ロタウイルス胃腸炎は、乳幼児に多く見られるウイルス性の胃腸炎です。ロタウイルス胃腸炎の原因「ロタウイルス」は全世界に広く分布し、衛生状態に関係なく世界各地で感染がみられています。
ロタウイルス胃腸炎の多くは突然のおう吐に続き、白っぽい水のような下痢を起こします。発熱を伴うこともあり、回復には1週間ほどかかります。また、多くの場合、特に治療を行わなくても回復しますが、時に脱水、腎不全、無熱性けいれん、脳炎・脳症などを合併することもあり、入院が必要となることもあります。
日本でのロタウイルス胃腸炎の発症は冬〜春に多く、年間約80万人が感染するといわれています。主に生後3か月〜2才の乳幼児に起こりますが、ピークは1才前後(生後7〜15か月)です。生後3か月までは、お母さんからもらった免疫によって感染しても症状が出ないか、症状があっても軽く済みますが、生後3か月以降に初めて感染すると重症化しやすくなります。5歳までにほとんどの小児が経験します。その後もな何回か罹ることはありますが、最初の感染が一番症状が強いといわれます。近年、福祉施設などの成人でも集団発生がみられるようになってきました。
ロタウイルスに効く薬は今のところ何もありません。従ってロタウイルス胃腸炎を予防するためには、ワクチンが必要となります。ロタウイルス胃腸炎はお母さんからもらった免疫がなくなって初めて感染した時が重症化しやすく、ワクチンの接種の目的はこれを予防することにあります。
乳児期早期から保育園に入所している赤ちゃんが、ロタウイルス胃腸炎に罹患すれば、多くの場合、嘔吐〜下痢から高度の脱水症状をきたし、点滴〜入院となります。そのため、乳児期早期のうちに早めに接種を終わらせることが大切です。
ロタウイルス胃腸炎を予防するワクチンは、ロタリックスとロタテックの二つあります。
ロタウイルスの表面にはP蛋白質とG蛋白質が存在しています。P蛋白質は11種類の遺伝子型、G蛋白質は10種類の血清型を持っており、この組み合わせでいろいろなタイプのロタウイルスができます。遺伝子型は[]で囲んで表記します。例えば、G1P[8]は、G蛋白質が1型・P遺伝子型が8型のロタウイルスという意味です。乳幼児のロタウイルス胃腸炎の原因で最も多いのが、このG1P[8]です。
ロタウイルス胃腸炎の原因になる主なウイルスには5つの血清型(G1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8])がありますが、ロタリックスは、5つの中でも一番流行して重症化しやすいG1P[8]のヒトロタウイルスを弱毒化したワクチン(1価ワクチン)です。1種類の血清型しか使用していませんが、交差免疫(ワクチンに含まれているウイルスに対する免疫を獲得することで、タイプの似ているほかのウイルスにも防御反応を示すこと。)によって、他の4種類のロタウイルスにも有効であることが確認されています。
一方、ロタテックは、ウシロタウイルスに、ヒトロタウイルスを組み入れたウイルス4種類と、ウシロタウイルスにP[8]遺伝子を組み入れたウイルス1種類の計5種類のウイルスを混ぜた遺伝子組み換えワクチン(5価ワクチン)です。
このように成分、製法が異なりますが、両方のワクチンともに、ほぼ同等の効果を示しています。
二つのロタウイルスワクチンは、ともにロタウイルスによる感染を防いだり、軽くしたりして、点滴や入院が必要になる重症例を約90%減らします。結果として、脳炎などの重い合併症も防ぎます。予防効果は少なくとも3年間は持続することが海外の臨床試験で確認されています。
また、安全性についても世界中で多くの調査が行われており、極めて高いものとされています。そのためにWHO(世界保健機関)は2009年6月に、ロタウイルスワクチンを子どもの最重要ワクチンの一つに指定しました。そして世界中の全ての子どもが使用するようにと指示しています。
ロタリックス | ロタテック | |
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ウイルス組成 | G1P[8]の1種類のヒトロタウイルスを弱毒化したワクチン (1価ワクチン) |
ウシロタウイルスに、ヒトロタウイルスを組み入れたウイルス4種と、ウシロタウイルスにP[8]遺伝子を組み入れたウイルス1種の計5種のウイルスを混ぜた遺伝子組み換えワクチン (5価ワクチン) |
国内認可 | 2011年11月 | 2012年7月 |
接種開始時期 | 6週令(生まれてから42日後) | 6週令(生まれてから42日後) |
ロタリックスもロタテックも、6週令(生まれてから42日後)から開始できますが、生後2か月になってから、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチンと同時接種した方が受診回数が少なくてすみますので、2か月からの接種をお勧めします。 | ||
接種終了時期 | 生後24週(生後168日) | 生後32週(生後224日) |
接種回数・量 | 2回 :1回につき1.5ml 内服 | 3回 :1回につき2.0ml 内服 |
・接種はチューブに入った1回分(ロタリックスは1.5mL、ロタテックは2.0ml)のワクチンを直接赤ちゃんの口に入れて行います。
・接種直前(30分以内)には、授乳を控えましょう。
・接種時は赤ちゃんの機嫌を見ながら、少しずつ口に入れます。
・ワクチンを吐き戻した時の吐物が、手や体、衣服に付着した場合は、アルコールや逆性石けんは使わずに、塩素系漂白剤や哺乳瓶用の消毒剤を使用します。
・ワクチン由来のウイルスが、接種後平均10日間くらい便中に認められてます。この排泄されたウイルスによって胃腸炎を発症する可能性は極めて低いことが確認されていますが、オムツの交換後は十分な手洗いをして下さい。
・国内臨床試験で接種後30日間に報告された主な副反応は、ぐずり(7.3%)、下痢(3.5%)、咳・鼻みず(3.3%)でした。その他、発熱、食欲不振、嘔吐などがみられました。
・海外臨床試験では、ぐずり、下痢(1〜10%未満)、鼓腸(おなかがふくれること)、腹痛、皮膚炎(0.1〜1%未満)でした。海外の市販後で、接種後に報告されたおもな副反応は(※)腸重積症、血便排泄、重症複合型免疫不全(SCID)のある患者さんのワクチンウイルス排泄を伴う胃腸炎でした。
(※)腸重積症:腸の一部が望遠鏡の筒のように腸の中にめり込んで、腸が重なった状態になる病気です。最終的に腸閉塞(腸が動かなくなること)となり、頻回に嘔吐します。いちごゼリー状の血便、5〜10分おきに不機嫌で顔色が悪くなるなどの症状が見られますが、保存的療法で治癒する場合が殆どです。腸重積症は、初回ロタワクチンの接種が遅くなると起こりやすくなります。そのため、初回接種は、生後14週6日(生後104日)までに行うよう勧められています。
通常の予防接種は、生後2ヶ月から開始します。
ワクチンデビューは、生後2か月の誕生日
生後2か月の誕生日に当たる前日から開始できます。この日は8週令後半になります。
(R3)は、ロタテックのみ。 B型肝炎Bは、@から140日以後。
生後 2か月 |
生後 3か月 |
生後 4か月 |
生後 5か月 |
〜 | |||||||||||
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五種混合 または、 四種混合+ヒブ |
@ | A | B | 〜 | |||||||||||
肺炎球菌 | @ | A | B | ||||||||||||
B型肝炎 | @ | A | B | ||||||||||||
ロタウイルス | R1 | R2 | (R3) | ||||||||||||
BCG | B | ||||||||||||||
インフルエンザ | 生後6か月以後、10月〜12月にかけて2回接種 |
ラブ ベビ (ロタリックスの発売元:グラクソ・スミス・クライン社の情報サイト)
産後すぐのロタワクチン (ロタテックの発売元:MSD社の情報サイト)