「輸入単抗原 ポリオワクチン」 の 認可を目指して


 2012年11月から三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチンを加えた四種混合ワクチンが接種される事となりました。それに先だって、同年9月1日より、ポリオ単独の不活化ワクチンの接種も始まります。

 本文の内容は、四種混合ワクチン、ポリオ単独の不活化ワクチンともに、認可される前のものです。本文の様な経緯があって、生ワクチンから不活化ワクチンに切り替わることになりました。


 二つのポリオワクチン:生ワクチンと、不活化ワクチン

 予防接種で使うワクチンには、生ワクチン(OPV)と不活化ワクチン(IPV)があります。ポリオにも生ワクチンと不活化ワクチンがあり、現在、日本では生ワクチンを使用しています。

 ポリオ生ワクチンは、今でも世界をポリオの脅威から救ってくれている、すばらしいワクチンです。ポリオ生ワクチンは、注射器や針などの医療資材が必要なく、口にスポイトで液を垂らして飲むだけなので、短時間に多人数に接種が可能ですし、医師や看護師でなくても投与が可能です。ポリオ生ワクチンによりポリオは激減しており、ポリオが多数発生する国にとっては、非常に有効なワクチンです。

 ところで、生ワクチンは菌体(ウイルス)を弱毒化して使用していますので、効果が高い反面、その菌体(ウイルス)の症状が見られる心配が少しあります。ポリオの場合、稀ではありますが、「麻痺(マヒ)」が発生するとされています。→ワクチン関連マヒ(vaccine associated paralytic polimyelitis:VAPP)と言います。  ワクチン関連マヒには、生ワクチン接種後に発症する場合と糞便に排泄されたワクチン株が周囲の人に感染してマヒを起こす場合(接触感染)の二通りあります。

 これに対して、不活化ワクチンは菌体(ウイルス)そのものを使っていませんので、このような副作用の心配がありません。世界中の多くの国々では、ポリオはほとんど見られなくなりましたので、安全性の高い不活化ワクチンを接種しています。

 日本では1980年以来、ポリオは発生していません。しかしながら、まだ、ポリオ生ワクチンを継続し、ワクチン関連マヒ(VAPP)が発生し続けているという現状です。早急に、副作用を心配する生ワクチンではなく、安全性の高い不活化ワクチンに、切り替える必要があります。

 ワクチン関連マヒ(VAPP)は、約200万〜300万人に1人とか、450万人に1人とか、いくつかのデータがありますが、予防接種健康被害認定審査によると、生ポリオワクチン接種後に麻痺を発症したと認定された事例は、平成元年度〜平成20年度まで、80件あります。また、生ポリオワクチンを接種された者からの接触感染と認定された事例は、平成16年度〜平成20年度まで、5件と報告されています。

 このデータによりますと、年間出生数が約100万人ですので、全員生ポリオワクチンを接種したした場合、1年間(約100万人)に4人の割合で、ワクチン関連マヒ(VAPP)が発生している事になります。年度により出生数、発生数に差があるとしても、通常報道されている患者数よりは、かなり多い事になります。

 そこで、ワクチン関連マヒ(VAPP)の心配のない不活化ポリオワクチン(IPV)が必要になるわけです。


 用語の解説

文章表現を簡潔にするため、略語で表現します。

・三種混合ワクチン(DPT)
・不活化ポリオワクチン(IPV)
・生ポリオワクチン(OPV)
・四種混合ワクチン(DPT-IPV):三種混合ワクチン(DPT)+不活化ポリオワクチン(IPV)
・単抗原不活化ポリオワクチン(単抗原IPV):不活化ポリオワクチンと同じ意味。ただし、四種混合ワクチン(DPT-IPV)に含まれる不活化ポリオワクチンではなく、不活化ポリオワクチンだけの単品と言う意味。
・輸入不活化ポリオワクチン(輸入単抗原IPV):海外から輸入される単抗原不活化ポリオワクチン
・国内不活化ポリオワクチン(国内単抗原IPV):国内で生産される予定の単抗原不活化ポリオワクチン


 四種混合ワクチン(DPT-IPV)と単抗原IPVが必要なわけ

 現在、日本で開発が進めらているワクチンは三種混合ワクチン(DPT)と不活化ポリオワクチン(IPV)を一緒にした 四種混合ワクチン:三種混合ワクチン+不活化ポリオワクチン(DPT-IPV)です。

 厚労省は、DPT-IPVの開発を求める文書を昨年4月に発表しましたが、その後、検討を重ねて、2011年度末にはワクチンメーカー各社から、DPT-IPV薬事承認申請が出され、早ければ2012年度中(2012年度末?)にも、導入される見通しとなりました。

 この内容は5月26日の厚生科学審議会感染症分科会・予防接種部会で、公表されました。本来この会議は3月11日に開催されましたが、東日本大震災のため会議は中断され延び延びになっていたようです。

 また、DPTとOPVの接種時期は、DPTを先に接種してからOPVを接種する場合が多く、OPVから、DPT-IPVへの移行期にあたっては、DPTの接種開始後でOPV未接種者に対する対応が必要になります。

 こうしたすでにDPTを接種開始後の赤ちゃんにポリオワクチンを接種するためにDPT-IPVとは別に単抗原IPV(DPT抜きのIPV)の必要性も強調しており、サノフィパスツール社に、単抗原IPVを国内で開発するように要請しました。これを受け同社は、2012年度中にも導入される予定のDPT-IPVより前に、単抗原IPVを完成させたい意向を発表しました。

 以上、少しおわかり難いところもあると思いますので、簡単にまとめますと、


 2012年度に、DPT-IPVが導入された時点で、DPT接種後、ポリオワクチンを接種する予定の赤ちゃんが約20万人存在すると推測されています。この赤ちゃん達がポリオワクチンを受けるには、以下の三つの選択肢がありますが、それぞれ課題があります。

1.OPVを接種する。→ワクチン関連マヒ(VAPP)の心配がある。
2.DPT-IPVを接種する。→すでにDPTを接種しているのでDPTの接種回数が過剰になる。
3.単抗原IPVを接種する。→国内単抗原IPVは開発が始まったばかり、現時点では単抗原IPVを輸入して接種するしか方法がない。


 ※ ちなみに1回目生ワクチンOPV接種後でもその後の接種はIPVで可能です。もともとポリオワクチンはOPVでもIPVでも4回が基準です。日本は50年前にポリオが大流行した時にポリオワクチンを緊急輸入しましたが、数量が足りなかったため、とりあえず2回接種にしたのだそうです。その後もズ〜と、50年続けています。というわけで、OPVでも、IPVでも、両方合わせても、合計4回必要です。

 2012年度までに国内単抗原IPVが完成すれば、3.が一番望ましいと思われますが、問題はそれまでの間です・・・。

 日本国内で野生株ポリオは30年以上発生していませんので、流行国に行かなければ感染しないだろう。だから、2012年度まで待って、DPT-IPVを接種しようと多くの人がOPV接種を控えてしまうと、全くポリオの免疫を持たない人ばかりになり、もしかしたら、ポリオが流行するかもしれないという心配があります。

 また、DPTを接種すれば、DPT-IPVを接種できなくなると考え、DPTを接種せずにDPT-IPVの発売を待つ人もいるかもしれません。DPTのおかげで百日咳は予防できます。百日咳は生後6ヶ月くらいまでの赤ちゃんのとっては、とても恐ろしい病気で命に関わります。DPT-IPVをまっているうちに百日咳に罹っては大変です。

 となると、今急がれることは単抗原IPVの導入です。厚労省も単抗原IPVの必要性は十分認めています。
 
 厚労省が正式にDPT-IPVへの切り替えを2012年度と明示したこと。単抗原IPVの必要性も認め、国内単抗原IPVの開発に着手した事。また、自費で輸入単抗原IPVを接種する人が増えていること。などなど、ポリオワクチンに対する関心が高まってきていることから、国内単抗原IPVの完成前に、一時的なつなぎとして輸入単抗原IPVを認可する事は十分考えられます。(特に根拠はありません。希望的観測です。)


 輸入単抗原IPV

 最近、輸入単抗原IPVを接種する医師が全国的に増えてきているようです。私自身は個人輸入して使用した経験がありませんので、詳細はわかりません。

 サノフィーパスツール社のIMOVAX Polioと、GSK社のPoliorix の二つが使用されているようです。IMOVAX Polioは1982年に発売され、91カ国で承認を受けています。このワクチンは世界中で10年以上使われてきており、すでに数億人の人が接種しているそうです。

 OPVと違ってワクチン関連マヒ(VAPP)を起こすことはありません。また、特に問題となるような健康被害(副作用)は報告されていないようです。しかし、アナフィラキシーショックなど副作用の可能性はDPTなど他の不活化ワクチンと同様に極めて稀ではありますが起こる事があります。

 輸入単抗原IPVは日本国内で承認されていないワクチンですので、もし、健康被害(副作用)が生じた場合には、日本の健康被害救済制度は適用されません。輸入商社による輸入ワクチン副作用被害救済制度による補償制度はありますが、定期接種等と比べると補償内容はごくわずかで、決して十分と言えるものではなく、また、補償のための要件が現実的ではありません(民事裁判により、病院、医師の無過失が認定される必要があります)。そのためか、制度ができてから補償が実行された実績が一度もないようです。従って、事実上補償はないと考えた方がよさそうです。

 また、輸入単抗原IPVは、他のワクチンと同時接種して、健康被害を生じた場合、どちらのワクチンに因果関係を求めるかと言うような問題を生じる可能性もあり、他のワクチンとの同時接種も行われていません。

 輸入単抗原IPVは、自費ワクチンで、さらに補償制度も無いに等しいです。こういう事も熟知した上で接種するか否かを決める事になります。もし、輸入単抗原IPVを国が認可すれば、この様な心配をしなくても済みます。


 今後の展望と今できる事

 米国は2000年にOPVからIPVに完全に切り替えました。先進国に限らず、多くの国々がIPVに切り替え、OPVによるワクチン関連マヒ(VAPP)を根絶しています。

 昨年12月15日、「ポリオの会」がIPVの早期導入を求めて、約3万5000人の署名を厚労省へ提出した際、厚労省は「不活化ワクチンの国内開発の進捗(しんちょく)は不明、輸入もできない」と回答したと言います。
 
 日本では、OPVを製造している財団法人日本ポリオ研究所がポリオワクチン市場をほぼ独占しています。新型インフルエンザが流行した2年前、役人と国立感染症研究所がワクチンの輸入に抵抗したのとよく似た構図が伺われても仕方がないような状況です。

 ある個人輸入代行業者の扱いでは、IPVの輸入本数は、2009年の899本が2010年に7770本に増加したと言います。
 
 DPT-IPVへの切り替えは、おそらく2012年度末でしょう。それまではどうしても単抗原IPVが必要になるはずです。この様な社会的動向を厚労省も無視するわけにはいかないと思います。

 ポリオの会では、「ポリオ不活化ワクチンへの早急な切り替えに関する要望書(署名用紙)」で、輸入単抗原IPVの認可を呼びかけております。
 
 不活化ポリオワクチン(IPV)国産化成功までは、「不活化ポリオワクチンの臨時緊急輸入早期導入」こそ提言したい。として、林啓一医師(上海国際クリニック、上海)と宝樹真理医師(たからぎ医院、東京)らが立ち上げた「不活化ワクチン」サイトでも、輸入単抗原IPVの認可を要望しています(不活化ポリオワクチンを勧めたい〜同士募集→趣旨賛同登録フォーム)。

 法律の整備が不十分な現状では、積極的に輸入単抗原IPVを接種しようという気持ちになれない医師が多いと思います。私もその一人です。すなわち、海外で広く使用されている単抗原IPVは、その実績から有効性・安全性ともに十分保証されたワクチンだと思います。しかし、問題は本薬剤(輸入単抗原IPV)が国内未承認ということです。
 
 乳児期は重症感染症や乳幼児突然死症候群の好発時期であり、偶発例も含めればワクチン接種10万〜数百万に1例程度は突然死が起こりうるとされています。予防接種後に健康被害が発生した場合、接種したワクチンと因果関係がなくても、その発生のタイミングなどから副反応を完全に否定する事ができなければ、接種した側も接種された側もワクチンに対する不信感を持ち、また、法律的対処への対応に戸惑う事になります。
 
 未承認ワクチンではそのような状況に遭遇した場合、さらに不幸な状況に陥る事が懸念されます。DPT、ヒブ、肺炎球菌、麻疹・風疹など日常接種されているワクチンの全ては国内で承認されているワクチンです。つまり、「法律で認められた薬剤」を使用する事によって被接種者、医師双方とも様々な観点から保護されています
 
 しかるに【国内未承認ワクチンである輸入IPV】を使用するにあたっては、「その保護の殆どは適用が期待できない事」を被接種者・医師ともに十分認識しておかなければなりません。この様な現状を鑑みれば、日本でも一刻も早い輸入IPVの承認をすべきと考えます。

 今、私達のできる事は一人でも多くの人が「輸入単抗原IPVの認可」による接種を実現するように、声を上げる事だと思います。みんなの要望を厚労省に伝えましょう。