近年、世界的に「子宮頸がんは予防できるがん」という認識が定着してきました。なぜなら、子宮頸がんの発症にはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が大きく関わっていることが判明し、発生機序が解明されてきたためです。1983年にドイツのHarald zur Hausen(ハラルド・ツア・ハウゼン)名誉教授が、子宮頸がんの患者からHPVの2つの型を発見したことがきっかけでした。ウイルス感染が原因なら、そのウイルスに対する免疫をつければよいと言うことから、HPVワクチンが開発されました。
予防ワクチンは性行動のあるどの年令でも接種の意義がありますが、もっとも効果的な接種時期として、性交渉前のHPVに感染していない時期にあたる10代前半の女子を対象とした接種が勧められています。そのため、海外では産婦人科医のみならず、この年代を診察する小児科医や内科医も接種を行っています。
海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本では、2009年12月22日より接種することができるようになり、2011年4月1日より、全額公費負担で接種できることになりました。さらに、2013年4月1日より定期接種に組み込まれ、重要なワクチンと位置づけされており、発がん性HPVの感染から長期にわたって体を守ることが可能です。しかし、このワクチンは、すでに感染しているHPVを排除したり、子宮頸部の前がん病変やがん細胞を治す効果はなく、あくまでHPV感染を予防するものです。
※ 子宮頸がん啓発のための学術情報冊子「HPV Insights」より、引用(一部改変)
・子宮頸がんは、子宮頸部(子宮の入り口)にできるがんです。子宮頸がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどないため、しばしば発見が遅れてしまいます。がんが進行すると不正出血や性交時の出血が見られるようになります。
・子宮頸がんは、女性特有のがんの中では乳がんに次いで多く、特に、妊娠、出産年代の20代〜30代の女性に多く見られます。
・日本では、毎年約11.000人の女性が発生し、約2.800人が死亡しています。
・がんが進行すると、子宮をすべて摘出する手術が必要になることもあり、妊娠、出産の可能性を失い、女性にとって心身ともに大きな負担となります。また、まわりの臓器にがんがひろがっている場合には、子宮だけではなく、そのまわりの卵巣やリンパ節などの臓器もいっしょに摘出しなければならなくなり、いろいろな後遺症を残したり、命にかかわることもあります。
・大変な病気ですが、現在では、子宮頸部がんの原因が解明されて、予防することができるようになりました。
・子宮頸がんは、発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で引き起こされる病気です。
・発がん性HPVは、皮膚と皮膚(粘膜)の接触によって感染します。多くの場合、性交渉によって感染すると考えられています。特別な人が感染するのではなく、女性の約80%が一生のうちに一度は感染するごくありふれたウイルスです。AIDSや性病のような性感染症とは全く別な病気です。
・若い女性ほど発がん性HPV感染率が高い傾向にあり、15〜19才の日本人女性の約30%が発がん性HPVに感染しています。
・発がん性HPVは、感染しても多くの場合、一時的で90%は自然に排除されますが、10%は感染が持続します。持続感染者の1%は数年〜十数年後に子宮頚がんを発症することがあります。
・発がん性HPVには、15種類ほどのタイプがあり、その中でもHPV16型、18型は子宮頸がんから多く見つかるタイプです。日本人子宮頸がん患者の60~70%から、この2種類の発がん性HPVが見つかっています。
・HPV感染は、基本的には風邪にかかるのと同じような感染症であり、そのごく一部の人にがんへの変化が生じていくものです。ですから、誰もが感染する可能性があり、誰もが子宮頸がんになりえるということです。
・HPVワクチンは、サーバリックス、ガーダシル、シルガード9の三つあります。
・サーバリックスとガーダシルでは、感染を予防するHPVの型の数が違います。サーバリックスは16型、18型の2種類の感染を予防できます(2種類のHPVを予防するので2価ワクチンといいます)。ガーダシルは16型、18型に加えて6型、11型の感染も予防できます(4種類のHPVを予防するので4価ワクチンといいます)。
・ただし、6型、11型は子宮頸がんの原因となるタイプではありません。6型、11型は、“尖圭コンジローマ”という病気の原因となるウイルスです。尖圭コンジローマは、性感染症の一種で、自覚症状は乏しいですが、性器や肛門周囲にイボができる病気です。軽症〜重症までありますが、治療しても再発する可能性が高く、時として、長期にわたり、患者さんに負担を与える病気です。また、稀な病気ですが、尖圭コンジローマを有する妊婦さんから経産道的に出生した赤ちゃんが、“乳児再発性呼吸器乳頭腫”という病気になることがあります。乳児期に喘鳴を繰り返し、手術が必要になることもあります。サーバリックスとガーダシルは、ともに子宮頸がん予防効果を持ちますが、ガーダシルには、尖圭コンジローマの予防効果もあります。
・シルガード9は、2021年2月24日に発売され、2023年4月より定期接種に組み込まれました。31型、33型、45型、52型、58型のHPVに対しても感染予防の効果があります(9種類のHPVを予防するので9価ワクチンといいます)。サーバリックス、ガーダシルよりも広範囲に予防効果がありますが、100%ではありません。
・このように、医学の進歩はめざましいものがあります。待てば待つほどよいワクチンができるかもしれませんが、完全に子宮頸がんを予防できるワクチンが開発される事はないと思います。今できる事は、「今、接種できるワクチンを接種する」ことです。
・子宮頸がんの発症は20代以降に多いですが、発がん性HPVに感染してから発症まで数年〜十数年かかります。従って、発がん性HPVに感染する可能性が低い10代前半に子宮頸がん予防ワクチンを接種することで、子宮頸がんの発症をより効果的に予防できます。
・発がん性HPVに感染する危険性は、性交渉が行われる間は一生存在します。HPVワクチンで予防できない子宮頸がんもありますので、これまで通り、検診で予防する必要があります。子宮頸ガン予防は、「HPVワクチン」と「検診」の二本柱が軸です。
・海外では12才前後から開始されていることが多いです。初交開始年令前 が望ましいわけですが、日本人女性の初交年令は、年々早まっており、高三女子の60%が初交経験を持っています。この様な状況を考慮して、小学校6年〜高校1年相当の女子に接種します。
・HPVワクチンは、肩から少し下の筋肉(上腕三頭筋)に筋肉注射しますので、上着の袖をまくるだけでは、接種部位が露出できません。肩を露出しやすい服装でご来院下さい。できるだけ、Tシャツなどを着用して来て下さい。
・筋肉注射は、通常のワクチンよりは若干疼痛があります。この疼痛が、迷走神経反射の原因といわれています。迷走神経は、体をリラックスさせる神経で、痛みや不安などから、体を守ってくれます。この迷走神経が強く働きすぎると、脈が遅くなって血管が拡張しますので、血圧が低下します。その結果、脳への血流が少なくなり、“失神”という状態になります。痛みに過敏な人、神経質な人、によく見られます。心配のないものですが、接種前から「痛い、痛い」と心配していると起こりますので、あまり緊張しないで接種を受けて下さい。
Orange Clover (子宮ガン検診の啓発サイト)
allwomen.jp (サーバリックスの発売元:グラクソ・スミス・クライン社の情報サイト)
もっと守ろう.jp (ガーダシル、シルガード9の発売元:MSD社の情報サイト)