B型肝炎とは、B型肝炎ウイルス(以下、HBV :Hepatitis B Virus)の感染によって発症する肝臓の病気です。 肝臓は、私達が生命を維持していくのにとても重要な臓器で、次のような働きをしています。
・栄養分(糖質、たん白質、脂肪、ビタミン)の生成、貯蔵、代謝。
・血液中のホルモン、薬物、毒物などの代謝、解毒。
・出血を止めるための蛋白の合成。
・胆汁の産生と胆汁酸の合成。
・身体の中に侵入したウイルスや細菌感染の防御。
いわば、肝臓は、エネルギーを生成したり、貯蔵したり、老廃物を排除したりして、「体の化学工場」のような働きをしています。この働きに障害が見られる病気が肝炎で、HBVが原因の場合にB型肝炎といいます。日本では感染者は約100万人(約100人に1人)と推定されています。また、毎年、大人を含めて2万人以上が罹っていると推定されています。
HBVに感染すると、全身倦怠感に引き続き、食欲不振、悪心・嘔吐などの消化器症状が出現してきます。これらに引き続いて黄疸が出現することもあります。また、肝臓が腫れて、右背部の鈍痛や叩打(こうだ)痛がみられることもあります。これが急性B型肝炎の症状です。
急性B型肝炎では、感染しても肝炎とわかるような症状がみられるのは30〜40%で、残りの60〜70%の人は自然治癒します。しかし、稀ではありますが、劇症肝炎といって、高度の肝機能不全と意識障害(肝性脳症または肝性昏睡)がみられることがあります。劇症肝炎は高率に死亡する恐ろしい病気です。
HBVに感染しても(体内にウイルスがいても)症状のない場合もあります。これを無症候性キャリア(HBVキャリア)といいます。我が国では推定100万人くらいのキャリアが存在します。 HBVキャリアになると、その多くはある時期まで肝炎を発症せず、健康なまま経過します。
しかし、ほとんどのHBVキャリアでは、10代から30代にかけて肝炎を発症します。一般に、この肝炎は軽いものであることが多いために、本人が気づくほどの症状が出ることはほとんどなく、検査してはじめて肝炎であることがわかります。85〜90%の人では、この肝炎は数年のうちに自然に治まって、また元の健康な状態に戻りますが、ウイルスが身体から排除されないままHBVキャリアである状態が続きます。
HBVキャリアのうち、10〜15%は慢性B型肝炎を発症し、次第に肝機能が低下し、疲れやすい、だるい、食欲がない、時には尿の色が濃いなどの症状が現れることがあります。慢性B型肝炎を発症した場合、さらに進行して自覚症状がないまま、肝硬変へと進展し、最終的に肝臓がんを発症することもあるので注意が必要です。
B型肝炎は、主にHBVに感染している人の血液を介して感染します。また、感染している人の血液の中のHBVの量が多い場合には、その人の体液などを介して感染することもあります。しかし、健康な人の皮膚にHBVに感染している人の血液や体液が付着した程度では感染しません。HBVは「血液から血液への感染」で発症します。
例えば、以下のような場合には感染する危険性があります。
・HBV感染者からの輸血、臓器移植等を受けた場合。
・HBV感染者が使った注射器・注射針を、くり返して使用した場合。
・HBV感染者の血液が付着した針を、誤って刺した場合。
・HBV感染者の血液が付着したカミソリや歯ブラシを使用した場合。
・HBVに感染している母親から生まれた子に対して、適切な母子感染防止策を講じなかった場合。
・HBV感染者と性交渉をもった場合。
・適切な消毒をしていない器具を使って入れ墨、ピアスの穴あけ、出血を伴う民間療法などを行った場合。
・知らない間に罹ってしまう場合。実際に小児の感染経路不明例は年間数十人以上いますし、過去には九州の保育園で25人の感染経路不明な集団感染事例もありました。
社会全般および、医療現場における衛生環境が必ずしも良いとは言い難かった1970年代までの我が国では、出生時の母子感染(垂直感染)や、注射器・注射針のくり返し使用など、様々な経路を介した感染(水平感染)が起こっており、その中の1つとして性行為によるHBV感染も起こっていました。
しかし、その後、経済状態の改善に伴って社会全般の衛生環境が改善され、また、HBVの院内感染予防対策が普及した結果、輸血も含め医療に伴う感染はほとんどみられなくなりました。その結果、様々な経路を介した水平感染の大半もその姿を消すに至りました。特に、1986年からは、全国規模での出生時のHBV母子感染予防対策も軌道に乗り、これ以降に出生した世代ではHBVの感染はほとんどみられない状態になっています。
この様にHBV感染対策が進んだ現在、「性行為に伴っておこるHBV感染」のみが、いわば「手つかず」の状態で放置されています。近年、若い年令層を中心に、性行為に伴うHBV感染が拡大する傾向にあります。
B型肝炎は母子感染(垂直感染)や輸血だけでなく、知らない間(例えば、保育園でのいろいろな行為:噛みつき、尿、便、唾液、涙など)でも罹ることがあります。WHO(世界保健機関)では、世界中の子どもたちに対して、生まれたらすぐにB型肝炎ワクチンを国の定期接種として接種するように指示しています。
性交渉と、知らない間に罹ってしまう場合に対しては、はっきりした対策もなく、ワクチンのみが唯一の予防と言えます。
3歳以下の子どもは、体内に侵入するウイルスや細菌を排除する免疫の仕組みが未発達なため、HBVに感染してもしばらくは発病せず、HBVキャリアになることが多いです。それが成人を迎えた頃から、ウイルスの活動が活発化して、慢性肝炎を発病します。そのために、乳児期早期にワクチンを接種することが重要になってきます。
HBVに感染すると、急性期には劇症肝炎を発症し危篤状態に陥るということもあります。また、HBVキャリアとなれば、10〜15%の人は慢性肝炎を発症し、肝硬変〜肝臓がんへと進行する危険性が高くなってしまいます。肝硬変になると3人に1人が肝臓がんを発症しています。
肝臓がんは、がんの中でも死亡率が高く、がん全体の死亡者のうち男性で14.3%(第3位)、女性で8.6%(第4位)を占めています。その割合は、この30年で3倍にもなり、今後も増加が予想されています。
B型肝炎ワクチンは、劇症肝炎から身を守るだけでなく、キャリア化を防ぎ、将来、肝臓がんからお子さんの命を守る「肝臓がん予防ワクチン」と位置づけられます。
B型肝炎ワクチンは、大人より赤ちゃんの方が免疫がつきやすく、乳児期に接種をすると、効果は10〜20年前後続くと言われています。
母親が妊娠中に検査を行ってB型肝炎キャリアであることがわかった場合は、母子感染予防として、健康保険で接種できます。その際は、出産したかかりつけの医療機関で接種スケジュールの指示があります。
母親がキャリアでない場合は、生後2、3、7〜8ヶ月の3回接種します。具体的なスケジュールは下図のようになります。3回目は1回目から140日以上経過後です。2回目から140日以上ではありませんので注意して下さい。
「〜後の年月日を得る」には、下の表で計算すれば簡単にできます。半角数字で、 1回目接種日と140日を記入すれば3回目接種日がわかります。