子宮頸がん予防 ワクチン (HPV ワクチン)

 はじめに

 子宮頸がん予防ワクチン(以下、HPVワクチン)は2013年に定期接種となり、多くの人が接種し、子宮頸がん予防に大切な役割を果たしてきました。ところが、接種後に全身の疼痛や歩行困難などの症状を訴える人がみられるようになりました。これに対して、厚労省は「国内外の研究をみても、ワクチン接種と因果関係があることは証明されていない」としていますが、はっきりとした結論は出ていません。

 この様な状況下で、厚労省は、2013年6月、「接種後の局所の痛みや不安などが、症状をひきおこすきっかけになったことも否定はできない」とし、「接種希望者の接種機会は確保しつつ、適切な情報提供ができるまでの間は、積極的な接種勧奨(予診票やワクチンパンフレットなどの個別郵送)を一時的に差し控えるべき」と言うことになりました。

 一方、厚労省は、HPVワクチンの有効性を認めており、2020年10月、「接種対象者と保護者にHPVワクチンを正しく知って戴くための資材をお届けする事」という指示を全国の自治体にしました。この結果、全国の自治体は、厚労省から「積極的にHPVワクチンの接種をお勧めする事を差し控える事」と「接種対象者と保護者にHPVワクチンを正しく知って戴くための資材をお届けする事」というやや矛盾する二つの内容を、接種対象者と保護者にお知らせしなければならなくなりました。

 わかりやすく言うと、「子宮頸がんを予防するとても有効なワクチンがあるけれども、副反応が起きるかもしれないので、接種するかどうかは、資材をよく読んで自分で決めてください。」ということです。そのため、接種対象者と保護者には、接種券が送付されず、HPVワクチンを正しく知って戴くための資材が送付されることになりました。

 この結果、接種しても良いのか、接種しないのが良いのか、多くの接種対象者と保護者は戸惑っているのが現状です。その対策として、厚労省は、接種対象者と保護者向けにHPVワクチンをよく知ってもらうためのWEBサイトを公開しています。→ヒトパピローマウイルス感染症〜子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン〜


 HPVワクチン接種後にみられる 機能性身体症状

 HPVワクチンの副反応には、軽度のものと重篤なものとがあります。比較的軽度な副反応は、発熱、接種部位の疼痛や腫れ、などで、まず心配ないものです。重篤な副反応には、アナフィラキシー(腹痛、呼吸困難、血圧低下)、ギランバレー症候群(手足の神経障害)、急性散在性脳脊髄炎(頭痛、けいれん、手足のしびれ、歩行障害、意識低下)などがあります。およそ100万回から400万回接種に1回起こるといわれていますが、他のワクチンとほぼ同様の頻度でおきており、HPVワクチンで特に多く見られるわけではありません。厚労省のWEBサイトでは、「重篤な症状が1万人あたり5人」と記載されていますが、これは報告した医師や企業の判断によるため、必ずしも重篤でない場合も含まれており、実際の数値はもっと少ないものと思われます。

 また、ワクチンの副反応ではありませんが、迷走神経反射と言って、接種後に一時的に“失神”のような症状がみられることがあります。HPVワクチンは、上腕三頭筋に筋肉注射しますので、通常のワクチンよりは若干疼痛があります。この疼痛が、迷走神経反射の原因といわれています。迷走神経は、体をリラックスさせる神経で、痛みや不安などから、体を守ってくれます。この迷走神経が強く働きすぎると、脈が遅くなって血管が拡張しますので、血圧が低下します。その結果、脳への血流が少なくなり、“失神”という状態になります。痛みに過敏な人、神経質な人、によく見られます。心配のないものですが、接種前から「痛い、痛い」と心配していると起こりますので、あまり緊張しないで接種を受けて下さい。

 HPVワクチン接種後に、慢性疼痛、運動障害、頭痛、腹痛、睡眠障害、学習意欲の低下、記憶障害など多様な症状がみられることがあります。決して多いことではありませんが、いろいろな検査をしても、その原因についてはっきりとした身体的異常が見つからず、機能性身体症状と言われています。

 よくみられる症状は、@知覚に関する症状(頭や腰、関節等の痛み、感覚が鈍い、しびれる、光に関する過敏など)、A運動に関する症状(脱力、歩行困難、不随意運動など)、B自律神経等に関する症状(倦怠感、めまい、睡眠障害、月経異常など)、C認知機能に関する症状(記憶障害、学習意欲の低下、計算障害、集中力の低下など)で、いろいろな症状が報告されています。しかし、HPVワクチンを接種しなくても、このような機能性身体症状がみられることがありますので、「HPVワクチンと機能性身体症状との因果関係がある」とはいえないものの、逆に「因果関係がない」とも言えない状況です。

 機能性身体症状は、はっきりとした原因は不明です。主症状が多岐にわたるため、診察する医師によって、病態のとらえ方が異なります。その結果、様々な診断名で治療が行われています。

 例えば、接種後に持続的な体の疼痛を訴える場合には、「複合性局所疼痛症候群」(以下、CRPS)と診断されることがあります。CRPSは、外傷、骨折、注射針などの刺激がきっかけとなって発症すると考えられ、傷が治ったあとも、いつまでも痛みが続きます。CRPSのはっきりとした原因は不明ですが、ケガをした部位での神経興奮の異常と、痛みを調節する脳の機能異常の両方が関わっていると考えられています。HPVワクチンは、筋肉注射ですので、少し痛みが強く、これがCRPSを引き起こす一因になることも考えられていますが、証明はされていません。

 また、、思春期の女性には「転換性障害」と言って、身体には何の問題がないのに、勝手に手足が動いたり、痛みを感じたりする症状がみられることがあります。 これも、はっきりとした原因は不明ですが、転換性障害のはじまりや悪化には、心の葛藤やストレスといった心理的要因が関連していると考えられているため、HPVワクチンに対する過度の不安などが誘因になることがあります。この場合、HPVワクチンはきっかけにすぎず、真の原因はそのお子さんがもともと抱えている心の葛藤やストレスにありますので、そのケアが必要になります。

 このような症状で悩んでいる人はそんなに多くはないのですが、人数は少ないとは言え、治療を受けている人がいることも事実です。そのため、HPVワクチン接種後に生じた症状に関する相談先や協力医療機関が各都道府県に設置されるようになりました。

 HPVワクチンは世界中の多くの国々で接種されており、実際に子宮頸がんの発生率を下げています。副反応を問題にして接種を中止した国はありません。どんなワクチンでも絶対安全ということはありません。最終的にはワクチンの有効性と安全性とを考慮して自分の意志で決めていくしかありませんが、私は子宮頸がん予防という観点から、接種した方が良いと思っています。


 がんは、ワクチンで予防できる時代へ

 近年、世界的に「子宮頸がんは予防できるがん」という認識が定着してきました。なぜなら、子宮頸がんの発症にはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が大きく関わっていることが判明し、発生機序が解明されてきたためです。1983年にドイツのHarald zur Hausen(ハラルド・ツア・ハウゼン)名誉教授が、子宮頸がんの患者からHPVの2つの型を発見したことがきっかけでした。ウイルス感染が原因なら、そのウイルスに対する免疫をつければよいと言うことから、HPVワクチンが開発されました。

 予防ワクチンは性行動のあるどの年令でも接種の意義がありますが、もっとも効果的な接種時期として、性交渉前のHPVに感染していない時期にあたる10代前半の女子を対象とした接種が勧められています。そのため、海外では産婦人科医のみならず、この年代を診察する小児科医や内科医も接種を行っています。

 海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本では、2009年12月22日より接種することができるようになり、2011年4月1日より、全額公費負担で接種できることになりました。さらに、2013年4月1日より定期接種に組み込まれ、重要なワクチンと位置づけされています。3回のワクチン接種で、発がん性HPVの感染から長期にわたって体を守ることが可能です。しかし、このワクチンは、すでに感染しているHPVを排除したり、子宮頸部の前がん病変やがん細胞を治す効果はなく、あくまでHPV感染を予防するものです。

※子宮頸がん啓発のための学術情報冊子「HPV Insights」より、引用(一部改変)


 子宮頸がん とは?

・子宮頸がんは、子宮頸部(子宮の入り口)にできるがんです。子宮頸がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどないため、しばしば発見が遅れてしまいます。がんが進行すると不正出血性交時の出血が見られるようになります。

・子宮頸がんは、女性特有のがんの中では乳がんに次いで多く、特に、妊娠、出産年代の20代〜30代の女性に多く見られます。

・日本では、毎年約11.000人の女性が発生し、約2.800人が死亡しています。

・がんが進行すると、子宮をすべて摘出する手術が必要になることもあり、妊娠、出産の可能性を失い、女性にとって心身ともに大きな負担となります。また、まわりの臓器にがんがひろがっている場合には、子宮だけではなく、そのまわりの卵巣やリンパ節などの臓器もいっしょに摘出しなければならなくなり、いろいろな後遺症を残したり、命にかかわることもあります。

・大変な病気ですが、現在では、子宮頸部がんの原因が解明されて、予防することができるようになりました。


 子宮頸がんの原因はウイルス:子宮頸がんと、発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)

・子宮頸がんは、発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で引き起こされる病気です。

・発がん性HPVは、皮膚と皮膚(粘膜)の接触によって感染します。多くの場合、性交渉によって感染すると考えられています。特別な人が感染するのではなく、女性の約80%が一生のうちに一度は感染するごくありふれたウイルスです。AIDSや性病のような性感染症とは全く別な病気です。

・若い女性ほど発がん性HPV感染率が高い傾向にあり、15〜19才の日本人女性の約30%が発がん性HPVに感染しています。

・発がん性HPVは、感染しても多くの場合、一時的で90%は自然に排除されますが、10%は感染が持続します。持続感染者の1%は数年〜十数年後に子宮頚がんを発症することがあります。

・発がん性HPVには、15種類ほどのタイプがあり、その中でもHPV16型、18型は子宮頸がんから多く見つかるタイプです。日本人子宮頸がん患者の60~70%から、この2種類の発がん性HPVが見つかっています。

・HPV感染は、基本的には風邪にかかるのと同じような感染症であり、そのごく一部の人にがんへの変化が生じていくものです。ですから、誰もが感染する可能性があり、誰もが子宮頸がんになりえるということです。


 HPVワクチン:発がん性HPV16型、18型の感染を防ぐワクチンがあります。

・HPVワクチンは、全ての発がん性HPVの感染を防ぐものではありませんが、子宮頸がんから多く見つかるHPV16型、18型の二つのタイプの発がん性HPVの感染を防ぐことができます

・HPVワクチンを接種しても、16型、および、18型以外の発がん性HPVの感染は予防できません。また、すでに発がん性HPVに感染している人に対して、ウイルスを排除したり、発症している子宮頸がんや前がん病変(がんになる前の異常な細胞)の進行を遅れさせたり、治療することはできません。

・上記のようにHPVワクチンの接種時に16型や18型の発がん性HPVに感染している人に対して、十分な効果は期待できませんが、16型と18型の両方に同時に感染している可能性は低く、16型に感染している人でも18型への予防効果が、また、18型に感染している人でも16型への予防効果が期待できます。なお、発がん性HPVに感染している人に対してHPVワクチンを接種しても症状の悪化などは報告されていません。

・子宮頸がんの発症は20代以降に多いですが、発がん性HPVに感染してから発症まで数年〜十数年かかります。従って、発がん性HPVに感染する可能性が低い10代前半に子宮頸がん予防ワクチンを接種することで、子宮頸がんの発症をより効果的に予防できます。

・ただし、ワクチンを接種した後でも、全ての発がん性HPVによる病変を防げるわけではないので、早期発見のために子宮頸がんの検診が必要です。自治体が実施する公的な子宮頸がん検診は、20才以上を対象として2年に1回の受診間隔で実施されますので、10代でワクチン接種しても20才を過ぎたら定期的な子宮頸がん検診を受けましょう。


 三つの HPV ワクチン(サーバリックス、ガーダシル、シルガード9)と、検診

・HPVワクチンは、サーバリックス、ガーダシル、シルガード9の三つありますが、現在、定期接種されているのは、サーバリックス、ガーダシルの二つです。

・サーバリックスとガーダシルでは、感染を予防するHPVの型の数が違います。サーバリックスは16型、18型の2種類の感染を予防できます。(2種類のHPVを予防するので2価ワクチンといいます)。ガーダシルは16型、18型に加えて6型、11型の感染も予防できます。(4種類のHPVを予防するので4価ワクチンといいます)

・ただし、6型、11型は子宮頸がんの原因となるタイプではありません。6型、11型は、“尖圭コンジローマ”という病気の原因となるウイルスです。尖圭コンジローマは、性感染症の一種で、自覚症状は乏しいですが、性器や肛門周囲にイボができる病気です。軽症〜重症までありますが、治療しても再発する可能性が高く、時として、長期にわたり、患者さんに負担を与える病気です。また、稀な病気ですが、尖圭コンジローマを有する妊婦さんから経産道的に出生した赤ちゃんが、“乳児再発性呼吸器乳頭腫”という病気になることがあります。乳児期に喘鳴を繰り返し、手術が必要になることもあります。サーバリックスとガーダシルは、ともに子宮頸がん予防効果を持ちますが、ガーダシルには、尖圭コンジローマの予防効果もあります。

・これらに次ぐ、三番目のHPVワクチンが2021年2月24日に発売されました。新ワクチンはシルガード9と言って、9価(HPVウイルス9種類)の予防効果を持っており、サーバリックスやガーダシルよりも広範囲に効果があると期待されています。今のところ、シルガード9は公費助成がなされておらす、全額自費です。

・このように、医学の進歩はめざましいものがあります。待てば待つほどよいワクチンができるかもしれませんが、完全に子宮頸がんを予防できるワクチンが開発される事はないと思います。今できる事は、「今、接種できるワクチンを接種する」ことです。

・発がん性HPVに感染する危険性は、性交渉が行われる間は一生存在します。HPVワクチンで予防できない子宮頸がんもありますので、これまで通り、検診で予防する必要があります。子宮頸ガン予防は、「HPVワクチン」「検診」の二本柱が軸です。


 接種対象年令と接種回数、接種時の注意:当院ではガーダシルのみ接種しております。

・海外では12才前後から開始されていることが多いです。初交開始年令前 が望ましいわけですが、日本人女性の初交年令は、年々早まっており、高三女子の60%が初交経験を持っています。この様な状況を考慮して、小学校6年〜高校1年相当の女子に、3回(初回、2か月後、6か月後)接種します。

・HPVワクチンは、肩から少し下の筋肉(上腕三頭筋)に筋肉注射しますので、上着の袖をまくるだけでは、接種部位が露出できません。肩を露出しやすい服装でご来院下さい。できるだけ、Tシャツなどを着用して来て下さい。

・筋肉注射は、通常のワクチンよりは若干疼痛があります。この疼痛が、迷走神経反射の原因といわれています。迷走神経は、体をリラックスさせる神経で、痛みや不安などから、体を守ってくれます。この迷走神経が強く働きすぎると、脈が遅くなって血管が拡張しますので、血圧が低下します。その結果、脳への血流が少なくなり、“失神”という状態になります。痛みに過敏な人、神経質な人、によく見られます。心配のないものですが、接種前から「痛い、痛い」と心配していると起こりますので、あまり緊張しないで接種を受けて下さい。


 リンク

 LOVE49 (子宮ガン検診の啓発サイト)

 allwomen.jp (サーバリックスの発売元:グラクソ・スミス・クライン社の情報サイト)

 もっと守ろう.jp (ガーダシル、シルガード9の発売元:MSD社の情報サイト)