり、免疫応答力が弱いのが、かえって幸いしているのかもしれません。
高令者では、インフルエンザにかかる比率は少ないのですが、いったん罹ると免疫力が低下しているため、重症な気管支炎、肺炎が多く見られています。インフルエンザによる肺炎の他、二次感染による細菌性肺炎も多く、最も死亡率の高い年齢です。
現在、流行しているインフルエンザウイルスでは、乳幼児の脳症以外では、免疫が過剰に反応するような異常は見られていないようですが、スペインインフルエンザでは青壮年の多くが、重症な呼吸障害(急性呼吸不全:ARDS)で犠牲になりました。これは脳症のような免疫異常が呼吸器で起きたためと考えられていますので、もし新型が流行った時は、この年令層が一番重症な合併症を持つことになるかもしれません。
Q3.インフルエンザにかかると、すぐ、発熱が見られるのでしょうか?
インフルエンザにかかってから、くしゃみや咳、悪寒、発熱、倦怠感などの症状が出るまでの期間を「潜伏期」といって、1日~3日(平均2日間)です。この間は、何も症状がないのでかかっているかどうかわかりません。
言い換えますと、インフルエンザにかかった人に接触して2日くらいして、上記の症状がみられればインフルエンザが疑わしいということになります。
あります。くしゃみや咳、悪寒、発熱、倦怠感などの症状がでる1日くらい前から少しずつウイルスは排出されています。
Q5.インフルエンザにかかったら、すぐ検査でわかるのでしょうか?
現在の検査キットでは、ある程度ウイルスが増えてこないと陽性になりません。発熱と同時に陽性となる人もいますが、ウイルスの増え方には個人差もありますので、大体「発熱したばかりでは陽性率が低く、発熱後12時間以内ではばらつきが多く、発熱後12~24時間経過すると陽性率が高まる。」と考えるのが一般的です。
インフルエンザは、くしゃみや咳に含まれるウイルスが、そのまま、 あるいは空気中に浮遊しているうちに他の人の呼吸器に吸い込まれて感染します。
この様に患者のくしゃみや咳、痰などで吐き出される微粒子(飛沫核) が直接感染することを「飛沫感染」といいます。また、空中を漂うウイルスを含んだ飛沫核を吸い込んで感染することを「飛沫核感染(空気感染)」と言います。
ですから、インフルエンザにかかったら、マスクをしたり、咳をする時は口に手を当てたりして他の人に移さないようにすることが大事(エチケット)です。
Q7.一シーズン中に同じタイプのインフルエンザに、2回罹ることはありますか?
あります。A型の場合、A香港型とA(H1N1)2009がありますので、それぞれに罹る可能性はあります。また、どちらかに1回罹っても十分に免疫ができなければ、もう1度罹ります。B型も同様で、例えば、ビクトリア系と山形系の2種類のB型に同一シーズンにかかることはありますが、A型に比べるとB型の場合は少ないです。
Q8.A型とB型のインフルエンザに、同時にかかることはありますか?
あります。現在はキットで検査できますが、ときどき見られます。キットのできる前から、A型とB型が同時に検出されたことはありますので、両者に同時感染することはあると思います。罹った人を見るとかなり重症でした。
Q9.インフルエンザにかかりましたが、いつから学校に行っても良いでしょうか?
従来、「解熱後2日間」経てば登校できるという事になっていましたが、インフルエンザに罹ると大体1週間くらいは体内にインフルエンザウイルスが存在しています。つまり、「発症後1週間は、まだ他人に移す可能性を持っている」ということです。
そもそも、解熱後2日間で登校という基準は、タミフルやリレンザのようにインフルエンザに効く薬のない時代の基準です。当時はインフルエンザに罹ると、効く薬は何もありませんので、発熱にジッと耐えて、免疫が上がるのを待つだけでした。
タミフルやリレンザを使わなければ、大体4~5日間くらいは発熱が続きます。そこでやっと熱が下がって2日くらいすれば、発症から大体1週間、解熱後から2日間、その頃には体内からウイルスが無くなっているので登校可能と言うことでした。
ところが、今は、タミフルやリレンザを使えば1~2日間で熱が下がります。それから解熱後2日間でも、発症から1週間経っていないので、まだ体内にインフルエンザウイルスが存在しています。ここで登校すると他人に移してしまうことになります。
タミフルやリレンザが使われるようになってからも、昔の基準で登校時期が決められていましたが、2009年の新型インフルエンザ(現在のA(H1N1)2009)流行を機に見直しが行われるようになりました。
新型インフルエンザ流行時は発症後1週間休みました。それは、新型がウ~んと重症かもしれないと心配されたからです。
「発症後1週間休校(園)」というのは、確かに感染拡大を防いで、社会全体を守る効果が期待できます。しかし、学校や生徒側の立場から考えてみると、授業は遅れるし、家でブラブラして体をもてあます児童も増えそうです。園児(幼稚園・保育園)の場合は、働くお母さんにも負担がかかります。
休校(園)期間はインフルエンザウイルスの強さにより、【感染拡大予防】と【社会生活】のバランスを考えて決められるべきです。
以上より、平成24年4月1日からは、次のような基準が設けられました。
1.児童・生徒(小学生以上)では、「発症後5日を経過して、かつ、解熱後2日間経過」したら、登校。
2.乳幼児(保育園・幼稚園)では、「発症後5日を経過して、かつ、解熱後3日間経過」したら、登園。
※ 発熱初日は発症0日とし、発熱翌日が発症後1日目です。
決まりというものは、その時々の実情によって見直されていくものです。今後また、変更があるかもしれません。
Q10.インフルエンザにかかった人の部屋や衣類はどのようにしたらよいでしょうか?
手や指先から感染することもありますので、手洗いは重要です。また、狭くて換気の悪い部屋では、長くウイルスが浮遊していることもありますので(飛沫核感染)、空気の入れ換えをすることや、部屋の湿度を適度(50~60%)に保つことなどが大切です。
インフルエンザウイルスはほとんどの消毒薬に弱いので、目に見えるような痰(たん)やつば、くしゃみで飛んだ分泌物などによる汚れがある場合には、一般的な消毒薬により消毒しておくほうがよいです。部屋は通常の掃除だけで十分だと思われます。
インフルエンザでも普通のカゼでも治療の原則は、“1に安静、2に栄養”です。インフルエンザのシーズン中は、十分な睡眠と休養をとるようしましょう。
①.帰宅したら、必ず、うがい、手を洗う(ツメ、指間、親指)、顔を洗う
上手なうがいのしかた:先ずはじめに、ブクブクうがいをして、口中の雑菌や、食べかすを除去します。こうしないと喉までうがい薬が入った時、雑菌や、食べかすも一緒に喉に入ってしまいます。
ガラガラうがいは、上を見ながら一気に10~15秒間「ガラガラガラガラガラ」します。これを2~3回繰り返します。よくいわれるのは、 15秒間を2回ですが15秒間は少しきついですので、10秒間3回でもよいです。
②.マスクをしましょう。インフルエンザは飛沫感染です。咳や、くしゃみをした時に周囲への感染拡大を防ぐことができます。(マスクはエチケットです。)
また、冬の冷たく乾燥した空気が、直接、喉~気管支に入らないようにガードしてくれます。
③.インフルエンザは空気が乾燥すると感染力が増しますので、室内の湿度をやや高めに設定しましょう。加湿器を使用する場合、室内の湿度は50~60%くらいが適度です。
④.人が大勢集まるようなところにはあまり行かないようにしましょう。
⑤.インフルエンザの最も確実な予防法は流行前にワクチンを接種することです。
抵抗力の弱い小児や高令者、気管支喘息、糖尿病、高血圧などの慢性の病気を持っている方などは、インフルエンザにかかると重症化することがありますので、積極的に接種しましょう。といわれていますが、たとえ健康であっても、インフルエンザで苦しみたくないわけですから、誰でも接種した方がよいです。
生後6ヶ月から接種できます。
現在は、インフルエンザの診断が容易になり、インフルエンザにかかる乳幼児が実に多くいることが明らかになってきました。乳幼児期は免疫力も弱く、インフルエンザに対して一番無防備な状態といえます。このような背景から、乳幼児期からの接種も勧められています。
インフルエンザワクチンは一般に生後6ヶ月から行うことができます。しかし、1才未満乳児(以下、乳児)では抗体の上昇が低く、十分な効果が見られていません。その理由として、「免疫応答が不十分」、「接種抗原量の不足」が指摘されていました。免疫応答が不十分なのはやむを得ませんが、接種抗原量については、乳児に限らず小児一般でも少なく、1回接種量を増量する必要がありました。そのため、厚労省は平成23年8月1日、小児のインフルエンザワクチン接種量を下表のように改正しました。今後、効果が増すことが期待されています。
従来の接種量 | 平成23年秋からの接種量 | ||||||||||||||
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ワクチンによってできる免疫は、接種を繰り返すうちにできやすくなってきます。例えば、四種混合ワクチンは初年度3回接種した後、1年~1年半後に追加接種して、免疫を高めます。この様に追加することによって免疫が高まることをブースター(増幅)効果といいます。厳密に確認されてはいませんが、インフルエンザワクチンについてもこの様な効果が期待されています。
乳児の場合、初年度は効果が不十分であっても、毎年接種していけば、1~5才頃には少しずつ免疫が高まっていくことが期待できます。
乳幼児にとって、脅威となるのは1~5才頃によく見られる脳炎・脳症です(乳児では、脳炎・脳症はあまり見られません。)。
以前は、ワクチンで脳炎・脳症の予防ができると言われていましたが、最近はワクチンを接種しても脳症を発症したお子さんもおります。ただ、抗体の上昇が低い年令層ですので、十分免疫ができていなかったかもしれません。毎年接種していけば抗体が十分上昇して防ぐことができると思いますが、今のところ結論は出ていません。
インフルエンザ脳炎・脳症は、なぜか、日本を中心とした東南アジアに多くみられています。こうした事情から、本邦では、重症化を防ぐという観点で、乳児からワクチン接種が勧められています。
保育園などで集団生活をしている乳児は、接種した方がよいと思います。保育園の保母さんたちも接種すべきでしょう。もし、家庭内にいるなら、一番身近にいるお父さん、お母さんはワクチンを接種して下さい。お家での感染は殆どご両親からです。
以上より、1才未満乳児のワクチン接種については
①.免疫のでき方が十分とは言えず、初年度はあまり効果が期待できないかもしれません。
②.しかし、毎年接種を続けていけば、次第に免疫はできやすくなると考えられ、1~5才頃になってから初めてワクチン接種するよりも、その年令での効果が期待できると思われます。(積立貯金のように考えればよいと思います。)
③.保育園などで集団生活をしている乳児は、一番感染の機会が多いので、接種した方がよいです。
④.乳児の周囲の人達(保育園の保母さん)や、同居する家族(お父さん、お母さん)が、接種することにより乳児への感染は、かなり防ぐことができると思います。
というわけで、6ヶ月以上からの接種は増えてきています。
予防接種をしないで、冬を迎えることは、丸腰でインフルエンザと闘うことになります。ワクチンは重症化を防いでくれます。積極的にワクチンを接種しましょう。
※ 欧米では、6ヵ月から24ヵ月未満の乳幼児はインフルエンザにかかると重症化するため、米国ではこの月令の乳幼児にもワクチン接種を積極的に勧めています
※ 生後6ヶ月未満乳児の場合は、ふつう接種しません。ワクチンの効果や副反応がはっきりしていないことや、母親からの免疫が期待できると考えられるからです。
ワクチン接種後、約2週間でインフルエンザに対する免疫ができます。この免疫は5ヶ月間持続します。また、2回接種の場合、1回目と2回目の間隔は、2~4週間がもっとも効果的です。
年々インフルエンザの流行時期は早まってきているように感じます。以前は、だいたい1月中旬~3月上旬に流行がみられることが多かったのですが、最近は10~11月に既に流行が始まることも珍しくなくなりました。
最近のインフルエンザは、短期間に大流行することは殆どなくなりました。しかし、長期間にわたり小流行がダラダラと続く傾向があります。これは、インフルエンザの診断が容易になり、また、治療薬があるため、「発熱(症状発現)~診断~治療~治癒」という課程が数日間で完了する事。また、学級(学校)閉鎖もかなり早い段階で行われるため、一度に大勢の学童がインフルエンザに罹らなくなった事。などによると思います。
大流行がなくなった反面、小流行が長期間続きますので、いつ、インフルエンザワクチンを接種したらよいか、迷われる方も多いと思います。流行が長引く時は5月の連休くらいまでインフルエンザの患者さんを診ることもありますが、4~5月はかなり患者数は少なくなり、殆ど軽症です。
インフルエンザワクチンを接種しても効果が現れるまで、2週間はかかります。2回接種となると、さらに2週間後、つまり、今日ワクチンを接種してもワクチンの効果が見られるのは、4週間先という事になります。11月中にもインフルエンザの流行が始まる年もありますし、受験生にとっては、3月の受験シーズンまでは油断できません。
以上より、ワクチン接種後4週間(2回接種の場合)で効果が現れる事。流行のピークは年明けが多い事。年内に流行が始まると流行期間が長引く事。免疫は5ヶ月間持続する事。4~5月のインフルエンザは少ない事。などを考えると、10月から接種開始し、年内に終了するようにした方が良いです。
従来、2回接種しないと効果がないように考えられていましたが、欧米では、小児は2回、成人は1回が普通です。1回接種で十分とするのは、成人ともなれば、今までに、何度かインフルエンザに罹患しているので、ワクチン株ウイルスと実際に流行してきたウイルスとが、よほど大きく違わなければ、共通部分の抗体が、かなりカバーしてくれると考えられるからです。健康成人の場合は1回でも十分かもしれません。
しかし、ワクチンの効果は、ワクチンを受ける人のこれまでの免疫の記憶と免疫応答力、そして、流行するウイルスの変異の程度で決まってきます。つまり、個人差が大きいのです。何回かかっても抗体価の上昇の少ない人もいれば、少しかかってもすぐに抗体価が上昇して免疫のできる人もいます。このように個人差が大きいので、成人でも一律に1回でよいともいいがたいところがあります。
簡単にいうと、免疫力の弱い人は2回接種、ある程度免疫のある人は1回接種で十分ということになりますが、この区別が難しく、ケース・バイ・ケースと言わざるをえません。一応下記のような試案がありますが、参考程度と思って下さい。
(1).1回接種でもよい(と考えられている)場合
①.中学生以上の(健康な)方
(2).2回接種が望ましい場合。
①.小学生以下のお子さん。
②.今までに1回も接種を受けたことのない方。
③.一昨年、または、昨年インフルエンザにかからなかった方。
④.慢性の病気を持っている方(気管支喘息、糖尿病、高血圧など)。
⑤.集団生活をしている方(寮、学校、保育園など)。
⑥.不特定多数の方と接触のある職業の方、比較的密室での作業の多い方(タクシー、医療関係者など)
★.普段からカゼをひきやすく治りにくいような方は、2回接種が望ましいと思います。
★.昨年ワクチンを2回接種した方や、インフルエンザにかかった方は、1回でもよいという考え方もありますが、免疫のでき方には個人差が大きく、また、今シーズンもワクチン株が変更しますので、原則的には2回接種が望ましいと思います。
Q15.卵アレルギーがありますが、ワクチンは接種できますか?
インフルエンザワクチンにはごく微量の卵白成分が残存していますので、強い卵白アレルギーがあると、アナフィラキシーショック(接種後15~30分で、血圧低下、喘鳴、浮腫など)を、おこすことが稀にあります。しかし、卵白成分は極めて微量ですので、卵白アレルギーがあっても、殆どの人は安全に接種できます。
※.当院で、実際にアナフィラキシーが起きたことは今までのところ1度もありません。
授乳期間中にインフルエンザワクチンを接種しても問題ありません。大丈夫です。
インフルエンザワクチンは不活化ワクチン(注1)ですので、ウイルスの病原性がなく、体内でウイルスが増えることもないため、母乳を通して赤ちゃんに影響を与えることはありません。
(注1):不活化ワクチン:細菌やウイルスを死滅させ、免疫を作るのに必要な成分を取り出し、毒性をなくしたワクチン。
妊婦への接種については、本邦のインフルエンザワクチンの添付文書に、「妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。」と記載されています。
確かに妊娠中のワクチン接種には、胎児に対する催奇形性の問題が理論上は存在しますが、現行のインフルエンザワクチンは不活化ワクチン (注1)であり、ウイルスの病原性がなく、体内でウイルスが増えることもないため、そのような危険性はほとんどないと考えられてます。また、実際に胎児に悪影響を及ぼしたという報告もありません。
妊娠14週以降の妊婦はインフルエンザの合併症を来しやすく、入院するリスクが高いとの報告があります。このため米国疾病管理予防センター(CDC)は妊娠中にインフルエンザシーズンを迎える妊婦にはインフルエンザワクチンの接種を勧めています。
接種時期は妊娠の全期間において可能とされています。ただし、妊娠初期は自然流産の起こりやすい時期でもあることから避けたほうが良いとする意見もありますので、最終的には現在診ていただいている産婦人科の先生とご相談されるのが良いでしょう。
Q18.インフルエンザの治療法には、どのような治療法がありますか?
インフルエンザの治療は、ワクチンによる予防治療と、抗インフルエンザ薬(インフルエンザに効く薬)を用いる治療があります。
抗インフルエンザ薬(インフルエンザに効く薬)として、シンメトレル、タミフル、リレンザ、ラピアクタ、イナビルの5種類があります。
※ ラピアクタ、イナビルは、平成22年~23年から、使用されています。
シンメトレルはもともとパーキンソン病に処方されていた薬ですが、A型インフルエンザに効果があるため使用されました。しかし、けいれんや、意識障害などの神経系の副作用が多く見られ、また、効果の点でも劣るため、現在は殆ど使われていません。
タミフルは内服薬、リレンザ、イナビルは吸入薬、ラビアクタは注射薬です。抗インフルエンザ薬は、素晴らしい薬で、タミフル、リレンザが発売された時、“人類が初めてインフルエンザより優位な立場に立つことができた”と、いわれたほどです。
タミフル、リレンザが発売されてから、10年以上経過し、さらに新しい薬が発売されています。治療に関して、多くの選択肢を持つことは大変心強い事ではありますが、半面、どの様な使い分けをしたらいいのか、チョット、とまどいもあります。
ラピアクタは点滴静注です。適応年令は成人となっていますが、薬の量を調整して小児でも使用できます。しかし、点滴しなければなりませんので痛みを伴います。小さいお子さんには不向きかと思います。薬が飲めない場合とか、点滴ですから速効性ですので、とにかく早く治したいという場合には適しています。
リレンザ、イナビルは吸入薬です。リレンザは1日2回吸入x5日間ですが、イナビルは1回吸入で済みますので、リレンザよりも楽です。しかし、1回吸入ですので、うまく吸入できないと不安が残ります。その点では、複数回吸入のリレンザの方が安心できるかもしれません。
リレンザは小児も成人も吸入回数は同じですが、イナビルは小児では吸入量を調整しています。上手く吸入できれば、幼児でも使用可能と言うことです。とは言え、乳幼児が上手く吸入できるとは思えませんので、やはり、リレンザ同様5才以上くらいからが適応のように思われます。
以上より、どれを選択するか、迷いますが、年令だけで考えれば、下表のようです。小児ではやはり、飲みやすいタミフルが主流でしょう。どうしても飲めない場合とか、とにかく早く治したいという場合は点滴のラピアクタでしょうか。
タミフル | リレンザ | ラピアクタ | イナビル | |
---|---|---|---|---|
0才~1才未満 | △ | △ | △ | △ |
1才~5才未満 | ◎ | △ | △ | △ |
5才~10才未満 | ○ | ○ | △ | ○ |
10才~15才未満 | △ | ○ | ○ | ○ |
15才~20才未満 | △ | ○ | ○ | ○ |
20才以上 | ○ | ○ | ○ | ○ |
○は、お勧め。 ◎は、特にお勧め。 △は、ケース・バイ・ケース。
インフルエンザは人の細胞内で増殖しますが、多くのウイルスが鎖でつながって増殖します。ちょうど納豆のようになっていると思えばよいです。このままでは細胞外にでることができないため、つながっている鎖を切って、細胞外に出て行きます。この鎖を切るハサミの働きをする物質がノイラミニダーゼ(NA)という酵素です。
ウイルスが細胞外にでるのを防ぐには、この鎖が切れないように、つまり、ノイラミニダーゼ(ハサミ)を働かさせなければよいのです。
タミフル、リレンザ、ラピアクタ、イナビルは、このノイラミニダーゼの働きを阻害する事によって、ウイルスが細胞外に出ることを防ぎます(ノイラミニダーゼ阻害薬といいます)。しかし時間とともにウイルスは増殖しますので、ウイルスがあまり増殖しないうちに使用するのが効果的です。
インフルエンザウイルスは、症状が出てから、48~72時間で最も数が多くなります。ですから、ウイルスが最大量に達する前に、つまり、症状が出てから48時間以内に使用して増殖を抑えれば、症状も軽くなり、短期間で治癒することができます。
タミフル、リレンザで治療された患者さんでは、
①.4人に1人(25%)が12時間以内に症状が軽くなったと話しています。
②.また、60%の人が、24時間以内に解熱しており、
③.70%以上の人が3日以内に通常の仕事に復帰しております。
早めの治療ほど効果的です。急に高熱がでて、う~んと調子が悪いときは、長々と様子を見ることなく早めに受診しましょう。
Q19.症状が出て48時間以内に受診した方がいいのは、なぜですか?
インフルエンザウイルスは、症状が出てから、48~72時間で最も数が多くなります。ですから、ウイルスが最大量に達する前につまり、症状が出てから48時間以内に使用して増殖を抑えれば、症状も軽くなり、短期間で治癒することができます。
Q20.タミフル、リレンザを使わないでインフルエンザを治療したいのですが?
タミフルが発売された平成13年以前のインフルエンザ治療は、対症療法のみでした。
インフルエンザの高熱はウイルスが暴れている間、免疫ができるまで続きます。A型で平均4~5日、B型で平均4日くらいは高熱が続きますが、もっと続くこともあります。タミフル、リレンザを使用すれば、小児の場合、早ければ1~2日で解熱します。
自然経過で解熱した場合、しばらく体調が元に戻らないような倦怠感が長く続くことがありますが、タミフル、リレンザを使用した場合、解熱と同時に殆ど元通りの体調に戻ります。
ところで、対症療法とは直接の原因を治すのではなく(この場合は、フルウイルスの増殖を防ぐこと)、今みられる症状を和らげるために行う治療です。
つまり、熱があれば、使いすぎないようにといって解熱剤を処方し、元気がない、食欲がなければ、点滴を連日行い、熱が下がらず、日増しに悪くなる人は入院・・・。でも、入院しても治療は同じ、点滴して体力(免疫力)の回復を待つだけ・・・。
これがインフルエンザの対症療法です。抗生物質も、インフルエンザには全く効きません。二次感染を防ぐためとかいって処方することが多いですが、まず、気休めです。むしろ耐性菌を増やすこともあり、あまりよくないかもしれません。(細菌性肺炎など細菌による合併症があれば抗生剤は有効です。)
患者さんからは、「とにかく何でも効くことは全てやってくれ」といわれますが、何をやっても熱が下がるわけではなく、自身の体力(免疫力)次第です。
ずいぶん頼りない治療に思うかもしれませんが、インフルエンザに効く薬がなかった時代はこういう状況でした。病院はインフルエンザの患者さんであふれて入院する部屋がなくなることもしばしばでした。
私もインフルエンザの患者さんを何人も見てきましたけど、とにかく熱が下がりません。保護者からは、「昨日は解熱剤を5回使ったけど熱が下がらない。」、「ボーとして動けない。」、「点滴してもさっぱりよくならない。」と毎日不安を訴えられます。
そして最後は、決まって、「本当に大丈夫ですか。」と詰問されます。答えは、「今のところは大丈夫と思いますが・・・(絶対大丈夫という自信なんかありません)、でも、これ以上悪くなったら入院しましょう。」でした。タミフルなしで、また、あの時代に戻るのかと思うとゾッとします。
あまりお勧めしませんが、このような状況に耐えられると思えばタミフルを使わなくてもよいと思います。しかし、グッタリしながら毎日受診し、痛い痛いと泣きながら点滴をしてもすぐ熱が下がるわけではなく、時間を待たねばなりません。そのたびに他の患者さんにも移すことになります。
インフルエンザに限らず、発熱すると解熱剤がよく使われますが、解熱剤は一時しのぎの薬ですし、使いすぎると異常な低体温になったりしますので、注意して使用しなければなりません。
「熱さましを使用したのに熱が下がらない。」という事はよくあります。インフルエンザウイルスを排除するために、免疫活動が活発になった結果、発熱も見られるようになります。きちんとインフルエンザの薬を内服(吸入)していれば、次第に解熱します。それでも、なかなか熱が下がらないと、心配になる事もあると思います。その時は、様子を見てばかりいないで早めに受診するようにしましょう。(発熱と熱さまし)
日常よく使われている解熱剤(熱さましの薬)の中には、インフルエンザ脳炎・脳症を重症化させる場合があるということが、厚生省の研究班によって報告されています。
多くの解熱剤は、生体内でシクロオキシゲナーゼという物質の働きを抑えることによって熱を下げます。このシクロオキシゲナーゼという物質は発熱作用の他に、血管の修復作用も持っています。つまり、解熱剤を使用すると熱が下がるだけではなく、脳炎・脳症の時に見られる血管炎も治りにくくなるため脳炎・脳症を重症化させる可能性があるというものです。
1999年~2001年にかけて、多くの解熱剤の使用状況を調査した結果、ジクロフェナクナトリウム(製品名:ボルタレン、ブレシン等)と、メフェナム酸(製品名:ポンタール)が、このような作用の強い解熱剤としてあげられました。もともとボルタレンやブレシンは、乳幼児で使用されることは殆どなく、学童~成人向けの解熱剤ですが、インフルエンザ脳炎・脳症で入院した重症な患者さんたちでは、使用されることもあり、その結果から今回の結論がでました。
なお、脳炎・脳症をおこしていないインフルエンザでの使用については、禁止されたわけではありませんが、インフルエンザに罹患した場合、脳炎・脳症を合併することもあるわけですから、脳炎・脳症を起こしやすい幼児期では、これらの薬は使用しない方がよろしいです。
また、以前より脳炎・脳症を引き起こす可能性が指摘されている解熱剤として、アスピリンがあります(ライ症候群)。この薬は一般的なカゼ薬として良く使用されていますが、欧米ではインフルエンザには使用されていません。
アスピリン、及び、その類似薬として、PL顆粒、小児用PL顆粒、小児用バファリン等があります(医療用の小児用バファリンは、平成12年11月で製造中止になりました)。これらの薬もインフルエンザには使わない方が無難です。
比較的安全な解熱剤としてよく使われているものは、アセトアミノフェンです(製品名:アルピニー、アンヒバ、カロナール等)。安全性が高い反面、やや解熱効果は劣りますが、外来治療している患者さんなら、これで十分です。
なお、市販薬の“小児用バファリン”という名前のカゼ薬には、多くの種類がありますが、アセトアミノフェンを使用しているものが比較的安全性が高いと思われます。
脳炎と脳症との鑑別は厳密には難しいですが、一般的に、脳内に直接ウイルスが浸潤して、炎症を起こす場合を脳炎といい、脳内にウイルスが検出されず、過剰な免疫反応が見られる場合に脳症と診断されています。
発症は急激で、80%は発熱後、数時間から1日以内に神経症状がみられます。
よく見られる症状は、★けいれん、★意識障害、★異常行動などです。
★ けいれん:60~80%に見られ、全身がガタガタ震えるような硬直性が多く、持続時間は一定せず、短い場合は1分足らずです。短時間でおさまるような場合は、「熱性けいれん」の可能性が高いです。
けいれんが、「10~15分以上続く場合、時間は短くても何回も繰り返す場合、左右対称的でない場合、」このような場合は単純な熱性けいれんではありませんが、だからといって、脳症によるけいれんともすぐ判断はできません。まず、医療機関に連絡をして下さい。
★ 意識障害:起きているのか、寝ているのかわからないような状態です。「呼んでも返事をしない。少しくらいの痛みには反応しない」ような状態です。この場合は「寝ぼけ」と区別する必要があります。症状がどんどん進むようでしたら要注意です。そういう場合は、やはり、医療機関に連絡をして下さい。
★ 異常行動:「インフルエンザ脳症患者家族の会」が行ったアンケート調査から次のような事例が挙げられています。
インフルエンザ脳症における前駆症状(まえぶれ)としての異常行動・言動の例
・両親がわからない。いない人がいるという。(人を正しく認識できない)
・自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない
・アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見えるなど、幻視・幻覚的訴えをする
・意味不明な言葉を発する。ろれつがまわらない。
・おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
・急に怒り出す、泣き出す、大声で歌い出す
こういう症状は、持続時間が短ければ「熱性せんもう」と言えますが、脳症の場合は持続時間が長いです。どのくらいの時間を長いと言えばよいか基準はありません。この様な症状がみられたら、早めに医療機関に連絡して下さい。
脳症の症状は、Q23の★けいれん、★意識障害、★異常行動です。しかし、類似の症状は脳症でなくてもみられます。つまり、けいれんは「熱性けいれん」と、意識障害は「寝ぼけ」と、異常行動は「熱性せんもう」との鑑別(区別すること)が必要です。
脳症の場合は、全て進行性に悪化しますから、だんだんひどくなるようでしたら医療機関を受診すべきですが、現実にこの様な症状がみられれば、誰でも不安になり様子を見る余裕など無いと思います。
むしろ、大丈夫かなと思っても、Q23のような症状がみられたら、まず、医療機関へ連絡することです。そこで受診を勧められたら、様子など見ずに早急に受診して下さい。
ところで、【様子を見る】とよくいいますが、どういう意味かわかりますか。【今の症状はこうだ。これはこのためにこうなっている。今後こうなることが予想される。そうしたらこうすればよい。】というところまで考えて、見ていることを【様子を見る】と言います。そういうことは何一つわからず見ているのは【様子を見る】のではなく、【ほったらかしている】と同じです。くれぐれもそうならないように医師の指示をよく聞いて下さい。
日本でよく見られる幼児のインフルエンザ脳症はライ症候群と同じものではありません。
インフルエンザや水痘(水ぼうそう)などに罹った時、解熱剤(特にアスピリン)を服用している小児が、急性脳症や、肝臓の脂肪浸潤を引き起こして、命にかかわる重症な病気になる事があります。これをライ症候群といいます。
ライ症候群は、オーストラリアの病理学者ライによって最初に報告され、1980年代にアメリカでよくみられました。死亡率も高い病気です。
初めは、解熱剤のアスピリンを多量に内服することが原因と考えられました。その後、必ずしもアスピリンが原因というわけでもないと考えられるようになり、現在は原因不明の脳症となっています。
しかし、多量にアスピリンを内服してライ症候群を起こした例も多く、また、アスピリン以外の解熱剤でも同様の症状がみられることもあることから、インフルエンザでの解熱剤はなるべく使用しない方が望ましいです。
また、インフルエンザ脳症においても解熱剤は重症化させる場合があるため、やはり解熱剤はなるべく使用しない方がよろしいです。
インフルエンザに感染すると重症化したり合併症を引き起こす可能性の高い人(ハイリスク群)には、予防用にタミフルを使うことが承認されています。使用の対象となるのは、インフルエンザの患者と同居している人で、
①.高令者(65歳以上)、
②.慢性呼吸器疾患患者、又は、慢性心疾患患者、
③.代謝性疾患患者(糖尿病など)、
④.腎機能障害患者
ただし、予防のために薬を使う場合は、保険は適用されません。
Q27.日本のタミフル消費量は世界の70%以上を占めていると言いますが、使いすぎではないですか?
日本のタミフル使用量が、異常に多いように報道されますが、外国とは医療制度の違いもあります。タミフルは高価な薬ですので日本のように保険制度が充実(?)している国ではよく処方されています。しかし、海外では一部の富裕層しか服用できない国もたくさんあります。
ワクチンを積極的に行っている国ではあまりタミフルを使用しません。私の知り合いの先生が国際学会で某国へいった時、インフルエンザになったそうです。(検査キットを持参していきましたが、薬は忘れたそうです。)
某国の医師にインフルエンザだから、タミフルを処方してほしいといったところ、「ワクチンを接種したか」と聞かれ、「接種してきた」と答えたら、「それなら大丈夫」といってタミフルは処方されなかったそうです。
また、日本では、検査キットも世界で一番多く使われています。つまり、正確な診断の基に使われていますので決して使いすぎということはないと思っています。ただ、一部の心ない(無責任な)医師が、はっきりとインフルエンザと診断もせず、患者にせがまれるままにタミフル、リレンザを処方していることもあり、これについては大いに問題があると思っています。
Q28.タミフルは何日間飲む必要がありますか。 タミフルを飲みながら学校へ行ってもよいでしょうか?
Q9と同じ。
従来、「解熱後2日間」経てば登校できるという事になっていましたが、インフルエンザに罹ると大体1週間くらいは体内にインフルエンザウイルスが存在しています。つまり、「発症後1週間は、まだ他人に移す可能性を持っている」ということです。
そもそも、解熱後2日間で登校という基準は、タミフルやリレンザのようにインフルエンザに効く薬のない時代の基準です。当時はインフルエンザに罹ると、効く薬は何もありませんので、発熱にジッと耐えて、免疫が上がるのを待つだけでした。
タミフルやリレンザを使わなければ、大体4~5日間くらいは発熱が続きます。そこでやっと熱が下がって2日くらいすれば、発症から大体1週間、解熱後から2日間、その頃には体内からウイルスが無くなっているので登校可能と言うことでした。
ところが、今は、タミフルやリレンザを使えば1~2日間で熱が下がります。それから解熱後2日間でも、発症から1週間経っていないので、まだ体内にインフルエンザウイルスが存在しています。ここで登校すると他人に移してしまうことになります。
タミフルやリレンザが使われるようになってからも、昔の基準で登校時期が決められていましたが、2009年の新型インフルエンザ(現在のA(H1N1)2009)流行を機に見直しが行われるようになりました。
新型インフルエンザ流行時は発症後1週間休みました。それは、新型がウ~んと重症かもしれないと心配されたからです。
「発症後1週間休校(園)」というのは、確かに感染拡大を防いで、社会全体を守る効果が期待できます。しかし、学校や生徒側の立場から考えてみると、授業は遅れるし、家でブラブラして体をもてあます児童も増えそうです。園児(幼稚園・保育園)の場合は、働くお母さんにも負担がかかります。
休校(園)期間はインフルエンザウイルスの強さにより、【感染拡大予防】と【社会生活】のバランスを考えて決められるべきです。
以上より、平成24年4月1日からは、次のような基準が設けられました。
1.小中高校や大学では、「発症後5日を経過して、かつ、解熱後2日間経過」したら、登校。
2.幼稚園や保育園では、「発症後5日を経過して、かつ、解熱後3日間経過」したら、登園。
※ 発熱初日は発症0日とし、発熱翌日が発症後1日目です。
決まりというものは、その時々の実情によって見直されていくものです。今シーズンは上記の基準となりましたが、今後また、変更があるかもしれません。
インフルエンザ脳症がどのようにして、おこるのかまだ不明な点も多く、確実に予防できるかどうかはわかりません。タミフルは、インフルエンザウイルスの増殖を抑える薬です。したがって、早めの治療ほど、脳症になる確率は低くなるといわれています。
いったん体内に入ったインフルエンザウイルスは猛烈な勢いで増え続けて、症状が出てから2~3日後(48~72時間後)に最も数が多くなります。ウイルスの量が最大になる前、つまり症状が出てから48時間以内にタミフルを使って増殖を抑えれば、病気の期間を短くし、症状の悪化や脳症などの合併症を防ぐことができる可能性はあると思います。
しかし、脳症の進行はきわめて早いため、既に脳症になっていれば、つまり、けいれん、意識障害、異常行動などが見られるようになってからでは、効果が期待できないかもしれません。
乳児について、タミフルは、禁忌(使用してはいけないという意味)となっていませんが、薬の承認時に、乳児に関しては十分な使用経験がなかったため、添付文書には「乳児に対する安全性及び有効性は、確立していない」と記載されています。この記載は多くの薬品にみられる「決まり文句」のようなものです。
発売元であるロシュ社が行った動物実験で、生後7日目の幼若ラットに1.000mg/kg(体重1kgあたり1.000mg)のタミフルを投与したところ、重篤な副作用がみられました。この1.000mg/kgという投与量は、人の幼少児に対して通常使用する500倍の量です。どんな薬でも500倍も投与したら異常が見られると思いますので、この実験だけで乳児に対する危険性は判断できず、現時点では、「有益性と危険性を考慮しつつ慎重に投与すべき」とされています。
タミフルは、日本で発売された平成13年2月以来、平成23年3月まで約5200万人に処方されました。平成20年11月1日までに「転落・飛び降り」などの異常行動でなくなった方は、8人(12才~17才)です。(タミフル以外の薬も飲んでいる場合もあり、タミフルとの因果関係は不明。)
また、これ以後の詳細な調査結果は公表されておりません。
世界中で使われているタミフルですが、海外では若干異常行動は見られるものの例数は少なく、あまり問題視されていないようです。
仮にタミフルが異常行動の原因としても、なぜ、日本人だけに異常行動が多く見られるのかよくわかりません。薬の消費量が多いから、異常行動も多くなるのでしょうか?。脳炎・脳症は日本人に多いのですが、それと関連があるのでしょうか?。
タミフルは、中華料理の香辛料として使われるトウシキミという植物の実の八角(はっかく)から、シキミ酸という成分を取り出して複雑な化学反応を経て作られています。この成分や、途中の製法に問題があるのでしょうか?。
タミフルとは違いますが、抗ヒスタミン薬という薬があります。くしゃみ、鼻水、かゆみなどでよく使われます。昔からある薬ですが、この薬で、興奮したり、けいれんを起こしたり、うわごとをいったり、というような異常行動が見られることが稀にあります。これは、抗ヒスタミン薬が脳内移行しやすく、脳内のヒスタミンを抑制するからです。
以前から、「タミフルは、インフルエンザ感染時に血液脳関門(脳に有害な物質を通過させない「バリアー」のような組織)が障害を受け、脳組織内に高濃度に移行する。」という仮説がありました。この仮説に基づき、タミフルが脳内で悪さをしているとも考えられていました。
しかし、転落死したインフルエンザ患者(13才:男子)の脳組織でのタミフルの血中濃度を測定した結果によりますと、タミフルは、血液、肺、肝臓では検出されましたが、脳からは殆ど検出されず、タミフルが脳内移行するという仮説は否定的に考えられるようになりました。現時点では、通常の治療量では脳に対する影響はないものと考えられています。
とはいえ、インフルエンザ自体により、「転落・飛び降り」という報告は、今まで国内でも海外でもなく、「転落・飛び降り」に関しては、やはり、タミフルの関与があるのかもしれません。
「転落・飛び降り」のような異常行動はタミフル内服後24時間以内、つまり、1回か2回のタミフル内服後に見られています。タミフル内服後の転落事故(10~74才:平均年令18才、中央値13才)は、平成20年11月まで、27例あります(以後、転落事故は報告されていません)が、そのうち15例(56%)が、1回しか内服していません。1回か2回のタミフル内服後に異常行動が見られるなら、インフルエンザに感染した時、特別タミフルに反応しやすい(?)体質の人に異常行動が見られるのかもしれません。
また、タミフルを内服していないインフルエンザ患者にも「転落・飛び降り」のような異常行動が見られており、必ずしもタミフルだけが原因とも言えない状況です。
現在、タミフルと異常行動の関連は不明のままで、今後の調査、研究を待たねば結論は出ないようです。
平成21年夏、A型(H1N1)2009の研究会では、「タミフルと異常行動」について、以下のような内容が討論されました。
①.インフルエンザに罹って、走り回ったり、変なことを話す子は昔もいた。おそらく、異常行動の大半は、熱性せんもうで一部が脳症だろう。
②.「転落・飛び降り」は、その殆どが、マンションのような高層建築であり、昔はそのような高層建築がなかったため、「転落・飛び降り」もなかったのではないか。つまり、昔は見られなかった「転落・飛び降り」は、高いところ、危険なところで、熱性せんもうや、脳症を起こす事が原因ではないか?
③.発熱中(特に高熱が続く最初の1~2日)に、高いところ、危険なところに行かなければ、「転落・飛び降り」は、防ぐことが出来るのではないか?
果たして、この通りかどうかわかりませんが、昔は殆ど高層建築がなく、まして、そういうところに人が住むようなこともなかったわけですから、案外この仮説(?)は正しいかもしれません。まだ、結論が出たわけではありません。
最近、異常行動についてはあまり注目されなくなってきましたが、注意しなければならないことです。
リレンザは、吸入薬で、平成18年~19年のシーズンから、5才以上から使用できるようになりましたが、それまでは15才以上からの使用でした。吸入手技の不便さ、年令制限などから、タミフルと比べると殆ど使用されていませんでした。
脳内移行が少ないため、タミフルに比べて、異常行動も見られないように思われていますが、タミフルの異常行動が注目された平成18~19年頃は、あまり使われていませんでしたので、本当に異常行動が見られないのかどうかよくわかりませんでした。
現在は、リレンザもタミフル同様よく処方されています。日本国内では、やはり異常行動が報告されていますが、「うなされる。うわごとを言う。」というような「熱性せんもう」と思われる例が多いです。また、「転落・飛び降り」のような異常行動も、数例見られているようですが、タミフル同様因果関係は証明されていません。
海外の報告も同様で、重篤な副作用報告は見られません。ただ、もともとの成分はタミフルと同じですので、タミフル同様、注意は必要と思います。
リレンザのA型に対する効果はタミフルと同等です。B型に対してはタミフルの無効例にも効果が見られる場合もあります。
Q33.人インフルエンザと鳥インフルエンザとの違いは何ですか?
インフルエンザには、A型、B型、C型、の3種類があります。A型、B型インフルエンザウイルスの表面には、2種類の突起があり、それぞれ、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれています。HAは宿主に感染する時に働き、NAはウイルスが増殖する時に働きます。A型では、HAは17種類、NAは10種類あり、HAとNAの組み合わせから理論上17x10=170種類のA型が存在する可能性があります。B型は、HA、NAとも1種類です。
A型には人に感染する【人型】と、鳥に感染する【鳥型(いわゆる鳥インフルエンザ)】があります。
人間社会で、毎年流行する人型インフルエンザのA型は、A香港H3N2、(H1N1)2009です。A香港(H3N2)は1968年に、(H1N1)2009は2009年に、新型ウイルスとして登場し、毎年少しずつ変異しながら流行を続けています。
ところで、カモやアヒルなどの水鳥(水禽)は、多くのA型インフルエンザウイルスを持っています。つまり、地球上に存在するインフルエンザの大半が、鳥インフルエンザなのです。
カモやアヒルなどの水鳥(水禽)では、通常インフルエンザウイルスは腸管内にとどまっており、病原性を示すことはほとんどありません。ただし、ニワトリやウズラ、七面鳥などの(家禽)に感染したとき、病原性を示す場合があります。
ただし、病原性を発揮したとしても、大部分は低病原性で家禽を死に至らしめることはありませんが、もともと強毒株であったか、あるいは感染を繰り返す間に遺伝子が変異して、強毒株となったものが“高病原性 鳥インフルエンザウイルス”といわれます。
本来、「高病原性」という表現は鳥に対して高病原性であり、人に対する高病原性ではありません。しかし、現在流行が懸念されているH5N1型のインフルエンザウイルスは、鳥だけでなく人にも高病原性を発揮します。
Q34.新型インフルエンザとはどのようなものですか?また、どのようにして発生するのですか?
新型インフルエンザが発生するには、次の2つのしくみがあります。
①.一つは、A型には、人に感染する【人型】と、鳥に感染する【鳥型(いわゆる鳥インフルエンザ)】があるわけですが、豚は人型、鳥型の両方に感染します。そこで、豚の体内で人型と鳥型が混ざり合って新型ができる場合です。
②.もう一つは、鳥型が、人や鳥類の体内で変異し新型となる場合です。
今、日本で流行が懸念されているタイプは、H5N1で、1997年に香港で発生して以来、アジア各地で発生が認められています。はじめは、鳥→鳥の感染でしたが、次第に鳥→人の感染もみられるようになったため、これまでに1億匹を超える家禽類が淘汰されましたが、残念ながら撲滅することができず、定着した感があります。また、最近では、人→人の感染を疑わせる症例も確認されてます。本格的に人→人の感染をするようになると、鳥インフルエンザは、新型インフルエンザという名前になります。
平成22年秋以来、島根、宮崎、鹿児島、愛知など各地で高病原性鳥インフルエンザが発生して深刻な社会問題になっていますが、周辺の野鳥等又は家きんへの感染拡大はありません。また、一連の発生を通じて鳥インフルエンザによる人への健康被害は確認されませんでした。
日本では、H5N1が一番心配されていますが、世界的規模で見ると、他にもいくつか新型の候補があり、どのようなタイプが出現するか予測は困難です。
Q35.新型インフルエンザにかかると、人にはどんな症状がでるのですか?
なぜ、新型インフルエンザが怖いかというと、今まで人類が一度も感染した事がないため、全く免疫がなく、重症化し、大流行する可能性があるからです。また、普通のインフルエンザは、人では主に呼吸器で増殖するのに対して、新型インフルエンザは、呼吸器だけでなく、消化器や、他の臓器でも増殖する可能性が高く、下痢、嘔吐、腹痛、胸痛、鼻出血、歯肉出血など多彩な症状がみられ、より重症となることが予測されるからです。
現在、最も新型として発生しそうなH5N1では、肺炎のような呼吸器症状が強く見られ、重症な呼吸障害(急性呼吸不全:ARDS)による死亡が目立ちます。スペインインフルエンザでも重症な肺炎で丈夫と思われていた青年層が大勢亡くなりました。その原因は現在の脳症のような過剰な免疫反応(高サイトカイン血症)によるものではないかと考えられています。H5N1も呼吸器症状が強く、もしかしたら、とんでもない免疫異常(高サイトカイン血症)を起こすのかもしれません。
Q36.新型インフルエンザにかかった場合、現在使用されている検査キットでわかりますか?
新型の検査も現在のキットでわかりますが、通常のインフルエンザか新型かの区別はつきません。また、通常のインフルエンザと比べると、H5N1の陽性率はあまり高くないと言われています。
最初に新型に感染した人を診る医師は「いくらインフルエンザでもずいぶん重症だな・・・」と思うくらいでしょう。ウイルス分離や、PCRという詳しい検査で新型かどうかわかりますが、少し時間がかかります。
ただ、H5N1は、重症な呼吸器症状がみられる場合が多く、原因不明の重症肺炎が見られれば新型(H5N1)を疑う根拠になります。また、呼吸器症状以外にも下痢、嘔吐、腹痛、胸痛、鼻出血、歯肉出血など多彩な症状が見られれば疑いは強くなります。
おそらく、新型の流行し始めは診断が難しく、その間にどんどん流行が広がるおそれがあります。
Q37.新型インフルエンザにかかった場合、タミフルやリレンザは効きますか?
鳥インフルエンザには今のところ効きます。ただ新型に対しては「多分効くだろう。」です。新型は鳥インフルエンザがそのまま新型になるわけではなく、変異を起こして新型になります。新型といえどノイラミニダーゼによって増殖するわけですから、それを阻害するタミフルは効くはずです。しかし、とんでもない変異を起こせば・・・、その時は全くわかりません。
日本国内でもH5N1インフルエンザワクチンの製造が承認されています。ただ、このワクチンは人ー人感染する新型に対するワクチン(まだ流行していないので作れない)ではなく、鳥インフルエンザH5N1ワクチンです。したがって、人ー人感染する新型が流行した時、どのくらい効果があるかはわかりません。
また、毎年流行するA香港(H3N2)が少しずつ変化するように、H5N1にも、亜型(同じようなタイプだけど微妙に違う)が何種類かあります。それに応じて、異なるH5N1に対するワクチンが毎年生産されています。
この新型を予測して作られたワクチンをプレパンデミックワクチンと呼んでいます。新型が出現してから作られるワクチンがパンデミックワクチンです。
前述したように、プレパンデミックワクチンは、鳥→鳥感染している鳥インフルエンザに対するワクチンです。インフルエンザウイルスは感染する時にヘマグルチニン(HA)が働きますが、鳥インフルエンザのヘマグルチニン(HA)は、鳥には感染しやすくても、人には感染しにくいため、プレパンデミックワクチンの人→人感染での効果は不明です。もしかしたら、プレパンデミックワクチンは、人→人感染では効果が期待できないかもしれません。
とは言え、他に変わる手段もないため、プレパンデミックワクチンは、第4段階(人→人感染が見られた段階)で、本格的に接種開始される予定です。パンデミックワクチンは、パンデミックが発生してからでないと製造できませんし、その製造には、ウイルスが発見されてから少なくとも6ヶ月くらいかかるといわれています。しかし、最近ウイルス同定から6~8週間で製造できるDNAワクチンが開発され始めました。アメリカで研究が進んでいますが、日本の企業も開発に参加しており期待がもてます。
パンデミックとなれば多くの人が感染し、私たちの日常生活に欠かせない電気や水道などのライフラインに支障が見られることが予測されます。
そこで、「新型インフルエンザワクチン接種に関するガイドライン(案)」では、特にウイルスに暴露される機会が多く、市民の日常生活の維持に不可欠な仕事をしている人たち、具体的には、社会的機能維持者(消防、警察、自衛隊、電気、ガス、水道、食料供給、通信、交通など)や医療従事者に本人の同意を得て、プレパンデミックワクチンを接種し、個人防衛と拡散防止をはかるとしています。
新型に対するパンデミックワクチンは、最初のパンデミック第1波には間に合いません。したがって、いかに感染の規模を小さくとどめる事ができるかということが大切になってきます。
新型は、スペインインフルエンザのように何回も流行を繰り返すかもしれませんから、パンデミックワクチンができたら、早めに接種すれば第2波の流行には間に合うかもしれません。
ところで、人→人感染防御効果は期待できなくとも、鳥→鳥感染防御効果があるなら、全国の鳥(鶏)にプレパンデミックワクチンを接種すればよいように思いますが、現状は接種されていません。
プレパンデミックワクチンは、毎年私達が接種しているインフルエンザワクチンと同様の不活化ワクチンです。したがって、重症化を防ぐ効果は期待できますが、直接の感染を防ぐことはできません。もし、多くの鳥(鶏)にプレパンデミックワクチンを接種した場合、感染しても重症化しない鳥(鶏)を見逃してしまうおそれがあります。そうしますと、鳥インフルエンザH5N1ウイルスは常在化し、その結果、ウイルス変異を招き、人→人感染を起こしやすくなるという心配があります。そのため、現在日本国内では鳥(鶏)に対するプレパンデミックワクチンの接種は禁止されています。
新型インフルエンザが、大流行することを、“パンデミック”といいます。過去のパンデミックで有名なものには、①.スペインインフルエンザ(1918年)、②.アジアインフルエンザ(1957年)、③.香港インフルエンザ(1968年)、④.ソ連インフルエンザ(1977年)があります。香港インフルエンザは、現在毎年見られているいわゆるA香港型です。
新型が発生すると大流行しますが、その後多くの人が抗体を持つようになり、流行の規模は小さくなります。そうなると今度は別のタイプのインフルエンザが流行するようになり、また、多くの人が抗体を持って終息します。
やがて、時がたつにつれ、以前に罹ったことのあるタイプのインフルエンザの抗体が下がってくると、再び以前と似たタイプのインフルエンザが流行するということを繰り返していると考えられています。
H5N1は、過去において全く人類が経験したことのないタイプですので、大きな驚異となっています。
1918~1919年にかけて発生した“スペインインフルエンザ”は、世界中で猛威をふるい、そのため、第1次世界大戦が早く終結したといわれるほどです。
当時の記録では、流行の波が3波に分かれ繰り返し押し寄せました。第1波が一番患者数は多かったようですが、重症者は第2波の方が多く、重症な呼吸器症状のため、普段は丈夫と思われていた青年層での死亡が目立ちました。多分、感染を繰り返すうちにウイルスの病原性が増強するからでしょう。
現在、鳥インフルエンザとして出現しているH5N1のウイルスが、このまま人類の前から姿を消してしまうのか、新型インフルエンザウイルスとなってパンデミックを起こすのかどうかはだれにもわかりません。
Q41.パンデミックが起こった場合、個人や、行政はどのような防衛策をとればよいでしょうか?
・個人レベルの対策:
前述したように、「うがい、手洗い、マスクをする」ことが大切です。もし感染したら、人に移さないようにマスクをしましょう。また、加湿器を用いて室内の湿度を50~60%くらいに維持しましょう。乾燥した室内ではウイルスが飛びやすく感染が広がります。
職場や家庭においても接触機会を減らすことは重要なことであり、パンデミックになった際に可能な限り感染している(かもしれない)人との接触を減らすために、どのような生活パターンをとればよいか考えておく必要があります。また、外出機会を減らすために食料などの生活必需品を備蓄しておくことが勧められてます。備蓄と言っても週単位ではなく、月単位で考えた方がよいでしょう。
もし、急に発熱して、とても具合が悪くて「もしかして新型インフルエンザ?」と思ったら、すぐ医療機関(いつもいってる診療所や病院)に行ってはいけません。本当に新型だったら、そこに行くことによって多くの人たちに移しまくることになります。まず、【しかるべき施設】へ、「新型が心配です。どうすればいいでしょうか。」と連絡し、どこへ行けばよいか指示を仰いで下さい。【しかるべき施設】は盛岡市ではまだ決まっていませんが、おそらく保健所になると思います。
日本経済新聞社によりますと、新型インフルエンザが発生し、できるだけ外出を控えるよう国が勧告を出しても、調査した人の半数以上が「外出する」と考えているということでした。また食糧の備蓄も6割強が「していない」と回答しています。国民全体の新型インフルエンザに対する危機意識の希薄さと、国の対策の遅れが浮き彫りになったと言えます。
もし、多くの社会的機能維持者(消防、警察、自衛隊、電気、ガス、水道、食料供給、通信、交通など)や医療従事者が感染してしまえば、もはや誰にも助けを求めることができません。自分の身は自分で守るくらいの覚悟が必要です。
・行政レベルの対策:
1人発生したからといって、すぐ、パンデミックになるというわけではありませんが、交通機関の発達した現在では、アッという間に流行するかもしれず、発熱のある人は公共の乗り物には乗らないようにしなければなりません。「初期の段階で封じ込める」がとても大事です。
例えば、盛岡市で1人発生したら、患者さんはどこの病院に入院隔離するか。本人・家族の学校・職場では、どのように対応するか。家族はいつまで自宅待機するのか。などなど、社会全体で決まりを作らなければなりません。
また、学校・職場の閉鎖は効果があるといっても、流行が始まり、~%罹ったから休校・休職では効果がないです。かなり早期の段階で実施しなければなりません。学校閉鎖については今のところ何ら基準はなく、幼稚園、保育園なども含めますと、大変な混乱が予測されます。オーストラリアによるモデルでは、児童の2%の感染率で閉鎖しなければ効果は薄いとされています。理想的には都道府県や市町村のレベルで、新型の患者が一人見つかった段階で学校閉鎖するのが最も有効と考えられています。スペインインフルエンザ並みの流行でしたら、学校は3ヶ月くらい休校にしなければならないともいわれています。問題は閉鎖中の勉強をどうするかということになります。早急に対策を講じる問題です。
県、市でもマニュアル作成中ですが、まだ、一般には公表されていません。決まりができれば、みんながその決まりを守ることが大切です。
・国境封鎖(初期の段階で封じ込める):
新型インフルエンザが発生した場合、海外からの入国を禁じる方針を検討している国もあります。現在のところ、欧米は国境封鎖はしないようです。オーストラリア、ニュージーランドは国境封鎖をするとしています。日本が厳重な国境封鎖をするとは思えませんが、いかに厳重にしても侵入まで2~3週間くらい時間が稼げるくらいといわれており、結局はインフルエンザウイルスが侵入することにはかわりありません。ただ、この2~3週間の間にいろいろ対策を講じることができますので、国境閉鎖は無駄ではないと思います。